第十八話・遥かに遠い怪物の居ない世界
俺とヴァイスとミルクは体力が許す限り
平原の怪物を狩り続ける。
一体何匹の怪物を狩っただろうか?
時計がないので時間の感覚が酷くあやふやだ。
確か朝からやっていて
昇ってきた太陽が直上付近にまで来ている
この世界の一日が俺たちの地球と
同じという保障は何処にもないが……
三時間?いや四時間くらいか……?
タジンの町に居れば教会の鐘の音が
一応の時間の区切りを知らせてくれるのだが……
俺が狩れるだけのスラを狩り、マリウスは後足を斬って行動を止める。
飛べるミルクは飛行系の怪物蝶ハレマイアを狩る。
ヴァイスは主に自爆するブスマンが俺たちに近寄る前に雷撃の魔法を浴びせ……
時には俺やミルクのサポートに入っている。
「ぜぇ……ぜぇ……」
いちいち核を拾うのすら億劫だ。
また一匹、スラが地面を削りながら俺のほうに突撃してくる。
タイミングよく回避に移る動作、構える動作、剣を横振りに振るう動作。
それがテンポ良く繋がり、回避と同時に大剣を振りかぶり
スラをカウンター気味に斬り捨てるという結果を作り出す。
それら一連の流れに無駄が少なく、素早く移れるようになった気がする。
身体能力自体はそう変わった気がしないのだが
覚える一つ一つの動きのキレがあがったというか
最適な動作のコツを掴みやすくなった気がするというか……
確かに体が技の動きを覚える事が速くなっている。
なるほど、これが加護か……
「確かにこいつは便利だぜっ!!」
思わず頬が上がってしまう事を自覚する。
自分が頑張れば確かに強くなれるというのは面白い。
しかし……
「なあミルク!俺たち何匹くらい怪物を狩ったっけ!?」
上空を舞うミルクに声を掛ける。
「はあはあ……知らないわよっ!!」
ミルクの疲労もかなり濃い。
動き続けた俺も全身から滝のような汗が吹き出ている。
手の握力は殆ど残っていない。
手首はイカれる寸前、腕の筋肉はパンパンにふくらみ
大剣を持つだけで鈍痛が、振るえば即座に激痛が走る。
平原を走り続けたせいで足も膝が笑っているのを自覚する。
「……ふむ」
手近なスラの甲殻の隙間に剣を通していた
ヴァイスが動きを止めてこちらを見た。
「今日はこの辺りにしておくか……核を拾ってタジンに帰るぞ」
息一つ、汗一筋掻いていない。
俺以上に剣を振るいミルク以上に魔法をぶっ放していた筈なのに……
この人本当に人間かよ!!
「お、おう……」
「翼が重い……喉が嗄れそう……」
何とか気力を振り絞って核を拾い集め
タジンの門に入ったときにはもうへとへとに疲れ果てていた。
俺と地べたに大の字になって空を仰ぎ
ミルクは門の近くにあった木製ベンチで座り込んでいる。
「こんなハイペースで狩りをしたことなんてないわよ……」
首を傾けてミルクを見るとぐったりと力なく頭を垂れている。
ヴァイスは拾ってきた核を数えているようだ
「スラが四十二匹、ハマレイアが二十八匹
ブスマンが三十六匹、マリウスが三匹か……」
色とりどりの怪物の核を前に
思案顔でポツリとヴァイスが呟いた。
「タジン平原の怪物を全滅させるには遠いな」
この人本気でタジン平原の怪物を全滅させるつもりだったのかよ!
「アニキやっぱり半端じゃないなあ……」
「冷孔の開放と怪物の殲滅だけを目的とする
伝説の剣士の子孫って聞いたけど案外本当かもね……
こんなペースで怪物を狩るバスターってまず居ないわ……」
力量的な意味で言ってるのかな?
「そうなのか?自分の持ってる力に合わせて
狩れるだけ怪物を狩るのがバスターだと思ってたんだけど」
「今日一日の戦果は先ず一般的なバスターのものじゃないわね。
教会の教義でも怪物を倒す事は推奨されてるけど
実際の所は一度にこんなに沢山狩れる力量がないのもそうだし……
実際にバスターは命掛かってて危険と隣合わせだからね。
ちょっと怪物を倒せば暫くは生きていける報酬が手に入れられるから
ダラダラスローペースで狩る奴が大多数なのよ」
「……普通のバスターと同じ事をやっていて
大冷孔の開放など出来るわけが無いだろう」
ヴァイスは相変わらず数え終わった核を仕舞うと
相変わらず端的にそう言った。
「そりゃ、もっともだな……」
なるほど、道理だと思う。
皆と同じくらいの事をやっていたら皆と同じだけしか成長できない。
「……今日のところは体を休めておこう。
明日もまた同じ事をするからな。
雪平は食事の後午後から武器防具の手入れを教えてやる」
「明日もこれやるのか……」
「ごめん私このパーティちょっと舐めてたわ……
着いていけるのかしら……」
それなりにバスターの経験があるであろう
ミルクが着いていけるか不安になっている。
力量に開きの有る俺は追いつくためにはまだ全然足りない。
「大冷孔を開けたきゃやるしかねえだろ」
命の危険があることもキツイ事もあるのは分かりきっている。
こんな所で挫けてたまるか。
俺は自分を奮い立たせ、暗示を掛けるように
やるしかない事を自分に言い聞かせた。