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IF早過ぎたラグナロク10話 復讐2

いま私は全力で空を飛び、エリカが待つ平原へと急いでいる。遠くの地平線に白い空が溶け込み、風はやや強め。視界には少し先に、エリカらしき小さな赤い民族衣装を着た姿がかすかに見える。それだけでも胸の奥が熱くなり、同時に心が張り詰めるのを感じる。



(奴は待ち構えている……絶対に油断は禁物だ)



 あのとき、ヴェルザンディたちの部隊を皆殺しにした強さは、まぎれもなく本物。接近戦になれば、きっと同じ末路をたどるだけだ。私は高度を維持しつつ、距離を取ったまま遠距離主体の神術で攻めるべきだ。かつて訓練のとき、彼女は私に手も足も出なかった――だが、それが今でも通用する保証はない。


 風を切り裂きながら、目標の平原に到着。地上を見下ろすと、やはりエリカらしき赤い姿。案の定、こちらを見上げる気配すら感じる。挑発か、余裕か。ならばその余裕を叩き潰すまで。




「つ、土よ、お、大いなる姿をつくれ……!」



 戦いの幕開けに、私は土の神術を行使し、巨大なゴーレムを三体呼び出す。一体の大きさは私の10倍はある。地鳴りをあげながら盛り上がる土塊が人型になり、大きな唸り声を上げる。


 ゴーレムの役割は、接近戦をすること。エリカがどれほど異常な剣技を誇ろうと、この大きさならそう易々とは斬れないはず。むしろ、踏みつぶされるか打ちのめされるか――彼女は逃げ場を失うに違いない。



「おおおー!」



 ゴーレムたちが低い咆哮を轟かせ、地響きを立てながらエリカへ突進していく。私は上空をくるくる旋回し、神術の準備する。奴が逃げ回ろうと、ゴーレムが足止めしてくれるだろうし、そこに遠距離攻撃を重ねればまず間違いなく勝てる。



しかし――。



ばん!



 突如として耳をつんざく衝撃音。地上でゴーレムが一体倒れているのが見えた。二体、三体目も次々に大きく弾き飛ばされ、あっさり砕け散る。


 わずか数秒で瓦礫と化した三体の巨人。息を呑む私――あまりの展開に、思わず上空へさらに逃げ上がり、過去視を使う。



(なるほど……“鉄の玉を撃ち出す兵器”。スクルドが言っていた物か)



 エリカは奇妙な道具を使い、ゴーレムを正確に撃って破壊していたらしい。しかもたった数発で粉砕するほどの威力。私の予想をはるかに上回る厄介さだ。



どん!



 再び大音響が鳴り、周囲を見回すと、黒い鉄球がこちらに向かって飛んできた。思わず急上昇で回避するが、直後に背後で爆発が起こる。爆裂した破片が背中に突き刺さり、激痛が走る。


 血が流れている。命に別状はないが、これ以上は軽く考えられない。あれはただの鉄球ではなく、爆発物を仕込んでいるのだろう。恐ろしい兵器……エリカめ、すべての準備を整えて待ち構えていたというわけか。



(ここならさすがに届かないはず)



 私はさらに高度を上げる。ここからなら鉄球も到達しないだろうが、エリカの姿も豆粒ほどになり、攻撃の正確性が落ちてしまう。とはいえ、安全と精度の兼ね合いを考えれば、これくらい距離を取らなければ話にならない。



「か、風よ、お、大いなる自然の脅威を示せ――!」



 私は風の神術を発動し、巨大な竜巻を生み出す。ゴーレムが通用しなかった以上、エリカを直接巻き込むほうが手っ取り早い。大地をえぐるほどの風の渦が、ごう音を立てて渦巻き、草や土を巻き上げる。


