01話 プロローグ
僕が知っている事といえば、世界は一つでは無いという事だ。
多くの世界が点在し、そしてそれらは絶えず動いているのだ。
だから、いつの間にか世界同士が近づいたり離れたり、なかには重なり合ってしまう事がある。
それは接触して初めて、お互いの存在を認識するのだ。
本当はすぐ近くにある世界であっても、全く気付く事が無い。
それはとても素敵な遭遇にも思えるが、最終的にはそれらの世界の混乱や争いを招く事となるのだ。
だからこそ、僕達の仕事が重要になってくる。
多くの世界がお互い干渉しない様に、管理する大事な仕事・・・
それは、遥か昔から変わらないポラリス様のご意思であるのだ。
僕の生まれた世界は、他の全ての世界を見渡せる場所に存在している。
そしてこの世界は、他の世界と違って、唯一動く事がなく一点に留まっているのだ。
ここは高度な科学の発展した世界でありながら、それとは全く異なる特異な能力を持つ者が一定数存在するのだ。
つまり科学では未だ解明できない力・・・
その特別な力を持つ者が集められ、他の世界を管理する力を学び、ポラリス様のご意思に従い動くのだ。
そう・・・僕達はポラリス様に選ばれし者なのだ。
そして今回の仕事が上手く遂行できれば、僕も一人前と見なされるのだ。
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僕は初仕事に向かう前に、温かい飲み物を飲みながら今回の仕事の資料に目を通していた。
少し高めの機械音が至る所から聞こえてくるこの部屋を、僕はあまり好きになる事は出来なかった。
モニターに映し出された情報は、すでに頭の中のデータボックスに存在する訳で、今からインプットする事は何も無いのだ。
データを自分の頭の中に入れる時に、全身に響くような音も僕は不快でならなかった。
科学の発展により、人の脳を最大限使用する事が出来るようになった今、それは特に珍しい事では無かった。
しかし、僕にとっては違うのだ。
僕はこの世界に馴染めていないのかもしれない。
遥か昔の自然溢れた世界を映像で見るたびに、僕の心は踊ったのだ。
この仕事についた理由の一つが、そんな世界を感じてみたいと思ったからかもしれない。
僕はゆっくりと深呼吸をして、自分の手のひらに視線を向けたのだ。
どうやら、僕はいつの間にか緊張していたのだ。
その時、エルナト主任が背後から僕に近づき、勢い良く両肩に手を置いたのだ。
「主任、驚かさないで下さいよ!」
僕は持っていたマグを落としそうになったのだ。
主任はそんな僕の顔を、ニヤニヤしながら覗き込んできたのだ。
「タルフ、どうだ、やれそうか?」
「もちろん、大丈夫ですよ。
今まで多くの先輩方の仕事に同行させていただきました。
やるべき事はわかっています。」
「お、さすが優等生。
スクールを首席で卒業した優秀な学生だったよな。
しかしな、お前はどうも落ち着きがない。
どこに行ってもキョロキョロと周りを見て、集中出来ていない事が多いだろう?
まだまだ心配だな・・・
まあ、いつかは独り立ちしないとな。
だが、忘れるなよ。
時間の流れは一定ではないからな。
いつでも余裕を持っておくんだぞ。」
「わかってますよ。
確かに以前はそんな事もありましたが、今は大丈夫ですよ。
では、行ってまいります。」
僕はそう言うと自分の席を立ち、頭を下げて初仕事に向かったのだ。
エルナト主任は僕よりも十歳以上年上にもかかわらず、とても気さくで、よく声をかけてくれるのだ。
ただいつも、心配しているのか、おちょくっているのかわからない人で、主任の本心をそう簡単に読む事が出来ないのだ。
しかし、今回だけは心配して来てくれたと思いたい。
多分、僕の緊張をほぐしに来てくれたのだろう。
僕達の仕事は、一言で言うと世界の管理。
異なる世界が接触したり重なり合うと時空が歪み、二つの世界を繋ぐ入り口のようなものが出来てしまうのだ。
それが、一つの時もあれば、複数存在することもあるのだ。
僕達はその時空の亀裂を塞ぎ、それぞれの世界に影響を及ばさないようにしなければならない。
僕は、胸元にある真新しい鍵と時計を見たのだ。
これが一人前の証。
仕事をする上で、とても大事なものなのだ。
僕はその時計の何本かある針を見て時間を確認すると、初仕事の場所に急いだのだ。
だが、その時の僕はまだ知らなかった。
僕の判断が、一人の少女の運命を変えてしまう事を・・・




