表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/32

鏡像迷宮 16

ボチボチ書く。良くも悪くも一日一歩ペースです。弛緩しているといえばしていますが、作品というより僕の場合にはセラピーなのかもしれません。自分で言うのもナンですが、アウトサイドの文章なのでしょう。

 おり()しく、十三時。停電の時間でした。


 とうぜん休憩室の蛍光灯も消え、マックラになります。


 こういう際は、夜勤の巡視なんかに用いる懐中電灯を手元に置いて、光源にするのですよね。われわれも一本、ココに持ち込んでおりました。


 …言葉もなく夢野さんがそれをまさぐる。


 指は闇のなかでも仄かに浮き、暗渠をぬう白魚(シラウオ)さながら。隠秘(いんび)にしろい。顔は杳として見えず、くらいトバリに沈んでいます。さらには。サラサラ前髪がしだれて影の(かさ)を投げるのが、眉目(びもく)をおおい隠していました。


 その姿が一瞬だけれど、なにやら象徴(アレゴリー)に感じられた。道ばたで拾い上げたアレゴリー、木偶(でく)の、あの(メグミ)に感じられました。錯覚。


 カチリと。ちいさな灯がともる。


 当たり前ですが、そこに現れるのは人形ではなく、やっぱり夢野さん。ムヤミにほっとします。…あおい(かげ)にいろどられ、はっとするくらいキレイでした。


「…そう。息子がいたの。生きていたら、キミくらいかな。だから構っちゃうのかな、葉山クンのこと」


「…お幾つで?」


「十五歳。何がいけなかったのかしら。自分で命を絶ってしまったのよ」


 部屋は暗く、息苦しい。

 僕自身の兄、双子の兄も自死していました。自死遺族の気持ちはよく分かります。

 …そんな負の感覚とは言え、憧憬の人とこころを重ねるのだから、なにがしかカタルシスを得そうな物ですが、違うのですね。

 顔に真綿やビニールを押し当てられジメジメ締め上げられるようにです。息苦しい。それからひたすらに暗いのでした。


 厭な予感がしました…。怖気(おぞけ)めいた。


「ねぇ、葉山クン、変なこと聞いていいかな?」

「はい、何ですか。ナンでも」

「キミさ、ホントに変なこと聞くけど、…えっとね、本当に御免なさいね。葉山クンって背中にさ」

「え? ハイ」

「イレズミが入ってないかな、大きな」

「えっ、どうして」


 …分かるのだろう。どうして、分かる。臆病者。ビビリのネズミ。小さな小さな心臓の僕は、職場の誰にも洩らしたことは無いんですよね。ここでは誰も知るはずが無い。刺青を入れていることなど。


 魂消(たまげ)、丸くした目をみはる僕を、真っ直ぐに見据えるのでした。夢野さんは。僕のあこがれた人は。


 その女性は、鏡を見ている。僕ではなく僕の背の鏡を。

 …いや。鏡をだろうか。はたして。虚空をかもしれない。

 彼女には表情というものが無い。呆然と見ている。見ているが、それは実は対象を欠いた視線であり。さながら傀儡(くぐつ)なのだ。


「鏡」


 ぽつり。

 (タブ)れたように、ひとこと。

 (ひと)は言いました。




 …続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