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第五十四話・不安と努力

大太刀の作成の為にクラフトと話し込んでいたら

すっかり日が暮れてしまっていた。

暁の英雄亭に帰って来た俺の顔を見るなり

ヴァイスのアニキが僅かに渋い顔をした。

「何か有ったのか?」

「いや……最近雪平は根を詰めすぎて居ると思ってな」

「俺が頑張りすぎ?そんな事は無いと思うんだけどなあ。

王都に来てから怪物狩りとか戦いは全然してないし」

戦いを行っていないのだから

限界まで頑張ってるなんて言えないと思うんだけど。

「いや、俺が言っているのはそういう事ではない。

雪平は我慢強い、いや、我慢強すぎる。

肉体の疲労を精神で押さえ込んで省みない」

ヴァイスは相変わらず淡々と喋り続けた。

「そして精神の疲労さえも根性で何とかしようとする。

そんな性格だから恐らく自覚は全くあるまい。

雪平は体を壊すか過労で倒れて初めて気がつくタイプだ。

下手をすると倒れてももがこうとするかもな」

鋭い指摘だ……ちょっとだけ思い当たる節がある。

「ううん、でも俺は大丈夫だって。

まだまだ全然いけるぜ!!

俺は一刻も早く強くなりてえんだ。

皆の足手まといにならない為にも……」

「心がけは立派だがまあとりあえず聞け。

雪平がこっそり過酷な自主練習を行っていることは知っている。

何を焦っているかは分からんが……」

「動いてないとっ!!

前に進んでいる実感が無いと不安なんだよっ!!」

俺は、思わず叫んでしまった事に自分でも驚いた。

ダラダラしてるとこのまま帰れなくなってしまうような気がして……

日本に残してきた家族はどうしているだろうか?

俺が居なくて心配をしているだろう。

病気になったり体調を崩したりしていないだろうか?

学校や部活の仲間は元気でやっているだろうか?

止まっていると、停滞していると

どんどんどんどん嫌な思考や不安ばかりが広がってくるから

そういうことは考えないようにしてたのに……

そういう弱さが俺を駄目にするんじゃないかと考えると怖くなるから。

「あ……」

「……やはり相当無理をしていたな。

努力は悪い事じゃないし、限界を超える事も必要になる。

だが常にでは不味い。

……張り過ぎたリュートの弦はいずれ切れる」

ヴァイスは腕を組んでため息を付く。

「……っ」

俺は唇を噛み締めていた。

アニキの正論が心に痛む。

「これまで随分強行軍を強いて来てしまったようだな……

思えば俺のペースでバスター活動ばかりをやってきたからな」

そして語気を和らげて珍しく歯切れ悪くそう言った。

そういえばその通りだ。

ヴァイスの付いて来た時からバスターとして動いてばかりだ。

怪物狩りに余った時間は剣や魔法の修行に次ぐ修行。

強くなっていく、自分の力が磨かれているのは嬉しかった。

王都に来たのも休息や気晴らしの旅行ではなく

次なる戦いのための純然たる準備……

魔法学院では帰るための手がかりを見つけた喜びで

疲れも気にせず転移関連の魔法書を貪り読む……

不安を覚えるまもなく忙しく流れる日々……

それが異世界へ来た俺の不安を上手い具合に消してくれていた。

いつの間にかその事にすっかり浸かっていた。

「怪物退治は限界以上に心身を消耗する。

命のやり取りだから当然だな……

雪平、アレがお前の中での努力の基準だとするなら……相当に危ういぞ」

「ほんっとうに鋭いなあアニキは……かなわねえよ」

確かに、そう思ってた。

みんなの努力の基準は人それぞれだから

俺は人の努力に対してはとやかく言う気は無いけれど……

何かの競争では必ず優劣勝敗がつく。

皆努力するのが当たり前で最低条件、参加資格だとするのなら

才能や環境が物を言う事くらい頭の悪い俺だって分かる。

そのアドバンテージを崩したければ努力の質を変える。

そのために手っ取り早いのが命を張る事。

そこまでやって初めて何かが変わる【可能性】が生まれるって考えてた。

日本に居たころは体を壊したら元も子もない……

あっちの常識は壊れた体は直ぐには治らない。

でもパラダイムには凄い回復魔法、治療魔法がある。

そう聞かされて正直歓喜したね、凄く嬉しかった。

これで限界を迎えても頑張れる、努力できるってね。

だからタガが外れてしまったのかもしれない……

「余り無茶をするなよ。

ミルクの方も何処と無く落ち着きが無かった。

今のお前達は何処か生き急いでいる感じがするぞ」

ヴァイスは俺をそう諭す。

「……わかった、気をつけるよ」

俺はそう答えていた。

だけど、何かしていないと募る不安を振り払う事は出来そうも無かった。

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