25話 城での遭遇
ハナは王妃のたっての希望で、式典の数日前より城の侍女として生活をする事になった。
ハナは侍女頭のハンナの遠縁の者という事で、行儀見習いの為に、城でしばらく過ごす設定にしたのだ。
そして、普段はベールで黒髪が目立たないようにして過ごす事にしたのだ。
ハンナの仕事は、王妃の世話や他の侍女達への指示、他部署との連携など多岐にわたっていた。
そのハンナと一緒に王妃の世話をするという事にしたので、王妃の部屋に出入りするのも問題なかったのだ。
しかし、実際は王妃の世話ではなく、王妃の身辺に注意を払い、話し相手になるだけで良いと言われたのだ。
そして空いた時間には、与えられた自室で薬の勉強や調合などする事も許されたのだ。
それも、王妃がハナに興味が持っていた事が大きな理由だったのだ。
「ねえ、タルフ。
今日から城暮らしなんて、すごいことですよ。
それも、ここで薬の調合も可能だなんて。
正直、私がここに呼ばれる理由がわからなかったのです。
ソウ様のお手伝いならともかく、王妃様の近くで私が出来ることなんて無いですからね。
ただ、お薬の勉強という名目で、こんな素晴らしい場所でも実験が出来るのであればと、このお話をお受けしたんですよ。」
ハナはとてもウキウキしながら、荷物をほどいていた。
「そうだね・・・」
僕はそんなハナを横目に、早く犯人探しが終わるようにと思っていた。
僕はハナの横で転がると、前足で髭を触りながら考えたのだ。
実は、さっきから城の内部で感じられる気配を探るため、意識を集中していたのだ。
だが、この城の中には、魔人の様な強い力を持った者を感じる事が出来なかったのだ。
人間を超えた存在であれば、僕の探知に引っかかるはずなのだ。
王妃の懸念するような人物はいないようなのだが、自由に出入りできると考えると、今はここにいないだけなのかも知れない。
だが、リミットはあるわけで、それまでに何かしらのアクションが起きるはずなのだ。
そこを捕まえるのがベストだろう。
それにしても、何でハナまでここに呼ばれたのだろう?
ハナの風貌が珍しいからか?
いや、あの王妃がそんな見た目の違いの興味本位から呼ぶとは思えないな・・・
そんな事を考えていた時、ハンナと王妃がハナの部屋に訪れたのだ。
王妃は部屋に入るなり、辺りを見回したのだ。
「この部屋は不思議な匂いがするな。」
「王妃様。
この度は私のわがままを聞いて頂きありがとうございました。
この匂いはある植物を使い、薬とした物の匂いで・・・不快な思いをさせてしまいましたでしょうか?」
ハナはひざまずいて、王妃を心配そうに見上げたのだ。
「いや、問題ない。
そうか、薬か。
なるほどな。
夜にでも、色々話を聞かせてもらう事にしよう。
だが、今は来た早々頼みがあるのだ。
今度、王の即位十年の催しで使用される部屋をハンナと一緒に見てもらいたいのだ。
ハナの目で見て、何かおかしなところが無いか確認してもらえれば良いだけなのだが。
私が本来行くべきなのだが、病にふせっている事になっているからな。
頼まれてくれるか?」
「私でよろしければ、もちろんです。」
ハナはそう言うと、僕を抱えてニコリとしたのだ。
王妃は抱えられている僕の頭を撫でると満足そうに笑みを浮かべだのだ。
僕も王妃に気に入られた事もあり、ハナと一緒に行動をする事を許された。
つまり、隠れる必要がなくなった訳だ。
その後すぐに、僕達はハンナの指示通り一緒に会場となる部屋に向かったのだ。
ハンナは王妃と同じくらいの年齢に見えた。
しかし、その落ち着いた雰囲気でテキパキと行動する姿は、貴族出身のお嬢様というイメージとは縁遠く、王妃からも信頼されているのも頷けたのだ。
ハンナの後をしばらくついて行くと、とても大きな扉が目に入ったのだ。
入り口には兵士が二人待機しており、そこは普段から怪しい者が入ってこないように警備しているという。
その部屋は式典を行う場所の為、怪文書が届いた時から常時兵士を配備させていたのだ。
入り口の兵士がハンナの顔を見るとすぐに頭を下げ、重たそうな扉を開いたのだ。
扉の向こうはとても広いホールとなっており、豪華な装飾や照明にハナと僕は圧倒されたのだ。
そして、大きな窓からは中庭にも出れるような造りとなっており、この城の中でも一番と言っても良いくらいの素晴らしい場所であったのだ。
今回の式典では隣国の王家も招待されており、サイレイ国の力をアピールするにも、もってこいの場所なのだろう。
僕はハナの腕からすり抜けると、すぐに中の様子に集中したのだ。
特に僕達以外の生体反応は感じられず、色々なエネルギーが加わった痕跡も見つけられなかった。
今の所は、問題ない場所というのが僕の見解なのだ。
「ここは特に問題は無さそうですね。
私は中庭の方を少し見てきます。」
ハンナはそう言うと、窓の外で待機していた兵士と共に、テラスから中庭に向かったのだ。
「ねえ、タルフどうかしら?
何か危険な感じはあるかしら?
・・・それにしても、豪華な部屋ですね。
ため息がでます。」
ハナはそう言って辺りを見回したのだ。
「今のところ、問題は無いかな。
ただ、特殊な能力がある者であれば、いくら警備を強化してもすり抜けて来るだろうね。」
「まあ、そうでしょうけど、隅々まで確認してみましょう。
王妃様は今はお元気そうですが、いつ襲われたりするかわからないですよね。
私、思うんです。
今、色々と調合している薬が、上手く使える様になれば、王妃様を守る事もできるかも知れないって。
タルフの鑑定の結果だと元々の効果の何倍もの働きがあるばすなんですよね?」
「それは数値での話で、実際その通りの効果が現れるとは限らないんだよ。
悪影響も強く出るかも知れないんだからね。
やはりそんな簡単に人には使えないよ。」
「私が自分で試してもいいんですけどね・・・」
ハナはそう言うと、とても残念そうな顔をしたのだ。
その時、急に嫌な気配を全身で感じたのだ。
何だろう・・・中庭から何か向かって来る・・・
今までこの城では全く感じる事がなかった気配。
人ではない何か・・・
僕は急いでハナを近くに呼び寄せると、中庭をじっとみたのだ。
すると、黒い影の様なものがゆっくり一歩一歩近づいて来るのがわかったのだ。
「来る!
ハナは僕の後ろに!」
「タルフ、どうしたのですか?
何が来るんですか?
私には何も見えませんよ。」
そうか・・・ハナには見えないとなると、姿を透明化させている訳だな。
だが、そこにエネルギー体が存在する事は、僕には見え見えなんだよな。
こいつが、あの怪文書を置いた犯人なのか?
だったら・・・こちらも同じ事をしてやろう。
丁度、この部屋には僕とハナしかいないのだしね・・・
僕はニヤリとして、ある行動に出たのだ。




