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IF早過ぎたラグナロク16話 主神3

目の前には、黒髪の魔族の女がグングニルに貫かれて死んでいる。


 黒い血が床に広がり、見る者に確かな死の印象を与える。俺は呼吸を整えながら、その場に立ち尽くす。腹には敵の剣のような武器がまだ突き刺さったまま。左腕は斬り飛ばされ、絶え間ない痛みが全身を蝕む。自分が流す黄金色の神の血と、魔族の黒い血のコントラストが種族の違いを表していた。



(これで生きているということは……ないだろう)



 一瞬、胸をなで下ろそうとしたが、心が落ち着かない。なぜだろう。この女には、どこか常識外れの不気味さがある。死してなお何かをするのではないかと錯覚するほどに、異様な存在感を放っているのだ。



 少しでも安堵を得ようと、俺は慎重に彼女の表情を確かめる。黒髪が血にまみれ、顔の半分を隠すように垂れ下がっているが、わずかに見えた眼は白目をむいている。どう見ても、生きているとは考えられない。



「グングニルを回収せねばな……」



 そう呟いたが、ふと不安が首をもたげる。もし槍を抜いた瞬間、この魔族が復活するかもしれない。痛む左肩を押さえながら視線を落とし、激しく出血する自分の身体を見下ろす。このままでは自分も長くはもたない。だが、このまま槍を放置しておくわけにもいかない。



 黄金色の血が滴る腕から力が抜け、意識が遠のきかける。重傷どころではない。腹に刺さる剣のような武器が神経をじわじわと焼くようで、踏ん張るたびに痛みが込み上げる。歯を食いしばり、俺は浅い呼吸を繰り返す。



「よくも女神などという嘘を」



 そんな言葉が思わず口をついて出る。赤い民族衣装をまとった黒髪の女――いや、魔族が、黒い血を大量に流している。その姿は明らかに普通の神や女神などではない。下級神ですら血は黄金色だ。黒い血など聞いたこともない。



 だが、俺の呟きに呼応するかのように、不気味な声が聞こえた。



「だから、魔族じゃなくて女神だって何度も言ってるでしょう」



 ありえない。死んでいたはずの女がいつの間にか瞳を開き、薄ら笑いを浮かべている。その瞳に宿る邪悪な輝きは、さきほどまで白目をむいていた面影など微塵もない。



「なっ!?」



 衝撃のあまり、俺は一歩下がる。深手の傷から生温かい血がドクドクと流れるのを感じるが、その痛みさえ一瞬忘れるほどの戦慄だ。



「あなたは次に『貴様はグングニルに貫かれて死んだはず』と言うわ」



「貴様はグングニルに貫かれて死んだはず」



 意味がわからない。まるで言わされるかのように、そのまま口を開いてしまった。こいつは瞬間移動だけでなく、未来視の能力もあるのか?  得体が知れない能力を多数持つことを思うと、背筋に寒気を感じる。



「まったく……痛いじゃない」



 そう呟く彼女の腹には、依然としてグングニルが深々と突き刺さっているはずだ。神槍による致命の一撃をも、ただの“痛み”としか表現しないとは。やがて彼女はその槍を自らの腹から引き抜き、何の躊躇もなく床に放り投げた。



「ばかなっ! グングニルに貫かれて生きているはずがない!」



 絶叫する俺を、彼女はどこか退屈そうに見つめ、鼻で笑う。



「こうして生きてるじゃない。自分の目が信じられないの?」



 馬鹿にした態度。だが、グングニルの一撃さえ通じないとなれば、こいつは何者なのだ。俺は歯噛みしながら問いかける。



「貴様、一体何者なのだ? ただの魔族ではないな……魔王とかいう奴か?」



 尋ねる声に焦りが滲むのが自分でもわかる。彼女は心底ウンザリしたように肩をすくめて答えた。



「魔族だとか、魔神だとか、魔王だとか……本当に散々な言われようね。最初に名乗ったはずよ。私は3級神のエリカ。あなたを倒して主神になる女神よ」



 黒い血を撒き散らしながら、女神を名乗るなど正気の沙汰とは思えない。


 俺は首を振り、声を荒げる。



「黒い血を流す女神がいるわけがない! 嘘を言うな、魔族め!」



 こちらの怒りをよそに、エリカは一瞬考えるような仕草を見せるが、すぐに面倒そうに吐き捨てる。



「いつの間にか血が黒くなったのよね。ヘルのせいかしら……まあ、いいわ。あなたとの不毛な会話にも飽きてきたし、そろそろトドメを差そうかしら」



 武器もないままそんなことを言う彼女。だが、俺には左腕がなく、腹に剣のような武器が刺さったまま。決して油断できる状況ではない。相手は瞬間移動、未来視の能力、さらに変身や不死性さえ持ち合わせている。



