表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/63

第九話・天使

「はっ……はっ……」

俺は大剣を背負って今まさに怪物に襲われんとする馬車に近づこうとしていた。

馬車を引く馬が苦痛にいなないたかと思うと地面にくずおれた。

不味い。馬が足をやられた様だ。

馬車を操っていた商人風の中年男性が悲鳴を上げる。

さっきの悲鳴の主だ。

このままでは馬車に乗っている人がやられ……

「疾き風よ、我が神の名の下に集いて敵を討つ槌となせ!風打!!」

ヴァイスでもあの商人でもない。凛とした女の子の声だ。

馬車の後部から飛び出した女の子が怪物に向けて魔法を放ったのだ。

飛び出した、というのは比喩表現じゃなくて、文字通り飛んで出たのだ。

その女の子の背には一対の白い翼が生えていて。

そして、紋章のような刺繍が施されたゆったりと長いローブを風にはためかせながら

杖を持って空を飛んでいる。

「天使……?」

思わずそんな事を俺は呟いていた。

鋭角的な金属で出来たカマキリのような怪物マリウスは

仰け反る様に後退し、ニ、三回頭を振ったがそれ以上の損傷は受けていない。

「何でさっきから効いてないのよー!!」

翼持つ少女は手にもつ杖を振り回して空中から苛立ったように声を上げていた。

「雷刃」

散文的で一切の誇張もない冷たい声がポツリと草原に響く。

一筋の雷光が怪物を包み込んだ。

「雷刃、雷刃、雷刃」

ヴァイスは二度、三度と繰り返して唱えていく。

その度に稲妻が空を割って閃いた。

ヴァイスの魔法が怪物の足を止めている間に俺は何とか合流することが出来た。

「ぜーっ……はーっ……」

荒い呼吸を抑えようと努力する俺にヴァイスが非常に早口で声をかけた。

「そのままでいいから聞け雪平、マリウスには見ての通り魔法の効果が薄い。

足止め程度の役にしか立たない」

良く見ればヴァイスの雷はマリウスと呼ばれた

デカイ金属製カマキリの化け物の表面を滑るように大部分が弾かれている。

弾かれた雷が空中に放電している。

「雪平、俺がマリウスの足を止めている間に後ろに回り込んで関節部を叩き折れ!!

鳥人族の娘は奴の直上真上から風打!!」

「あ、あんた達」

飛んでいた女の子の疑問をヴァイスが遮る。

「後にしろ、今は話している時間はない!!行け!!」

「は、はいっ」

「おう!わかったぜアニキ!!」

ヴァイスが雷の魔法を打ち込んでマリウスの動きを止める。

俺はその間に金属のカマキリの後ろに回りこんで……

「くたばれっ――!!」

気合一線、思い切り後足の関節部目掛けて剣を横殴りに殴りつけた。

金属の擦れる耳障りな音と共に俺の大剣が化け物の後足を捕らえた。

折るまでは行かなかったが怪物の後足の片方は

本来想定していない方向にへし曲がった。

「今だ!雪平は離れろ!」

ヴァイスが鋭い声で上空を飛ぶ女の子に合図する。

「了解~!!疾き風よ、我が神の名の下に集いて敵を討つ槌となせ!風打!!」

俺の頬を凄まじい風が嬲った。

眼に見える現象が無く、彼女のセリフから考えると

どうやら彼女の魔法は圧縮した空気の砲弾のようなものを叩きつけるものらしい。

怪物は後ろ足を破壊された所に上方から空気の砲弾を食らい姿勢を崩して倒れた。

「雪平!同時に仕掛ける、縦斬りで胴を折れ!!」

「おおおおおおおおおおっ!!」

渾身の力を込めて怪物の胴を、それすら超えて

地面さえ叩き斬るつもりで俺は大剣を担いで振り下ろした。

マリウスの胴体部の半分以上に大剣が食い込む

ヴァイスのほうは怪物の頭部らしき所に剣を突き入れており……

その自慢の鎌を振るうことなく怪物は一瞬ブルッと震えたかと思うと

今までの怪物と同じように体組織の崩壊が始まり

湿った赤茶けた砂を関節部から撒き散らしながら金属の外骨格だけを残した。

正直な話、魔法が足止め程度にしかならないこんな強そうな怪物を

殆ど何もさせないうちに倒すヴァイスの力量と指示の的確さには驚くばかりだ。

「やっぱアニキすげえな……こんな金属の塊みたいなカマキリの化け物に

どうやったら突きが入るんだよ……」

「おおー!!あんた達バスター?やるじゃん!!」

上空からかけられた声の主の女の子が地上に降りてきた。

そういえば翼の生えた女の子は何なんだろう?

こっちの世界にはこういう種族とかが居るのか?

俺にはまだまだ分からない事だらけだ。

やっと女の子が出せた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