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02話 彼女の事情

「お嬢様、お父上と兄上様達がもうすぐ戻られます。

 早くお部屋にお戻りください。」


「ええ、分かったわ。

 すぐに戻ります。」


 私は急いで蔵から出ると、母屋にある自分の部屋に駆け込んだのだ。

 丁度その時、帰って来た父上達の廊下を歩く足音がドタドタと聞こえてきた。

 私はほっとして胸を撫で下ろしたのだ。

 

 私の家は、昔から続く薬師(くすし)の一族であった。

 私には二人の兄がおり、彼らは父上を手伝い同じ仕事に携わっていた。

 しかし女である私は、何故か一切関わることが許されない世界であった。

 それでも、私は父上や兄上達がやっている仕事にとても興味があった。

 お屋敷の中庭の先には立派な蔵が建っており、その中には色々な薬や道具、書物など、父上達の仕事に関わるものが全て置かれていたのだ。


 実は私は誰もいない蔵に、内緒で出入りしていたのだ。

 中に入るとたくさんの乾燥した草木が置いてあり、蔵の中はその独特の匂いで溢れていた。

 それは、何だかとても落ち着く香りに感じたのだ。

 蔵の中には、それらの草木についての説明や薬の作り方などが載っている書物もたくさん置いてあり、内緒で入るたびに私はそれを読みあさっていたのだ。

 私が住んでいる国では、女性が自由に生きられる場所では無かった。

 あと数年もすれば親の決めたところに嫁がされるのだろうと、容易に想像も出来たのだ。

 それが私にとって幸か不幸かはわからないのだが、私の意志はそこにはないのだ。

 だから、気になる書物について読めるのも、今だけなのだと思う。


 私の母は私が小さい頃に亡くなってしまい、顔すらわからない。

 厳しい父やその言いなりである兄上達には、遊んでもらった記憶はほとんどなかった。

 私は、孤独だったのだ。

 そしてこのお屋敷にずっと仕えてくれているトキさんが、私の一番の理解者であり、母親がわりであった。

 トキさんは影ながらいつも味方になってくれ、この家で心を許せるのは彼女だけであったのだ。


 ある時、いつものように父上達が出かけた後、そっと蔵の中に忍び込んだ。

 トキさんが父上達が来るかを見張ってくれていたので、今まで見つかる事は無かったのだ。

 最近は毎日のように蔵に入り込んでいたので、そこに置かれている物や書物についてほとんど把握できるようになっていたのだ。

 ここにある草木を用いた薬を使う事で、色々な(やまい)を治すことができるなんて、本当に素敵な仕事なのだと思ったのだ。

 私が男だったらと何度思ったことか。


 しばらくすると、扉を叩く音がした。

 扉に耳をつけると、外の声が小さく聞こえたのだ。


「お嬢様、どうやら今後お天気が荒れそうですよ。

 旦那様達もまだ帰って来ておりませんし、お早めに戻っていただいた方がよろしいかと。」

 

 トキさんが声をかけてくれたのだ。


「わかりました。

 すぐ戻ります。」

 

 私は外に聞こえるように、大きな声で返事をしたのだ。


 さっきまではとても良いお天気だったのに・・・


 そんな中、外は雨が降り出し雷までが鳴り始めたようで、蔵の中でも、急に天候が悪化したのがわかった。

 そして、蔵に入った痕跡を残さないように書物などを元の位置に戻し、急いで外に出ようとした時である。

 雷の大きな音と衝撃がこの蔵全体に響いたのだ。

 私はその場で立っている事が出来ず、ランタンを持ちながら座り込んだのだ。

 それはまるで、窓のない蔵の中まで明るく光ったように感じたのだ。

 私は怖くて、床にうずくまったのだ。


 この蔵に雷が落ちたのかもしれない・・・

 あれ、それだけじゃないかも・・・地震?

 揺れがどんどん大きくなってる・・・

 怖い・・・この蔵、潰れてしまうのかしら?


 しかし少しすると、大きな揺れも無くなり、外からの雷の音も聞こえなくなったのだ。


 ・・・トキさん、大丈夫だったかしら?


 私はゆっくりと立ち上がり、蔵の入り口の扉に耳をつけたのだ。


 大丈夫そう・・・


 そして扉を開けると、雨はいつのまにか止んで雲の間から光がさしていたのだ。

 しかし、ホッとしたのも束の間、私は目を疑ったのだ。

 何故か自分の住んでいたお屋敷は消えており、目の前には見たこともない光景が広がっていたのだ。

 私は急いで扉を閉めて、目を閉じたのだ。

 自分の心臓の音が、まるで蔵全体に大きく響いてるように感じたのだ。


 ・・・今のは何だったのかしら?

 幻覚・・・まさか・・・


 そして呼吸を整えた後、もう一度ゆっくりと扉を開けたのである。

 すると、さっきと同じように暖かい光と柔らかい風を頬に感じることが出来たのだ。


 しかし、そこはやはり見たこともない場所で、住み慣れたお屋敷を目にする事は出来なかったのだ。

 

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