35話 魔人の王の協力
取り押さえられたハンナはすぐに衛兵に連れられ、地下牢に監禁されることになったのだ。
本来であれば、すぐに極刑を言い渡されてもおかしく無かった。
王妃に刃を向けるなど、どんな理由があっても許されることではなったからだ。
だが、ハンナの様子を見た王は、今回の事には裏に何者かの指示や意図があるとしか思えなかったので、話を聞く事が重要であると思ったのだ。
幼い頃からよく知っているハンナが起こした行動に、いつも冷静な王妃が、混乱し何も考える事が出来なかったのだ。
各国の来賓に危害が加わる事は無かったが、この後予定されていた王族による来賓へのもてなしは中止になったのだ。
待機して頂いている部屋で食事を振舞い、王が各部屋に挨拶に出向き、今回の事態を謝罪して回ったのだ。
どの国も、このサイレイ国より小国である為か、不満を漏らす者はいなかった。
そして、最後にサイレイ国の王は、ある特別な国の王が滞在している部屋の扉をノックしたのだ。
私は、他の部屋を伺う時と違い、緊張で手が強張っているのを感じていた。
王妃ならこんな風に感じないのだろうなと、自分の情けなさに少しだけ顔を緩めたのだ。
すぐに扉が開き、側近の者が顔を出したのだ。
飲み込まれるような深い青い瞳で、冷淡な表情のその側近は、自分が来る事がわかっていたようで、すぐに部屋に通されたのだ。
実際、自分と同じではない彼らにとっては、周りにどんな者が存在するかなど、手に取るようにわかるのだろう。
だからこそ、今回話を聞く必要があったのだ。
「魔人の王よ。
この度は、こんな騒ぎを起こしてしまい、大変申し訳なく思います。」
そう言って、深く頭を下げたのだ。
「いえいえ。
頭を上げてください。
しかし、王妃が無事で良かった。
彼女にお世話になっているのは、こちらですから。
ずっとご病気と伺っていたのに、元気なご様子を見れて安心していたのに・・・残念ではありますね。」
魔人の王はそう言って、少し微笑んだあと心配そうに呟いのだ。
魔人と言っても、見た目はスラリとした長身の青年にしか見えなかった。
そこに、恐ろしさなどは微塵も感じられ無かった。
勿論見た目と違い、人間とは比べ物にならない強大な力を持っており、気の遠くなるほどの長い年月を過ごして来た事は心得ているのだ。
「王妃は、まだ気持ちの整理がつかないようで、私のみのご挨拶で大変申し訳ありません。
実は・・・謝罪と共に、この度の事のご意見も伺いたいと思いまして参上いたしました。」
「・・・というと?
ただの侍女の反旗と言うわけでは無いと?」
魔人の王は穏やかな表情を変えずに、私をまっすぐに見たのだ。
「ええ。
あの侍女は、我らの幼少期より支えてくれる信頼ある者でした。
あのような行動をする者では無いはずなのです。
我らにはわからない何かの力が作用したとしか思えないのです。
魔人の方々であれば、それを感じる事ができたのでは無いかと、ご相談に来た次第です。」
「なるほど。
まあまあ、立ち話はなんですので、座ってください。」
そう言って魔人の王は微笑んだのだ。
「そうですね。
何やら弱い力ではありますが、精神支配の類の力が一瞬働いたのを気づきましたが。
それが関係しているのかもしれませんね。
ただ、あの場所に何者かがいたと言うわけでは無く、何かの仕掛けがあったのではと思いますよ。
あの行動を起こさせるような、トリガー的な物があったのではと。」
「では、あの行動をするように仕掛けた者がいたと言う事ですか?」
「すでに、魔法はかけられていたのかと。
・・・あの侍女の最近の身辺を、洗ってみるのが良いかと思います。
実際、あの場に魔人がいれば、すぐにわかりますので、我々が拘束できたと思います。」
「ありがたい。
本人の意思では無いことがわかれば、極刑を下さなくて良いはず。
・・・実は、我々に害をなす者として想像していたのは人間であったのです。
王妃は、人間と魔人の方々との意義ある交流に力を注いできました。
それを良しとしない人間達がいる事は理解していたのですが、魔人の方でもその様な考えの方もいるのでしょうか?」
その言葉に魔人の王の側近の者が一歩前に出たのだ。
そして表情を変えず、青い目を光らせ即答したのだった。
「我が国では、王の意見が絶対であります。
それを不満に思う者がいれば、すぐに見つけられ処分される事でしょう。」
側近の者は早口でそう話すと、すぐに元の場所に戻り、目を閉じたのだ。
それを見た魔人の王は、すぐに優しく付け加えたのだ。
「確かに魔人の国では、この者が言う通りかもしれません。
しかし・・・私の目の届かない者もいるかもしれません。
例えば、魔人の国から逃亡してこちらの国に来ている者とか。
しかし、魔人が関与している可能性があるのであれば、私も知らんぷりは出来ませんよ。
側近をしばし、滞在させていただいてもよろしいですか?
お力になれるかと思いますので。」
魔人の王はそう話すと、側近の方をチラッと見たのだ。
「それはありがたいお話です。
ご協力頂ければ、心強いです。」
そう言って私は頭を下げたのだ。
そして、今後の話がまとまりホッとして部屋を退出しようとした時、魔人の王が声をかけてきたのだ。
「そうそう、今回の事には無関係だと思いますか、少し気になる事が。
王妃の近くにいたもう一人の侍女。
彼女は・・・何者ですか?」
私はドキリとして振り返ると、魔人の王は先程と同じ穏やかな表情ではあった。
しかし、真っ直ぐに私を見る瞳は、全てを見通しているとしか思えなかったのだ。




