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IF早過ぎたラグナロク11話 復讐3

爆心地に足を踏み入れた。辺りには熱の名残がまだ漂っていて、焦げくさい匂いが鼻を突く。視線を先へ進めると、何か……炭化した物体がかろうじて残っていた。



「こ、これがエリカの死体か?」



 思わずそう呟いたものの、それが本当にエリカかどうか判別できるような状態ではない。かつての姿をまったくとどめていないのだから。体の芯に嫌な震えが走る。私が全て燃やし尽くした――その事実が、否応なく心を苛んでいた。



 いや、苛むというよりは、虚無感のようなものが広がっている、と言ったほうが正しいかもしれない。誰かの気配など微塵も感じられない荒れ果てた大地。当たり前だ。これほどの大規模な神術で焼き払えば、残るは瓦礫と灰だけ。わかっていたこととはいえ、光景の惨さが胸をえぐる。



 エリカの死をはっきりと確認するには、過去視を使えばいい。だが、今は力を使い果たしてしまった状態で、これ以上消耗するのは危険だ。ましてや、自宅に帰るために必要な風の神術さえも、満足に行使できるか怪しいほどに疲弊している。



(なぜ、ここまでやってしまったのだ……)



 自分でも信じられない。怒りのあまり、取り返しのつかない大規模攻撃を放ってしまった。感情に任せて行動した結果、見渡す限りの大地を丸ごと焼き尽くすなど――あまりにも愚かだ。しかし、ヴェルザンディを失った悲しみの大きさを思えば、つい感情が爆発してしまうのも仕方なかったのかもしれない。そこへ追い打ちをかけるように挑発してきたエリカ。あのときは、どうしても許せなかった。



「ふ、ふむ、か、帰るか……」



 そう呟いてから、足元の不安定な地面を踏みしめ、なんとか立ち上がる。帰宅には風の神術が必要だが、まともに発動できる気がしない。少なくとも、ここでじっとしているよりはマシだ。消耗しきった体をだましだまし、強引にでも力を絞り出すしかない。



 呼吸を整え、意識を集中させかけたその時――



「ウルド姉様、何をしているの?」



 突然、頭上から声が降ってきた。反射的に顔を上げると、白い羽根を生やした鎧姿のスクルドが宙に浮かんでいる。まるで見下ろすような位置取りに、思わず身構えた。ひょっとして、エリカがまだ生きていて……などと一瞬焦ったが、どう見ても妹のスクルドらしい。



「す、スクルド、ど、どうしてここに?」



 声がうわずる。大きな神術を使ったのだから、誰かが駆けつけるのも不自然ではないとはいえ、なぜこのタイミングでここに? 胸の奥がざわつく。まるで見透かされているような妙な居心地の悪さを感じた。



「何か大きな音が聞こえたから、様子を見に来ただけだけど……姉様こそ何をしていたの?」



 スクルドの言葉は穏やかそのものだが、その瞳の奥に微かな冷淡さが宿っているように見える。疲れすぎて目が霞んだだけかもしれないが、どうにも落ち着かない。ここで「エリカを殺してました」などと言えるわけがない。しかし、言い訳をしたところで通じるのだろうか。



「く、訓練をしていたんだ」



 自分でもわかる、噓くさい言葉が口をついて出る。いかにも苦しい言い訳だ。



「そうなんだ。ずいぶん激しい訓練をするのね」



 スクルドは首をかしげているが、どうやら噓だと気づいてないようだ。妹があまり賢くなくて助かった――などと思ってしまう自分自身が嫌になる。ヴェルザンディだったら、こんな白々しい嘘などすぐに見破っただろう。思い出すだけで胸に痛みが走る。



「ちょ、ちょっと熱が入りすぎてしまったんだ。は、はは」



 わざとらしい空笑いが口をついて出る。辺りを見渡しても、激戦の跡は一目瞭然だ。これを訓練だなどと信じられるはずがない。それでも、スクルドが疑っていない様子なのは幸いとしか言いようがない。



「ところで、エリカがどこにいるのか知らない?」



 スクルドが地面に舞い降り、何気ない調子で言う。エリカ――その名前を聞いただけで心臓が跳ねる。そもそも私が殺したのだ。あの炭化した物体は、間違いなくエリカの……と、思いたいのだが、形が変わりすぎて確証が持てない。



「あ、あいつなら……」



 “死体がそこに転がっている”なんて言えるわけがない。どう誤魔化そうかと頭を悩ませる。スクルドを騙すことに罪悪感を覚えつつも、今はとにかく隠し通さなければならない。



「と、遠くに行ったんだ」



 やはり無理のある言葉だ。案の定、スクルドは怪訝そうな顔をする。



「どこに行ったの?」



 当然の疑問だろう。急に姿を消す理由などないはずだし、ここまでの惨状を目にすれば、誰だって勘ぐりたくなる。私は必死に言葉を探す。



「そ、そうだな……に、人間界かな」



 口にしてから自分で呆れそうになる。次々に嘘を積み重ねて、収拾がつかなくなりそうだ。スクルドはどう受け止めるのか――



「そう……何しに行ったのかしら」



 拍子抜けするほど素直に引き下がった。姉妹という関係性を差し引いても、あまりに疑いがなさすぎる気がする。もっとも、それがスクルドのいいところではあるのだが。



「そ、そこまでは知らん。こ、ここにはいないぞ」



 喋りながら、私は自分の失言に気づく。“ここにはいない”なんて、わざわざ口にする必要があったか? スクルドはまったく気にしていない様子だが、気まずい空気だけが残る。



