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癒し手シオン  作者: ミル
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第9話「追憶」

 部屋に入ってみると、ベッドとテーブル、小さな棚という必要最低限の家具が揃っている。

 部屋も狭くなく、また広すぎる訳でもなく、まさに一人過ごすのに理想の部屋と言えるだろう。

 ベッドに腰かけ、空を見上げつつ今日のことを思い出す。

 今日…とは言っても、ほぼ二日分の時間を過ごしている気がするが、それは置いておくとして。

 元の世界での夕方、帰宅するまではいつも通りに過ごしていたはずだ。特に変わったこともなく、違和感を感じたこともない。

 だった筈なのに…あの一瞬で、全てが変わってしまった。

 私を押したのは誰だったのだろう?

 何故、”私は前に落ちたはずなのに、空と謎の人物が見えた”のだろう…?


 その後のことも色々ありすぎて、正直頭が追いついていない。異世界転生ものとかよく聞くけれど。私の状態は、異世界転移、という方が正しいのだろうか。

 そして私は不老不死の呪いを受けてしまった。その原因に心当たりは無いが…もしリリアが言っていたように、私は元々この世界の住人で、一度あちら側に転移して、今回戻ってきたのだとしたら…?

 有り得ない話ではない。

 高校生になって初めて聞かされた話だが、私は両親とは血が繋がっておらず、いわゆる養子であり…実の両親の身元は不明なのだという。

 正直、実感が無かったのもあって、ショックは受けていなかったが…こうして考えてみると、辻褄は合う。


 しかし、こんな姿になって、呪いを受けて、元の世界に帰れるのだろうか?

 もし戻れたとして、呪いが残っていたら…

 私は、永遠に終わることのない別れの連続に耐えられるのだろうか。


 とはいえ、向こうの世界の友人や家族、SNSで知り合った人達と会えないのも中々につらい。

 私の性格はあまり良いとは言えないだろうが…それでも、共に笑い合える友達が出来た。趣味を語り合う相手がたくさんいた。いつも味方でいてくれる家族がいた。

 それがどれだけ幸せなことだったのだろうか、今更になって痛感する。

 

 スマホなんてものも、この世界には無いのだろう。連絡手段といえば、やはり手紙だろうか。

 暇つぶしにやるゲームもなければ、絵を描くことも出来ない。

 本や図書館は…流石にあるだろう。問題は漫画やラノベといった類は無いであろうこと…難しい歴史やら魔法の本など、読んでも数秒で寝落ちできる自信がある。


 確かにかつて異世界転生ものを読んだり、こんなファンタジーな世界に憧れたこともあった。

 だが、実際来てみればこれだ。

 知り合いも家族も友人もいない、完全な孤独。

 友達と一緒にゲームをして、バカをやって笑っていた時間が懐かしい。

 時にバカみたいな話して、笑って、時に愚痴って、時に悩みを打ち明けて、みんなで考えて…そんな風に、こんな私とも仲良くしてくれた大切な友人達。

 顔も名前も知らないけれど、同じ趣味を持って、語り合っては供給に悶えたり、最高のイラストを描いてくれたり、応援しあったり、慰めあったり…もはや同じ趣味というだけでなく、ジャンルが変わっても一緒に居て話してくれる、SNSの友人達。


 そして、何より。


 …私を今まで本物の娘であるかのように愛し、育ててくれた両親。

 時には喧嘩をすることもあったけれど、その愛は、親としての愛情は、確かに本物だった。

 今日もきっと、何事も無く娘が帰ってくると…そう信じて疑わないのだろう。

 向こうでの私は、どんな扱いになっているのだろうか?事故死?行方不明?それとも…


 最初から、いなかったことになっていたり…?


 考えて少しゾッとした。けれど、それが一番良い結果なのだとも思う。

 だって、私のせいで悲しむ人がいないのだから。

 前者の二つだとしたら、両親が受けるショックは相当なものだろう。友人達や、SNSの知り合い達にだって、悲しみや心配…様々な悪い感情を与えてしまうのだろう。

 考えただけで心が苦しくなる。そうであってほしくない。けれど、それを確認する術なんて私には無かった。


 一度大きく息を吸い込み……それを盛大なため息として吐き出した。


 今の自分に出来ることはなく、こうやってうだうだと悩むなんて無駄なだけだ。分かってはいる、分かってはいるのだが…


 …あぁ。これは、私の悪い癖だ。

 どうやっても、こうして思考することを止められない。

 どうにもならない事も、考えても仕方がない事も、ずるずると引きずって思い悩む。


 チラリと視界の端に映ったベッドへと目を向けた。

 見ただけでもとてもふかふかで、普段から手入れされていることがよく分かる。

 それを見た途端眠気が襲ってきた。何しろ、今日は色々ありすぎた。


 ぼやける頭を抱えながら、服と一緒に買ってもらった寝間着に着替え(これは着るのに手間取らなかった)、ふらふらとベッドに倒れ込む。

 強くなっていく睡魔に身を任せるように、そのまま目を閉じた………

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