相13
都心近郊で行われる『箱庭発表会』で観察結果を発表する為、私は今、高速鉄道の電車に乗っている。
スライドする資料はもう変えられないので、口頭説明文を何度も読み返し書き直す私を、夫が隣で心配そうに見ていた。
「そんなに不安なら、私が発表しようか?それか、説明は見鷹君にしてもらうとか・・。」
「秀島相一って世間を騒がせる有名人だし・・『わくフラ』の発売は10年以上前の復刻版が最後にもかかわらず、とても知名度が高い乙女ゲームなの。・・ロボット工学研究とは無関係の私が発表しないとっ。」
「別に大丈夫だと思うけど・・。」
流行の話題に疎い夫はピンときてなかったが、少し離れて座っていた見鷹君は自分の名前を出され、そわそわしていた。
遠距離恋愛している彼女と久しぶりに会える見鷹君は、いつもはよれたTシャツだが、今日はサマージャケットを着て、おしゃれ伊達眼鏡をかけていた。
***
私が『箱庭』に取り入れた乙女ゲーム『わくわくフラーグ学院』の制作者である『秀島相一』氏は、小さなアプリゲーム会社の社長だったのだが・・・大手ゲーム機企業との交渉の一部をSNSで拡散し、ゲーム機ユーザーの不満と同調させて交渉に優位な立場を獲得した、超やり手だった。
SNSアカウントを大量に買った自作自演がばれた事もあったが、『わくフラ』の二次創作を全面的に認めたことで、プレイヤーやゲームファンの圧倒的支持は衰えなかった。
こうして中東の大富豪をスポンサーに得たのだが・・・それだけにはとどまらず、遂にはその大富豪の親族と結婚するまでに至っていた。そして、近頃始めた画像投稿SNSに、贅を尽くした派手な生活を発信しているので、ゲームに興味が無い多くの日本人にもその名は知られている。
「遊ばせたいのかねえ、造らせた『箱庭』で。」
私は、時代の寵児と言って過言でもない秀島氏のこの言葉が、ずっと引っかかっていた。
秀島氏は、『箱庭』を作らせ審査する円城寺博士のことを、指して言っているとは思えなかった。それならば「遊びたいのか」だ。
この言葉をの真意を私は理解できなかったのだが、私の作った『箱庭』で遊んで欲しい人がいた。
私の姉、『裁刃ゆきひ』だ。
姉は病に倒れてから、学校へ通えなかった。愉快でおかしいフラーグ学院の学生生活を楽しく遊んでもらいたいと思った私は、『姉の分身』を箱庭に作ることにした。
『悪役令嬢のイコリス・プラントリー』の生年月日を、『裁刃ゆきひ』の生年月日にするのだ。
姉も私も、悪役令嬢の『イコリス』には親しみを持っていた。
『イコリス』と遭遇すると、魅了で攻略対象キャラの好感度をガンガン下げてくれる。
その後好感度を上げ直すと、攻略キャラのおもしろモーションスチルがまた見られるのだ。再度見たモーションスチルは、毎回、間違い探しのように微妙に変更点が有った。
私達は、わざと悪役令嬢と遭遇しては好感度を上げ直し、おもしろモーションスチルを繰り返し見て笑っていた。
『イコリス』が姉の分身と決まれば、私は攻略対象キャラ達の設定に尽力するほかなかった。
攻略キャラの生年月日を秀島氏の生まれ年にして決定したステータスだと、『わくフラ』の攻略キャラとはズレが生じてしまう。
王侯貴族については、一族ごとにざっくりとした特有の性質を企画仕様書に書いていた。例えば、王族はカリスマ性や統率力を持ち、理性的で自尊心が高い、ケーナイン一族は正義感が強く義理と人情に厚くて、身体能力が優れている、などだ。
秀島氏の分身の『アイ』だけなら、これ以上は手を加えず自動設定に任せるが、姉の分身が存在するからには、妥協は出来ない。
私は、秀島氏の生まれ年の生年月日を用いた『メッセージ占い』から導きだしたステータス増減に加えて、手動でステータス値を操作し『わくフラ』の攻略キャラに出来るだけ近づける事にした。
攻略キャラ達は、キャラクター設定における4分の3の遺伝要素と4分の1のランダム要素を排除し、占星術から導いた増減と私の手動操作だけで、ステータス値の全てを確定しておくのだ。
ステータスは2300項目あるのですごく大変な作業だったが、『アイ』と同級生だが秀島氏の生まれ年ではない『イコリス』を紛れ込ませるには、手動によるキャラクター設定は都合が良かった。
《少しネタバレ》
転生者については、二転三転する予定です。
見鷹君のおしゃれ伊達眼鏡は伏線になっています。




