第五十九話・絆の主張
「よっこら、せっ……と」
俺とヴァイスは倒した怪物・クリスの殻を退けて核を回収する作業をやっていた。
怪物の核は宝石の様な球形の結晶体で魔力を多量に内包した怪物の心臓部らしい。
換金対象であり、バスターの討伐記録でもあるので
これを回収するのはバスターの大事な仕事の一つだ。
核の中の魔力を使い切っても核自体が氷のように溶けてなくなる訳ではなく
魔力を込めればまた使えるとの話だ。
甲殻を退けている間に怪物が来ると危険なので
ミルクには周辺の警戒をお願いしてある。
彼女には翼があるので高い所から遠くまで見渡す事が出来るのだ。
「お、あったあった……」
水晶の板をどけ、赤黒い湿った砂を掻き分けていると程なく核が見つかった。
大きさは六センチほど、ちょうど掌に収まるテニスボール位だ。
そのくらいのサイズのつるつるした深紅に輝く丸い石。
色合いや輝きからしてみると、母さんが持っていたルビーの指輪の色によく似てる。
ドミンやマリウス、クリスのような強い怪物の核は宝石にそっくり。
スラ等の怪物の核は本当にガラス球のようだ。
一体何で出来ているのかちょっと気になるところだ……。
だがパラダイムの世界には科学的な分析のための機械も道具もない。
たとえあった所で俺は科学者でも専門的な知識があるわけでもないので
正確な所は何一つ分からない。
漠然と宝石やガラスの質感に似ているとしか言いようが無い。
……魔道具や核を日本に持って帰ったら学者達が大騒ぎするだろな、とは漠然と思う。
「しっかし、雪平も成長したよねー」
ミルクがそういって笑いかけてきた。
ふう……ようやく彼女もちょっと認めてくれたかな?
使えない奴呼ばわりされたり評価が低いままじゃ我慢ならないからなあ。
彼女の評価を改めさせたことがその事がわりと嬉しい。
「みんなのお陰さ」
「あれ、美味しい所もってって調子に乗るかと思ってたけど意外ねー。
うんうん、でも謙虚な事はいいことよ」
「いや、だってさ、ぶっちゃけた話俺一人でこの怪物を倒すのは
まだ正直辛いというか絶対厳しいと思うんだよ」
「でも割とさっくり切り裂いてたじゃない」
「えーと、なあ……なんつうか……倒せた事=楽勝じゃないっつーか……
上手く表現できないけど倒せる攻撃力が有るって事と楽勝って事は全然違うんだよ。
武器も大太刀に新調して確かに攻撃力とかは上がったし。
魔法武具で速さも上がった事は確かなんだよ」
「それって雪平が強くなってることでしょ。
でも言いたい事はそれじゃないのね?」
俺の言いたい事を少し察してくれたようだ、本題はそこじゃない。
「そうなんだよ、なんっつうかなー。
切り込む攻撃力とかは超大事なんだけど……
そう!戦闘の要素ってそれだけじゃないんだって!!」
「ほほう……」
「ふむ、俺も気になるな、雪平、続けてみろ」
ヴァイスのアニキも興味を示したようで俺に続きを促した。
「さっきアニキが怪物の注意を引きつけてミルクが風魔法で動きを止めただろ。
なんつーか戦闘には勝利までの流れや展開があるじゃん」
「確かにその通りね」
「うむ、正論だな」
「俺はまだそれを一人でクリスみたいな怪物相手に組み立てられる自信がねえ。
というか無理っぽい。ツララが背中を掠めたとき正直ぞっとしたし……
あれの防御と回避だけで一杯一杯になっちゃうと思うんだよ。
幾ら倒せる攻撃力が有ったとしても『決め』まで繋げられなきゃ意味ないんだよ」
「あー、なるほどねえ……」
「俺の死んだ爺ちゃんが言ってたよ、一人で生きていると思うなって。
服に食べ物に……沢山の人や皆が作った物に俺達は生かされているんだって。
このグリーブやこの大太刀雪花風月も俺が作ったものじゃない。
クラフトさんの眼に見えない地道な職人仕事が作ったものだ。
これが無ければこんなに簡単に勝てなかった」
ミルクとヴァイスは神妙な顔でこっちを見ていた。
「それと同じでさ、パーティ組んでるんだからなおさらそういうのが大事だと俺は思うんだ。
互いに補い合い、助け合い、庇いあう。
それが出来なければあの強い怪物に勝てないと俺は思うんだ」
「戦術の観点からすれば連携の重要性は言うまでも無い。
一人で戦うより複数で戦った方が一人の負担が少なくなるのも道理、その考えは全く正しいものだ。
その事が分かっているのならば、俺から言う事は特に無い」
ヴァイスは何時ものように端的にそう言った。
「ヴァイスのアニキはほんっとにすげえと思うよ、何にも言わず一番キツイ囮役を進んで買って出て
怪物への恐怖を押し殺して俺達を守ってくれてるんだから。
ドミンとの戦いの時はミルクの回復魔法が無ければ俺はやばかったし
今回だって風魔法で動きを止めて大きな隙を作ってくれたし……
だからこれは俺だけの勝利じゃなくて皆の勝利なんだ」
「……なに、役目だ……だが雪平もよくやったぞ」
ヴァイスも心なしか嬉しそうに、微かに照れくさそうに俺に温かな言葉をかけてくれた。
ミルクは胸を突かれたようなショックを受けた顔をしていた。
「……教義を理解していなかったのは私のほうだったかも……
聖典にもあるわ。団結と絆こそが怪物と戦うために最も必要な物……
それがあれば人間は深淵に落ちる事もないし怪物になど負けはしないと……
私、ヒーラーで後衛だから守ってもらえるのが当然って思ってた節があったわ……」
落ち込むミルクに俺は声をかけた。
「あんまり気に病むなよ、俺だってさ、下手すると
皆に支えられてるのを忘れて俺だけの力で怪物に勝ったとか
自己中な思い込みに囚われてたかもしれないんだし。
今回はたまたまそういうのを思い込む前に気がつけたけど……
人間にはそういうなんつーか魔が差すというか
ろくでもない考えがふと差し込む事があるんだよ。
自分で気づけたから良いじゃねーか」
「……ありがとう」
ミルクはしおらしくかすかに頭を下げた。
そして顔を上げた時にはちょっと笑顔になった。
元気が出たようで何よりだ。
「……よーし!!何かテンション上がってきたぞ。
ガシガシ怪物を狩ってやろうぜ!!
あいつ等が幾ら強くても今なら負ける気はしないぜ!!」
二人にも褒められたし凄く晴れやかな気分だ。
俺は、皆と戦っているから強い怪物相手でも頑張れるんだ。




