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エピローグ あの星のあとで

 子どもの頃から、ときどき人の頭の上に星が見えた。


 いつもではなかった。


 誰にでも見えるわけでもなかった。


 街を歩いている人の中に、頭上に小さな光を乗せている人達がいた。


 大きさも違った。

 揺れ方も違った。


 初めて両親に話したとき、不思議そうな顔をされた。


 病院で検査を受けたこともある。


 けれど、何かが分かったことはなかった。


 結局、それは私にしか見えないものだった。


 だから私は、いつしか誰にも話さなくなった。


 ただ、見えてしまうものは、見えてしまう。


 そして私は、いつの間にかひとつの考えを持つようになった。


 星が見える人とは、いつか会えなくなる。


 それは死別だけではなかった。


 引っ越し。

 別れ。

 疎遠になること。


 理由はそれぞれ違っていた。


 でも、結果として、その人は私の前からいなくなった。


 だから私は思った。


 あの星は、残された時間を表しているのだと。


 大きな星ほど、その人との別れが近い。


 小さな星ほど、まだ時間がある。


 揺れる星ほど、その人が何かを抱えている。


 そう信じることで、見えてしまうものに意味をつけようとしていたのかもしれない。


 気にしないようにしていた。


 忘れようとしていた。


 でも。


 好きになった人の頭上に、その光を見つけたとき。


 私はもう、無視することができなかった。


 星野くんの上に浮かんだ星。


 あの光を見た瞬間、私は思った。


 この人とも、いつか会えなくなるのだと。


 そう考えるだけで、胸が苦しくなった。


 そして、そのあと。


 私自身の上にも、星は現れた。


 ほどなくして、私は事故に遭った。


 あの頃の私は、きっと思っていた。


 やっぱり星は、終わりを知らせるものだったのだと。


 でも、それだけではなかった。


 私は生きている。


 星野くんも、今ここにいる。


 もちろん、何も失わなかったわけではない。


 記憶を失った。


 事故の前の私が知っていたこと。

 感じていたこと。

 大切にしていた時間。


 その一部は、今の私には届かない。


 でも。


 失ったものがあることと、

 すべてを失うことは違った。


 星が知らせていたものが何だったのか。


 今でも、本当のことは分からない。


 危機だったのかもしれない。


 人生の大きな変化だったのかもしれない。


 あるいは、ただ私がそう意味づけていただけなのかもしれない。


 もう、あの星の答えにこだわろうとは思わなかった。


 大切なのは、星が何を意味していたのかではない。


 そのあと、私は何を選んだのか。


 何を失って、何を残したのか。


 そして、これから何を作っていくのか。


 それだった。


 星野くんのことを、今でも全部思い出したわけではない。


 昔の私が感じていた気持ちを、完全に取り戻したわけでもない。


 でも。


 今の私が、あの人と一緒にいたいと思う。


 もっと知りたいと思う。


 話したいと思う。


 その気持ちは、間違いなく今の私のものだった。


 きっと昔の私も、同じところを好きになったのだと思う。


 困ったように笑うところ。


 相手を急かさないところ。


 何も言わなくても、そばにいてくれるところ。


 それは記憶ではなく、今、目の前にあるものだった。


 私は窓を開けて、空を見上げた。


 そこには、たくさんの星が浮かんでいた。


 子どもの頃から見ていた星。


 でも、あの頃とは違って見えた。


 誰かの頭の上に浮かぶ、不安の光ではない。


 失うものを知らせる印でもない。


 ただ遠くで輝いている、夜空の星だった。


 私はしばらく、その光を眺めていた。


 もう、人の上に星を探そうとは思わない。


 もしまた見える日が来たとしても、

 それだけで何かを決めつけたりはしないだろう。


 私が見るのは、目の前にいる人の表情でいい。


 その人の声でいい。


 その人と過ごす時間でいい。


 あの星が見えなくなった今、

 私はもっと星野くんのことを見ていられる。


 もっと素直に、笑いかけられる気がした。


 夜空の星は、ただそこにある。


 それだけで、十分だった。

最後までお付き合い頂きありがとうございました

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