第十九話・魔法の行方
あれから一週間、俺たちはタジン平原の魔物を狩り続けた。
体も大分戦闘に慣れてきたような気がするが
ヴァイスは俺たちの成長に合わせて
その度に狩りの継続時間が延ばすので
強くなっている事を実感する反面ちっとも楽になった気がしない。
今日は天候が悪い事と、体を休める休養という事で狩りは休みだ。
ミルクは自分の部屋で爆睡しているらしい。
俺は宿で武具の手入れをしていた。
バスターが泊まる事が多いともあって
一応武具の手入れを出来るような一角が備え付けられているのが嬉しい。
油を含ませた布で鎧の金属部分を磨いて錆を浮かないようにし
皮の部分は乾いた布で丁寧に擦って泥や汚れを落とす。
鎧の留め金が壊れていないか
皮ベルトが切れそうになっていないかチェックする。
大剣の方も砥石を当てて油を塗り、羊毛で磨き上げる。
「この皮鎧や大剣にも大分慣れてきたな……」
思わずそんな事を呟きながら自らの掌を見る。
剣を握る指の付け根にはごつい剣ダコが幾つもある。
肉刺が出来ては潰れ出来ては潰れた結果だ。
「魔法とかも使えるようになった方がいいのかね」
自分だけ遠距離攻撃の手段が無いのがかなりキツイ。
空飛ぶ怪物や遠距離の攻撃手段を持たないと
倒せないような怪物も居るのだ。
「俺にも覚えられるかな……」
自慢じゃないが俺は余り頭の良い方ではない。
どちらかといえば体を動かすほうが得意だ。
手足を使った事なら何でも出来そうな自信があるが
複雑な詠唱や手順を覚えるとなると大変な事が容易に想像がつく。
しかし頭を使う事が苦手だからといって
ヴァイスやミルクに頼りっぱなしでいいのか?
これから先の戦いは魔法が使えるようになっていたほうが
絶対に良いに決まっている。
「石に噛り付いてでも出来るまで取り組むって事を
決めておいたほうがよさそうだな」
そうと決まれば俺は魔法についてヴァイスに聞いてみる事にした。
「……魔法を覚えたい、と」
「そうなんだよ、何時までも使えないままにしておくのも不味いと思ってさ」
宿の部屋で休んでいたヴァイスにそう尋ねると
彼は難しそうな顔をした。
「……既に雪平には二つの魔法が掛かっている」
「二つ?」
「一つは神聖魔法の加護だという事は分かるが……もう一つが分からん。
パラダイムには種族事に幾つもの魔法系統が存在するが……
既存のどの魔法系統にも当てはまらない魔法を既にお前は使っている」
俺が既に魔法を使っている?
「全然自覚が無いんだけど」
「だろうな……というか初めてお前に出会ったときから
お前はその魔法を使っていた」
「ううん……」
さっぱり実感が湧かない。
一体俺がどんな魔法を使っているって言うんだ。
「だから俺は雪平に魔法を覚えさせる事を躊躇っていた。
冷孔から吹き出る魔力のサポートも無しに
魔法を使えば精神力と生命力を削るという事は話したな?」
「ああ、聞いた気がするぜ」
「神聖魔法である加護は永続で効果が持続するからともかくとして
謎の魔法を使ったまま他の魔法を覚えさせると
一気に生命力を損失しかねないからな……」
なんだか凄く哀しい気分になった。
「じゃあ俺は魔法を使えないのかな?」
「いや、手は有る」
「どんな手なんだ!?」
「小冷孔を開けてみて、まだ使用されていないその魔力に雪平を馴染ませてみようと思う。
冷孔を開放して、その魔力を浴びればバスターが溜め込める最大魔力の器も広がる。
そうすれば謎の魔法を使っていたとしても恐らく余力が出来るはずだ」
冷孔を開放するとそういう恩恵も有るのか……
「タジンの町のじゃだめなのか?」
「中冷孔とはいえ大半が結界やら生活基盤に使われているからな……
時間が掛かりすぎるし効果は薄いだろう」
「なるほど……」
「雪平も怪物との戦いに慣れてきたし
そろそろ小冷孔の怪物と相対する頃合かもしれん」
……俺が魔法を使えるようになるためには
先ず小冷穴を開けなきゃいけないようだ。




