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笑ってはいけない悪役令嬢  作者: 三川コタ
哀切 悪役令嬢 編
41/155

哀5


 イコリスは丸い扇子の位置をいつもより上にずらし、青紫の瞳を座っているファウストから隠した。


「エルードにクラスの生徒と氷菓子店へ行かないかと誘われたんだ。」

「ガルディ・モロークか・・・。」

 俺はガルディの名前は出してない。・・ファウストは、イコリス周辺事情についての洞察力が鋭かった。


「・・・イコリス、市街地の氷菓子店だと店舗内ではなく、屋外にある椅子とかで食べる事になる。もし、屋内で氷菓子を提供していたとしても、個室は無いだろう。顔に被った袋は外せないんだ。エルード達と一緒には食べられないよ。」

 扇子で瞳を隠したまま、イコリスは黙っていた。


 俺達の学院での昼食は、用意された個室で済ませている。

 いつも二人だけで食事をしており、トゥランとフラリスも俺達の食事が終わる迄は入って来ない。唯一、魅了が効かないファウストは、昼休みもアイに張り付いていた。


「私が貴族街の個室のある洋菓子店を予約するよ。サイナスと3人で、放課後食べに行こう。」

 ファウストから外食を提案されたが、横から見たイコリスは、落ち込み沈んだ顔つきをしていた。

 イコリスも難しいとは思っていただろうが、初めて同じクラスの生徒に街へ誘われたのだ。氷菓子を食べられなくても、放課後をエルード達と市街地で過ごしたいという思いがあったようだ。


「・・・気を遣ってくれて、ありがとう。どうしても甘いものが食べたいわけじゃないから大丈夫よ・・そろそろ試験前だしね。」

「イコリスの成績は下の中だからな。」

「サ、サイナスだって理数系以外は下位じゃない。」

「俺は宰相にならないから、上位じゃ無くて良いんだよ。今のまま、総合点が中位の位置で。」

「一族の皆は、ゆくゆくはサイナスが宰相だと思ってるでしょ。」

「俺は思ってないよ。宰相にはならない。絶対にー。」


「・・・イコリス・・・。」

 沈んでいるイコリスの気を紛らわせようと、俺はちゃちゃを入れたのだが、ファウストが俺達の軽快なやり取りを遮った。

「せっかくフラーグ学院に通っているのに、こうして話すのは3ヶ月ぶりになってしまった。だからこれからは放課後に、この生徒会室で時々話さないか。」

「・・・生徒会業務の邪魔じゃないの?」

「邪魔になんか、ならないよ。資料の整理を手伝ってもらう場合もあるかもしれないが、お茶菓子くらいなら用意するよ。」

「・・・あの、それってアイさんもご一緒出来たりしないかしら。」



 陽が傾きだし、大きな窓に西日が差し込んできた。

「どうして?」

 イコリスに理由を聞くジェネラスの表情は、後ろから浴びる夕日で分かりづらいが、太い眉を顰めた気がした。

「入学式で少し打ち解けられたと思ってたのに、全くお喋りしてないし・・・。話せたら良いなと思って。」

「イコリスは僕達が居たら、アイとは距離を置きたいんじゃない?」

 赤い夕日に少し目が慣れてきた俺は、チェリンが少し悲しそうに話しているのが分かった。

「チェリンもジェネラスも、アイさんと初対面の時に花びらを降らしたきりで、もう何も降らせてないでしょう。怖くないわ。」

「俺達は念の為にチェリン達と距離を取り続けているが、3日に1回アイに葉っぱが降るのは、平民の学生がアイに懸想したからだしな。」

 フラーグ学院の『演出効果』は初夏を迎え、桜の花びらから樟の葉っぱに移り変わっていた。


「だから言っただろう。心配はいらないと。」

 長椅子に座ったままのトゥランが話しかけてきた。

「・・・フラリスはまだ油断出来ない。心配だよ。」

 俺がそう返すと、トゥランは二回程咳をした。

「ゴホッゴホッ・・・そうじゃない。アイが危惧している事に、だ。」

「アイさんが?・・・。」

 イコリスがトゥランへ聞き返すと、チェリンの横にある資料室の扉が開いた。

 俺達は意表を突かれた。

 その扉から、アイ・レットエクセルが歩み出てきたのだ。アイのすぐ後ろにはラビネが立っている。


 俺は気になってしょうがなかった。窓も無く狭い密室に男女二人で、何をしていたのか。

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