 必死に奮い立たせ、俺は素手の戦闘態勢をとる。もし一撃でも入れられれば、多少はダメージを与えられるかもしれない。敵は隙だらけで、棒立ちでこちらを見ている。俺は咆哮を上げ、渾身のパンチを繰り出した。



 しかし、その腕が触れる前にエリカの姿が掻き消える。また瞬間移動か。辺りを見回すが、影も形もない。



「逃げたのか?」



 息を荒らげながらそう呟いた瞬間、腹に刺さったままの剣がひとりでに動き出す感触があった。血で濡れた刀身がまるで自ら意志を持つかのように、俺の身体から引き抜かれていく。



「なんだと?」



 混乱していると、武器がどんどん俺の体内から引き抜かれようとする。その激痛にあえぎ声を上げる。



「私の全斬丸、返してもらうわね」



 虚空から女の声が響いたかと思うと、一気に剣が抜け、大量の血が噴き出した。息を飲み、咄嗟に近くにいるはずの敵へ拳を突き出すが、手応えは皆無。姿がどこにも見えない。



(透明化か?  しかし、これはロキの能力……)



 ああ、奴は殺した相手の能力を奪う魔族なのだ――そう直感する。ロキの“透明化”、スクルドの“未来視”、フレイアの“瞬間移動”。次々と神々の能力を自分のものにしているだろう。



 視線を巡らせても、どこにも姿はない。血が流れすぎて頭が朦朧としてきた。すでに腕一本を失い、腹に大穴を開けられた状態だが、止まるわけにはいかない。



 そう思った瞬間、右腕の付け根に信じ難い衝撃が走った。何かがポトリと床に落ちる。



「ぐぅ! 何が起きた?」



 見ると、それは――俺の右腕だった。見えない斬撃によって切り落とされたのだ。両腕を奪われ、血が床に波紋を広げる。痛みと絶望のあまり視界が霞むが、俺はまだ膝をつくわけにはいかない。



(戦士として……ここで折れるわけには……)



 姿を消した敵に対処できない以上、最後の手段は待ち構えること。奴が勝ち誇って姿を現した瞬間を狙うのだ。


 俺は両腕を失いながらも、わずかに脚に力を込めて踏みとどまる。失血がひどく、意識がもう半分飛びかけている。



「オデン、言い残すことはある?」



 まさに予想どおり、目の前五歩ほど先に女が姿を現した。何とも余裕の表情で、俺をあざ笑っている。ここが最後の好機だ。体当たりしか手段はないが、俺はこれに全てを賭けるしかない。



「おおー! 俺の名はオーディンだっ!」



 雄叫びを上げ、一気に地面を蹴る。両腕がないぶん、バランスを崩しながらも体重を乗せた猛突進。エリカは醒めた目でこちらを見ているだけ。隙だらけだ。このまま突き飛ばせば――。



 呼吸が荒くなり、視界がトンネルのように狭まる。僅か五歩が果てしなく遠く感じる。あと三歩……二歩……! 身体の芯に残った力を振り絞り、最後の一歩を踏み込もうとした、その瞬間。



「みじん斬り!」



 背後から聞こえる女の声。気づけばエリカの姿がふっと掻き消えている。どうやって背後に回った?  反応が追いつかない。次の瞬間、全身を無数の刃で細切れにされた感覚が襲ってきた。



(体が……軽い……。頭だけになったみたいだ……)



 視界がくるりと回転し、自分の体がバラバラに斬り刻まれて床に散らばっていくのが見えた。叫ぶ暇もなく、すべての痛みが消えていく。まるで意識が宙に浮かぶような……いや、もう何も動かせない。



 最後に脳裏をかすめるのは、やはりフレイアの優しい笑顔。暗闇が徐々に視界を塞ぎ、耳鳴りさえ遠のいていく。



(俺は負けたのだな……だが、俺は戦士として全力を尽くした。悔いはない。もし、この魔族と正々堂々戦ったとしても、負けていたかもしれない。それほどまでに彼女は強かった。……仲間の仇を取れないのは無念だが、これも世の常だ。……どうやら、俺ではダメだったようです。トール様、後を……)



 言葉にならない思念が途切れ、俺の意識は深い闇へ落ちていった。



---




 現在のエリカのステータス



 神力……350万



 特殊能力……発明、暴食、ちょっとだけ未来視、毒耐性、無限成長、超再生、予知夢、変身、遠見、エインフェリア召喚、過去視、超神術、魅了、瞬間移動、極大神力波、叡智、ルーンの知識、グングニルの所有者




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