22話 人間至上主義
横にいたハナは大きな黒い瞳を輝かせてソウの腕を掴んだのだ。
「ソウ様。
すごいじゃないですか?
是非、王様の力になってください。
私も協力させていただきます。」
「いや・・・しかしハナ。
私ではかえってご迷惑になるかと思うんだよ。
所詮は街の薬師なのだよ。」
ソウは青ざめた顔で、首を大きく横に振ったのだ。
「もちろん、助手のお嬢さんも一緒に。
あなたが・・・この国の者では無いのはわかっていますよ。
詳しいお話を聞きたいと思っていました。」
王はそう言うと、またニコリとしたのだ。
その言葉にハナはドキリとしてソウをゆっくりと見ると、観念した顔をして頷いたのだ。
実はハナの姿に疑問を持たれた時に、どう説明するかをソウは考えていたのだ。
ハナは自宅近くの森で倒れていたところを、子供達が発見した事。
彼女にはなぜか以前の記憶がなく、自分が何者なのか分からなかった為、記憶が戻るまで自宅で面倒を見ているという設定なのだ。
「なるほど。
しかし、先程王妃と診察方法について話していたね。
覚えている事もあるのかな?」
王はハナの顔を覗くように見ると、ハナは少し動揺しながらも、王をしっかりと見て答えたのだ。
「断片的ですが・・・治療や薬については覚えている事が多いです。
そのような仕事をしていたのかもしれません。」
王がハナの言葉に納得したかは不明だったが、それ以上はハナの素性について質問することは無かった。
「・・・しかし、私どもよりもこの国には軍部の方や有識者も沢山いらっしゃいます。
その辺りのご協力は・・・」
その言葉を聞き、王妃は立ち上がりソウやハナの前まで行くと、座り込んだのだ。
「ああ、それも考えた。
だが、やはり城の中に普段出入りしている者は、除外したいのだ。
この部屋にいる者は、私達が幼少期より仕えてくれている信頼おける者のみなのだよ。
だが、残念な事に薬師がおらんでな。
何かあった時に対応出来る薬師が必要だった訳だよ。
我々に利害関係がない者でな。」
王が話していた時には、足を組みながらくつろいでいた王妃は、ソウとハナの前に行くと、真剣な顔で話しニヤリとしたのだ。
「頼まれてくれて助かるよ。
解決した暁には、その働きに対して褒美を考えておくので、よろしく頼むよ。」
「褒美なんて滅相もない!
何が出来るかも分からないのですから、用意する必要などありませんよ。
王室の力になれれば、それだけで私は満足でございます。」
王妃はまだ承諾していないソウの肩を叩くと、ソウはビクッとしてついそう言ってしまい、頭を下げたのだ。
「なるほど。
調べた通りだな。
患者であればお金が払えなくても駆けつける薬師だと聞いていたが、本当に欲が無いのだな。
では、何でも良いので其方の希望を一つだけ聞こうじゃないか?
もちろん、こちらが出来る事に限りはあるがな。
まあ、考えておいてくれ。」
王妃はそう言うと、またベッドに戻り腰掛けたのだ。
「あの・・・一つだけご質問をよろしいでしょうか?」
ハナは王妃や王を見て、単純な疑問を投げかけたのだ。
「あの・・・
王妃様は本当に今回の怪文を置いた者が誰なのか、全くわからないのでしょうか?
もしかしたら、もうある程度目星がついているのでは?
失礼ながら申し上げますが、王妃様はとても聡明でいらっしゃいます。
すでに王妃様の頭の中では、考えている事があるのでは・・・と。」
王妃は身を乗り出して、ハナを見て目を輝かせたのだ。
「ほう、黒髪の娘・・・そう思うか?
正直、手紙を置いた人物が誰かはわからないが、一つだけわかっている事がある。
これは明らかに、人間至上主義を唱え、魔人との共存を阻む集団の仕業なのだよ。
手紙を見るか?」
王妃がそう言うと、王は黙って懐から白い封筒を出し、ソウとハナに見せてくれたのだ。
「その封筒に押された印・・・
つまりこれは、私を含め王室への挑戦なのだよ。
そして、その集団の手先がこの城の中にも存在すると言う事。」
王妃の声は徐々に大きくなり、表情も厳しくなったのだ。
「人間至上主義の集団・・・もしかして、『ロゴス』のことでしょうか?
昔から噂には聞いておりましたが、本当に存在するとは・・・」
ソウはさっきまでの王や王妃の前のビクビクした態度と打って変わり、驚きの表情の後にとても難しい顔をしたのだ。
何もわからないハナではあったが、王妃やソウの表情を見ると、自分が思う以上に大変な事が起きている事だけはわかったのだ。
そして猫の姿のタルフは、のんびりと床に寝そべっていたのが、見た目とは違い王や王妃の言葉を漏らさずデータとして保存し、この世界においての最適な解決法を考えていたのだった。