 やがて、視界の端でエリカが着ていたあの民族衣装らしき赤い布がくるくる舞い上がるのが見えた。あれがエリカなら、竜巻の中で切り刻まれているに違いない――。



「は、はは……や、やったか」



 思わず笑みが漏れる。それでも油断してはいけない。そこで、さらに火の神術を合成して竜巻を炎の渦へ進化させる。燃える木々や土砂が生む真っ赤な地獄。そこに呑まれれば生存はほぼ不可能。



 竜巻が鎮まりかけると、地表には焼け焦げた何かが転がっている。黒い塊がおそらくエリカの成れの果て――そう思いたいが、ヴェルザンディの事例が脳裏をよぎる。あいつは最後まで油断できない相手だ。



「し、仕上げだ。ぜ、絶対に生きているはずがないが、ね、念には念を……」



 私は水の神術も加えようと思いつく。もしエリカが炎を避けて潜んでいたとしても、水流で倒してやる。



「み、水の龍よ、ふ、深き大河の力を示せ!」



 意識を集中し、空中にうねるような巨大な水の龍を形成する。


 水の龍は地表に突撃し、火の渦の残骸を勢いよく洗い流す。水蒸気がもくもくと立ち上り、空に黒煙と白煙が交じっていく。これで隠れていたとしても、一掃されるはずだ。



 さらに最後の一撃を放つため、私はさらに巨大な火球を作り出した。



「と、トドメだ。こ、この一撃に全てをかける! ち、超神術!」



 自分の体をはるかに上回るほどの巨大火球をつくりだし、焼け野原となった平原へゆっくり落としていく。轟音とともに火柱が上がり、白い空が真っ赤に染まるような壮絶な爆炎が地表を覆う。水の龍で冷やした痕跡も、いまはすべて蒸発し、瓦礫と土砂が弾け飛ぶ。



「や、やったか?」



 血を流した背を押さえながら、上空で息を整える


 不安は拭いきれないものの、私は地上の様子を確かめるため、炎と水蒸気の入り混じる戦場に向けて高度を下げていく。もはや何も動く気配はない……はず。




「ヴェ、ヴェルザンディ、み、見ているか? わ、私が、お前の仇を取ったぞ」



 そう呟くと、込み上げる涙が胸を詰まらせる。妹を助けてやれなかった悔しさ、そしていま自分が血を流しながらも戦っている事実が、何ともやるせない。


 それでも、この焼け焦げた大地を前にして「まさか生きているわけがない」と思いたい反面、あのエリカがそう簡単に死んでくれるのか……。疑念が胸をかき回す。



 私はゴクリと唾を飲み込み、背後や左右を警戒しながらゆっくりと着地する。遠くでまだ残る炎がぱちぱちと音を立てて燃えている。そこを打ち上げ花火のように小石や瓦礫が時々落ちてきており、異様な静寂と破壊の残響が入り混じっている。



「え、エリカ、い、生きているなら出てこい」



 声に出しても答える者はいない。


 焼け焦げの塊に近づくべきか、迷う。


 しかし、やはり何も動く気配はない。このまま終わるなら、あまりにあっけないようにも思える。私は胸の奥を突き刺す不安を抱えつつ、一歩ずつ黒焦げの塊へ近づいていく。



(これで本当に終わったのか? そうなのか、ヴェルザンディ……)



 足元に広がる焼け野原を見やり、妹の名を心中で呼ぶ。勝てたとしても、私の心は少しも晴れない。妹を失った悲しみは消えようがなく、仇を取ったところで虚しさしか残らない気がする。それでも、やらなければならなかった。


 頭の傷から伝う血がポタリと地面に落ちる音が聞こえ、静かな夕刻の空気に溶けていく。



「……は、はあ」



 大きく息をつき、冷たい風を吸い込む。戦いは終わったのか、それともまだ続くのか。私には判断がつかない。ただ、この惨状を前にして動き回る姿はない。


 引き裂かれた大地や、炎の燃えかす、そして奇妙に歪んだ破片だけが無数に散らばっている。まだ熱気が漂うこの地で、私は爆心地へ一歩を踏み出した。

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