09話 罰
まずは、この世界で僕が出来ることを確認したのだ。
魔法陣を動かす鍵は使えなかったが、それ以外の事は問題ないようなのだ。
色々な姿形になる事は出来るし、この世界の物に対して影響を及ぼす事は出来たのだ。
しかし、意識だけの姿になっても、自分が生まれた世界に戻る事は出来ず、この世界からは動く事が出来なくなっていたのだ。
僕は僕自身の世界に戻り、ポラリス様に訴えようと思ったのだ。
彼女だけでも戻してもらえるようにと・・・
しかし、ポラリス様へのアクセス自体が出来なくなっていて、懇願することさえ叶わなかったのだ。
自分の行った行動が、ポラリス様のご意志にそぐわなかったのだろう。
だが、元々いるべき世界から移動した場合、必ず痕跡が残るのだ。
本来、二つの世界が接触すると、時空の亀裂ができる為、それを塞ぐ作業が必要なのだ。
それが託された仕事。
塞いでしまえば、後はまた本来の軌道を動くだけで何ら影響が無いのだ。
しかし、今回は彼女が別の世界に移動した事で、二つの世界の時空の亀裂を簡単に塞ぐ事が出来ないのだ。
彼女を戻さない限り、亀裂は塞げない。
だからこそ、何とかなるかもしれない。
既に、亀裂は出来ている頃だろう。
ただ、その亀裂の場所はこの世界に浮遊しているような物で、探し出す事がとても困難であるのだ。
ポラリス様と繋がっていれば、この鍵ですぐにその場所が特定できるはずだったが。
しかし、その場所さえわかれば、鍵が無くても元に戻る事は可能なはず。
後は僕の力で魔法陣を動かせばいいのだ。
今はそれにかけるしかなかった。
だから、まずはこの世界をしっかりと把握する事が大事だった。
そして、僕の持っている知識を駆使して、どんな事をしても彼女を戻したかったのだ。
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エルナトは焦っていたのだ。
大きなモニターを横目に、自分達の仕事場である部屋に急いでいた。
「タルフが戻っていないとはどういう事ですか?
いったい、何が起きたのでしょうか?」
私はアクセスルームであるポラリス様の扉の番人に声を荒げてしまった。
「言った通りです。
ポラリス様のアクセスが切られました。
詳しい事はわかりませんが、何らかの失敗をしたのでしょう。」
自分の部下であるタルフが失敗・・・
「タルフが失敗するなんて、あり得ない。
あいつは優秀な部下の一人ですよ。」
私は中に入ると、目の前に横たわっているタルフに驚きしかなかったのだ。
ポラリス様の扉とアクセスすることも出来ず、シャットダウンされた状態で、タルフの意識はまだ別の世界に存在しているらしい。
いったいどんな事をしてしまったのか・・・
正直、タルフが自分の部下になった時、スクールの成績を見て驚いたのだ。
記憶力、応用力、そして行動力など全てにおいてAランク。
ただ一つ欠点をあげるなら、冷静さに欠けるという事。
一時の感情で行動する事で、失敗を招きかねない。
そんな危うさは確かにあったのだ。
しかし、今までに何回も研修を行なっているのだ。
いったい何が・・・
目の前にいる抜け殻のタルフを見て、私は言葉が出なかった。
このままの状態では十日が限度。
意識が抜けた状態で、生命維持できる時間はその程度なのだ。
それまでに解決策を考えられなければ、死に至る・・・
ポラリス様の意に沿わない行動をすると重い罰が与えられるのだ。
これが、今回タルフに与えられた罰なのだろう。
しかし、必ずその解決策も同時に与えられていると言われている。
今の所タルフが行った世界に、新たに派遣された者はいないようだ。
つまりは猶予があるのだ。
タルフ自身が、解決策を時間内で見つけられれば良いのだが・・・
いや、スクール主席のあいつなら、絶対に戻ってこれるはず。
私はそれを信じたいと思ったのだ。