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【火山転生】目覚めたら火山そのものだった〜マグマの力で最強の聖地を作ったら、麓に国ができていました〜  作者: 尾の長い虎(てぃが)
第一章:建国編

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番外編 ヴァルのお手伝い

 朝から、火守村の水路が騒がしかった。


 鍬が土を削る振動。

 石を運ぶ足音。

 泥を掻き出す木桶の音。


 乾いた季節に備えて、村人たちが水路の補修をしているらしい。


 俺は地中から、その動きを感じ取っていた。


 その少し離れた場所で。


 一匹だけ、妙に落ち着かない熱がある。


(ヴァル?)


 俺の呼びかけに、小さな火竜が顔を上げた。


 まだ幼い身体。

 黒曜石のような鱗に、小さな翼。

 頭の上には、いつものようにコロが乗っている。


「ぷる」


 コロが鳴いた。


 ヴァルは村人たちを見る。

 俺を見るように山体へ顔を向ける。

 また村人を見る。


(……手伝いたいのか?)


 こくり。


 迷いのない頷きだった。


「ヴァルも、お手伝いしたいの?」


 近くにいたキイナが駆けてくる。


 まだ神器も持たない、小さな頃のキイナだ。


 ヴァルが、もう一度頷いた。


「じゃあ、一緒にやろ!」


(まあ、石を運ぶくらいなら大丈夫か)


 水路の補修は、人手が多いほど助かる。


 俺が止めなかったことで許可と受け取ったのだろう。


 ヴァルは胸を張った。


 頭の上でコロも胸を張るように身体を伸ばす。


「ぷる!」


(お前は何を手伝うんだ)


 最初の仕事は、崩れた水路脇に積む石運びだった。


「ヴァル様、こちらをお願いできますか?」


 村人が指したのは、大人二人で持ち上げるような石だ。


 ヴァルは石へ近づく。


 前脚を添え。


 ぐっ。


 簡単に持ち上げた。


「おおっ!」


「ヴァル、すごい!」


 キイナが手を叩く。


 ヴァルの尾が、ぱたぱたと地面を叩いた。


 少し嬉しいらしい。


 そのまま石を運び、指定された場所へ置く。


「ありがとうございます、ヴァル様!」


 また尾が動いた。


 次の石。

 その次の石。


「ヴァル様、こちらも!」


「こっちも頼めるか?」


「ヴァル、次これ!」


 頼まれるたび。


 ヴァルの動きが速くなっていく。


(……嬉しいんだな)


 今までのヴァルは、村の外を見張ったり、危険があれば前へ出たりすることが多かった。


 けれど今日は違う。


 誰かを守るためじゃない。


 みんなと同じ仕事をして。


 みんなから頼られている。


 そのことが、よほど嬉しいらしい。


「ぷるる!」


 コロも頭の上で揺れている。


 たぶん応援している。


 たぶん。


 しばらくして。


 ヴァルが水路脇で立ち止まった。


 そこには、半分ほど土に埋まった大きな石がある。


 これまで運んだものより、ひと回り大きい。


 ヴァルが石を見る。


 周囲を見る。


 誰もこっちを見ていない。


(……ヴァル?)


 前脚が石へかかった。


(待て。それは――)


 ぐっ。


 ごろん。


 石が抜けた。


 次の瞬間。


 どばっ!


 水路の側面から、水が噴き出した。


「きゃあっ!?」


「水だ!」


「そっち塞げ!」


 石は運ぶために置いてあったものじゃない。


 古くなった水路の壁を、外側から支えていた石だった。


 押さえがなくなった土壁が崩れ、水が畑側へ流れ出していく。


 ヴァルが固まった。


 頭の上のコロも固まった。


「ぷる?」


(たぶん今、一番聞いちゃいけない声だぞ)


「かしこみかしこみ。ヴァル様、自ら古き水路を開かれ、新たなる水の道を――」


(壊しただけだ)


「かしこみかしこみ。では、水路を破壊なされました」


(言い方が急に雑だな)


