哀9
鼻の付け根に集まる三角の前髪で分かりにくいが、ファウストは眉間に縦皺を刻み額に血管を浮かび上がらせ、険しい顔で立ち尽くしている。
「うわっっ。ファウスト・・・。」
「・・・フラリス、なぜ驚く・・・。何の話をしているんだ・・・。」
「だって、滅茶苦茶怖い顔してるんだもん。」
「イコリスは今、レンジーがキャルクレイに振られた理由をフラリスに話していたところだよ。」
ファウストの顔が怖すぎたので、すぐ状況を伝えた。からかう余裕は俺には無かった。
「ああ、ハル・エボニーと婚約したキャルクレイか・・・。レンジーを振っていたのか。」
「レンジーは男らしくて格好良い感じだったでしょ。キャルクレイの好みとは真逆なのよね。」
「・・レンジーに言ってあげた方が良いのかな。傷口に塩を塗ることにならない?」
イコリスから伝えられた事実を言うべきか、フラリスは迷っていた。
「傷つくかもしれないが、告白が遅れた後悔は無くなるだろう。」
トゥランが色恋沙汰の助言をするとは、身につまされるのかもしれない。
「ファウスト、アイか母親に何かあったのか?家の都合で遅刻すると聞いたが・・・。」
生徒会室で俺達と話した翌日、アイは登校してこなかった。
送迎担当だったジェネラスから家の都合で遅れると聞いたが、昼までには登校せず、ファウストも一限から授業に出ていない。
ファウストの顔が元に戻ったので、俺は直ちに質問した。
「アイは今日、欠席になった。・・アイとアイの母親は元気だよ。心配はいらない。・・・交流計画申請書について話があるから、イコリスとサイナスは今日も放課後に生徒会室へ来てくれ。」
心配いらないと言うが昨日の今日だ。イコリスは気落ちしたように下を向いた。
「イコリスも同級生と勉強するの?それとも市街地へ出かけるの?同じ官僚クラスの生徒との交流?」
「・・フラリス、反省文は書けたのか?勉強会の成果も証明しないと、この先の申請は通らないかもな。」
「え?勉強会の成果の報告義務は無かったよね。反省文と合わせて提出しなきゃいけないの?」
「女生徒しか参加していないのを詐っていたのだから、それなりの結果を伴ってないと、今後の交流計画についての信用は低いだろ。」
「言われてみればその通りかも。・・気合い入れて、図書室で反省文を作成するよ。」
「もう午後の授業が始まる。続きは放課後にしろ。授業中に反省文を作成したりしないで、ちゃんと授業は受けろよ。」
「わかってるよお。更に評価を下げるようなことはしないって。」
フラリスのイコリスへの追及を、ファウストは遮って煙に巻いていた。
午後の授業が全て終わり生徒会室へ赴く為に席を立つと、イコリスの前に『エルード・イータ』が近づいて来た。
手には一枚の印刷物を持って、丸い扇子の奥では無表情のイコリスに優しい笑顔を向けている。昨日と違って、後ろにガルディは居ない。
「イコリス様。氷菓子店でメニュー表を貰ってきましたよ。」
エルードが行った氷菓子店は、牧場直営の工房で製造された色々な味の氷菓を、いくつか組み合わせて焼き菓子や容器に盛るらしく、たくさんの種類の氷菓がメニュー表に印刷されていた。
「まあっ。わざわざありがとう。」
「・・イコリス。生徒会室へ行かないと・・・。」
「・・・そうね・・・。ごめんなさい、エルード。今日も生徒会室へ呼ばれているの。」
「・・そうですか。気にしないでください。じゃあこのメニュー表、渡しておきますね。」
「エルード、それは君が持っておいてくれ。後日改めて味の感想と共に、イコリスへ見せてあげてくれないか。」
「サイナス!」
エルードとの交流の後押しに、イコリスは瞳を輝かせて俺を見た。
「!まかせて下さいっ。じゃあまた、日を改めてっ。」
うるうるしたイコリスの瞳を見たエルードは、ほのかに頬を染めて承諾した。
教室の端から俺への冷たい視線を感じたが、怖くはなかった。
それはガルディとトゥランより送られたもので、ファウストは午後の授業も欠席で不在だったからだ。




