過酷なベイビー時代
「おんぎゃー! おんぎゃー!」
「マッシュ見て。元気な男の子よ」
「でかした、メアリ!本当にお疲れ様。ありがとう!!」
デリシア村の小さな家に一人の元気な赤子が生まれた。
「あなたの名前はシュン。大きく元気に育ってね」
「おんぎゃー! おんぎゃー!」
同じ名前か。神様が配慮してくれたのかもしれない。言葉もちゃんと日本語に聞こえてる
さて、やはり俺には既に自意識があった。神様が言っていたように魂の中に身体機能などが含まれていてそれがこの赤子に入ったからだろうな
シュンの考察は少し違う。シュンの体には前世の身体機能は思考力以外含まれていない。だが記憶を保有しており思考力と組み合わさり自意識であろうものが形成されているのだ
喋ることはできないな
身体機能はほぼ失われたため当然である
俺を優しく愛おしそうに見ている淡緑色の瞳に優しい目つきで、ライトブラウンの長髪の女が母親のメアリか、そしてそのメアリを抱きしめている、というより、抱きついている茶色がっかた瞳にキリっとした目つきで、黒髪の男が父親のマッシュか。それでは両親であろうお二方、これからお世話になります。よろしくお願いします。
「おんぎゃー! おんぎゃー!」
俺が生まれてから五ヶ月が経過した
五ヶ月が経ってわかったことは、まず俺はちゃんと人として生まれた。とても大事だ
そして生理現象を制御することはできない。例えば泣く、排尿、排便などだ
さておき、母親のメアリは18歳、父親のマッシュは19歳。
ふたりとも前世のほぼ俺と同い年だ
でも何故だろう。女性に免疫のない俺だがメアリを女性として見たことがない。母乳をもらうときも何の興奮もない、わけではない時期(もらいたての頃だ)もあったが、きっと前世時代に培ってきた思考のせいだろう、今は母親の裸を見ても興奮しないという状態になった。人間の心の仕組みってちゃんとしているな
つくづく感心する
それと俺たちが生活しているデリシア村は人口200人くらい(この世界では割と大きめな村らしい)で、農業と狩りが盛んだ。お金と思わしきものは見たことがないし両親がお金の話をしているのも聞いたことがない。そもそもこの世界にお金という概念があるのだろうか?
だが、ここでの生活はさほど悪くないと思う。俺はおっぱいを吸っていれば良いので当たり前だろと思うかもしれないが、両親は瘦せこけていないし食べているものを見てもパンと野菜、肉がちゃんとある。ここの気候は北海道のような感じだ。北海道には家族でよく行っていたのでその経験からそう感じたのだ。
しかし、さすがにそろそろ母乳も嫌になってきてしまった。想像してみてほしい。日本人として普通に食事していた人間が急に味のうっすい牛乳を毎日飲まないといけないのだ。はじめの方は耐えれていたが、もうきつい。母乳かピーマン絞り汁かどちらか選べと言われたら迷ってしまうかもしれない。もちろん前世の俺だったら母乳一択だが
あと、赤ちゃん時代が想像以上に過酷であるということが分かった。
まず免疫がアホみたいに弱いせいでめっちゃ風邪ひく。熱が出たり、吐いたり最悪だ。
それからゲップがうまくできないとき、息ができない。しんどいったりゃありゃしない
あと、おむつに似たようなものもあるが前世のおむつみたいに、ムレ感ゼロ、とかじゃないからめっちゃ気持ち悪い。赤ちゃんが排泄したあとに泣いたりする理由がよ~く理解できた
「シュンちゃん初めてのご飯の時間でしゅよ~」
俺の目の前に白いドロドロとした何かが置かれる
そうそう今日から離乳食が始まるんだった。やっとだ。やっと母乳卒業だ。でも、これ大丈夫か??
「はい。あ~ん」
俺は掛け声にあわせ口を恐る恐る開けメアリが持つスプーンから運ばれてくる食事を口にする
味の感想としては何の調味料も含まれていないおかゆを食べてる感じというのがベストな表現だろう。いや、まだ味付けゼロのおかゆの方がうまい気がする
味のしない液体から味のしない固体にシフトチェンジしただけじゃねーか!
早く歳をとってまともな食事がしたい
「どうでしゅか?」
「ああい」
俺はしかめ面でまずいと言う。言ったつもりだ。だってしかたないだろう。舌の発達がまだまだなのだから。それでも発声はできるのだ。はじめて喋った(喋ったとはいっても言葉になっていないが)時はそれはもう両親は驚いていたさ。天才だ。うちの子は天才だ!って 察しの通り超親バカだ
「そうでしゅか~おいしいでしゅか」
母メアリはとても嬉しそうだ。
「あああ、ああいっえ!」(だから、まずいって!)
はあ異世界って思った以上に大変だ。というよりもこういうことに関しては異世界関係ないか、、、
それから1年が経過した
俺はようやく言葉が伝えられるようになった。ようやくといっても最近できるようになったとかではなく生後八ヵ月くらいで一応ある程度言葉をちゃんと発せるようにはなっていた。だがここで調子に乗ってはいけない。もし調子の乗って色々な言葉を喋ると将来が期待されてしまうからだ。そりゃあ本当に天才な子ならいいだろう。だが、俺に関しては19年間生きてきた経験で喋れるだけだから将来を期待されても困るのだ。心配しすぎだと思われるかもしれないが、今は必要最低限のことしか喋らないようにしている
言葉を発せれるようになったと同じタイミングくらいで歩けるようにもなった
喋ることも、歩くことも、それ以外のことも経験があるというのは大きいなとつくづく思う
それで、家の中を探検したのだが嬉しいことに本が50冊ほどあった。昔、紙は貴重だったと言うしあまり期待していなかったけれど嬉しい誤算だ。前世とおなじで、この世界は紙が身近な存在なのかもしれない。
数冊読んでみたが手書きだった。この村の人が書いたためか、内容はこの村の近くで採れる山菜や果物の一覧だったり、村周辺に生息する動物であったりした。見たことないような植物や動物ばかりでブヒブヒ鳴ってしまうほど興奮したが、何より俺を興奮させたのは村周辺に出現した魔物一覧という本だ。ゴブリンにオーク、コボルトなどメジャー魔物が載っていた。やっぱ異世界といったら魔物だよな。
あ、ちなみに両親は本に付随している絵を見て喜んでいると思っている
さて、今日も今日とて本棚のあるところにやってきているのだが、、、
ん?なんだこれは
A5用紙くらいの紙が本と本の間に挟まっている。俺は気になってその紙を本と本の間から勢いよく引っ張る。俺は勢い余って後ろ向きに転倒する。
痛って~!
絶賛痛がり中の俺の顔めがけてひらひらと紙が落ちてくる
<異世界始めたてのあなたへ>