「ねえ、姉様、なんだか怪我をしているように見えるけど……大丈夫?」



 思わず身震いした。鉄球の破片が刺さり出血していたのを、完全に忘れていたのだ。しまった。



「あ、ああ、つい力が入りすぎて、風の神術で……切ってしまったんだ」



 また嘘を重ねる。今日一体何度妹に嘘をつくのだろう。全部エリカのせいだ。あいつが挑発なんてするから――頭の中で罪を押し付けながらも、これで通用するのか不安だ。



「そうなんだ。気をつけないとダメじゃない。家まで運ぼうか?」



 スクルドが心配そうに提案してくれる。正直、助かる。疲労困憊の身にはありがたい申し出だ。断る理由はない。エリカの件は後で考えるとして、今は身を休めたい。



「あ、ああ、た、頼む」



 口ごもりながらも返事をすると、スクルドが私のそばへと歩み寄る。あどけない笑顔が可愛らしい。しかし、なぜだろう――どこか微妙に違和感がある。いつものスクルドの笑みより、ほんのわずかだが、冷たさが混じっている気がするのだ。それでも「疲れているだけ」と自分を納得させる。ヴェルザンディの死のショックと、エリカを殺した罪悪感が重なっているのだ。些細な違和感など気のせいだろう。



「『私』に任せて。あっという間に家まで連れて行ってあげるわ」



 スクルドがそう言った瞬間、再び胸がざわついた。“私”――スクルドが自分の事をそう呼んだことがあっただろうか……。頭の中でモヤモヤと疑問が膨らむが、疲労が激しいせいか考えがまとまらない。



 さらに近づいてきたスクルドを見つめ、私ははっとする。普段のスクルドは斧を愛用していたはず。しかし、今彼女が手にしているのは剣に似た武器。まるで、エリカが使っていたような――。



(まさか……いや、そんなはずは……)



 確かに見た目も声も、どこからどう見てもスクルドだ。けれど、心に芽生えた警戒心は拭えない。ほんの一瞬でも疑った自分を恥じるような気持ちもある。しかし、その隙を突かれたかのように――



「す、スクルド、あ、ありがとう……」



 そう言いかけた私の腹に、何か鋭いものが深々と突き刺さった。呼吸が止まる。痛みに遅れて、視界がじわりと赤に染まっていく。ぎこちなく目線を落とすと、そこには剣のような武器が私の腹を貫いている光景があった。



「す、スクルド……?」



 信じられない思いで顔を上げる。目の前の妹は、今まで見たことのない邪悪な笑みを浮かべていた。スクルドがそんな表情をするはずがない。嫌な予感が、現実となって私を襲う。



「ふふふ、あなたとの姉妹ごっこ、楽しかったわよ。そして次に、あなたは『お前は死んだはず』と言うわ」



 スクルドの姿がゆっくりと溶け、黒い翼のような影が背に広がっていく。目の前にはエリカ。その姿に変わるまでの一瞬が、永遠にも思えるほど長く感じられた。



「お、お前は死んだはず……」



 思わず、エリカの言った通りの言葉を口にしてしまう。苦痛と混乱に支配され、まともに考えられない。エリカは得意気に鼻で笑い、私を愚弄するように言葉を続ける。



「あなたが全力で攻撃していたのは、私が用意しておいた身代わりの木製人形よ。わざわざ私の赤い着物まで着せてあげたの。遠くから見ていたわ。無駄な努力、ご苦労様」



 悔しさと痛みが胸を焼く。まんまと騙された。肉眼で確認できない距離での戦いになるとわかっていて、身代わり人形を用意していたのだ。あれだけの神術を行使させて力を使い果たした状態に追い込み、さらに妹の姿に化けてトドメを刺しにくる……ここまで狡猾だったとは。



「ほとんど力を使い果たしたようね。もう反撃できないでしょう?」



 確かに、身体のどこにも力が入らない。呼吸さえままならない。血がじわじわと腹部から流れ出し、意識が遠のいていく。エリカは勝ち誇った笑みを浮かべながら、私にとどめを刺そうと武器を引き抜き、再び構える。



「う、ぐ……お、お前……さ、最初からこれを狙って!」



 なんとか声を絞り出す。あの挑発から、すべてはエリカの計画通りだったわけだ。手の込んだ戦術。私の怒りと悲しみを逆手にとり、罠にはめ、騙し討ちをする。



「ウルド、あなたは私の事を嫌いだったかもしれないけれど、私はあなたの事を嫌いじゃなかったわ。スクルドが悲しむから、こんな事はしたくないのだけれど……仕方ないわね」



 エリカは冷たく笑う。



「ひ、卑怯者め! め、冥界に落ちろ!」



 声がかすれる。エリカがスクルドの声真似で「さようなら、ウルド姉様」と囁いたのを最後に、私の視界はゆっくりと暗転していく。意識が闇に沈む直前、私はただ一つの事を願った。



(誰か……フレイア様でも、オーディン様でもいい。この魔族よりも邪悪な存在を……どうか、滅ぼしてくれ……)



 願いは声にもならず、私の命運もここで尽きた。焼け焦げた大地の上に血が広がっていくのを感じながら、私は永遠の闇へと沈んでいった。



---






 現在のエリカのステータス



 神力……62万



 特殊能力……発明、暴食、ちょっとだけ未来視、毒耐性、無限成長、超再生、予知夢、変身、遠見、エインフェリア召喚、過去視、超神術






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