「ヴァル!」


 キイナが駆けてくる。


 ヴァルの翼が、ぺたりと下がった。


 尾も動かない。


 明らかに落ち込んでいる。


 だが、今はそれどころじゃない。


「土を持ってこい!」


「下流の泥をさらえ!」


「畑側を先に塞ぐぞ!」


 村人たちが一斉に動く。


 土を詰めた袋。

 小石。

 板。


 使えそうなものが次々運ばれてくる。


 ヴァルだけが、その場から動かなかった。


「ヴァル!」


 もう一度、キイナが呼ぶ。


 ヴァルが恐る恐る顔を上げた。


「落ち込むのは、あと!」


 キイナが水路脇の大石を指差す。


「いまは直すの手伝って!」


 ヴァルが目を瞬く。


「その石! ヴァルじゃないと運べないよ!」


 小さな翼が、ぴくりと動いた。


 ヴァルが俺の山体へ顔を向ける。


(今度は、それで合ってる)


 こくり。


 ヴァルが石へ走った。


 今度は勝手に動かさない。


 キイナを見る。


「それ!」


 持ち上げる。


「こっち!」


 運ぶ。


「ゆっくり!」


 そっと下ろす。


「もうちょっと右!」


 少しずらす。


 いつものヴァルなら、一度決めれば一気に動く。


 けれど今日は。


 一つずつ指示を確認していた。


「そう! そこ!」


 大石が水の流れを受け止める。


「土を詰めろ!」


 村人たちが隙間へ土を押し込む。


 別の者が小石を積む。


 キイナも泥だらけになりながら石を運ぶ。


 ヴァルも何度も往復する。


 頭の上では。


「ぷる!」


 コロが偉そうに揺れていた。


(お前、本当に何もしてないな)


 しばらくして。


 水の勢いが弱くなった。


 畑へ流れていた水が止まり。


 水路へ、本来の流れが戻っていく。


「よし!」


「塞がったぞ!」


 村人たちから歓声が上がった。


 ヴァルが、その場へ座り込む。


 鱗も脚も泥だらけだ。


 キイナも隣へ座った。


「疲れたね」


 ヴァルが小さく喉を鳴らす。


「でも、前より丈夫になったんじゃない?」


 近くの男が補修した場所を叩いた。


「ああ。あの石なら、しばらく崩れねえ」


「ヴァル様が壊してくださらなきゃ、気づかなかったかもしれんな」


 ヴァルの胸が、少しだけ膨らんだ。


(いや、そこは褒めていいのか?)


 キイナが笑う。


「でも、次から石を動かす時は、ちゃんと聞いてね」


 ヴァルが真剣な顔で頷いた。


 ぶん。


 勢いが良すぎた。


「ぷる!?」


 頭の上にいたコロが飛ぶ。


 ころ。


 ころころ。


 ぽちゃん。


 補修したばかりの水路へ落ちた。


「コロ!」


「ぷるるるる!」


 流される。


(今度はお前か!)


 村人たちが笑いながら、下流へ走った。


 夕方。


 補修作業は、予定より少し遅れて終わった。


 水路脇では、村人たちが泥だらけのまま休んでいる。


 その輪の中に。


 ヴァルもいた。


「ヴァル様、もう少しそっちへ」


 言われて横へずれる。


「そこだと桶が取れねえ」


 またずれる。


「ぷる」


 水から救出されたコロは、ヴァルの頭の上で平たくなって乾いていた。


 キイナはヴァルの身体へ背を預けている。


 ヴァルは嫌がらない。


 むしろ。


 小さく喉を鳴らしていた。


(……楽しそうだな)


 ヴァルは俺の眷属だ。


 村を守るために生まれた、火竜だ。


 けれど。


 守るだけじゃ、仲間にはなれないのかもしれない。


 一緒に働いて。


 失敗して。


 一緒に直して。


 最後には笑ってもらう。


 そうやって。


 こいつも少しずつ、この村の一員になっていくんだろう。


「ヴァル」


 キイナが身体を起こす。


「明日もお手伝いする?」


 ヴァルが勢いよく頷いた。


(いや、待て)


 ヴァルの動きが止まる。


(明日は最初に、何を手伝うか俺にも教えてくれ)


 こくり。


「ぷる!」


(コロもだぞ)


「ぷる?」


(なんで自分は関係ないみたいな顔してるんだ)


 夕暮れの村に。


 キイナの笑い声が響く。


 その横で。


 幼い火竜の尾が。


 今日一番楽しそうに、地面を叩いていた。

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