第37話
俺達の反転攻勢は失敗し、俺達は再びアールス山に戻された。
俺達はここから防衛線に移るわけだが……後方から物資は来る、それはいい。
問題は質、これは日に日に下がっている。
砲弾は不発が頻発し、小銃は照星が歪んでいる物も増えた。
加えて……
「ええい一発くらい当てたらどうなんだ一等兵ッ! 貴様それで兵士のつもりか!? そこらへんで捕まえてきたネズミに小銃を持たせて突っ込ませた方がまだマシだぞ!」
俺はアールス山の中腹、デュッセル軍が構築した塹壕の中で向かってくるデュッセル兵に対して小銃で攻撃を加えていた。
だが隣では撃ちもしない腰抜けの新米分隊長、ベンヤミンが俺のケツを蹴りながら罵倒してくる。
骸骨みたいな顔を歪ませてビビり散らしてるんだろう、塹壕から頭を出さないようにとっても注意してらっしゃる。
「……伍長殿。貴方も撃っていただきたい。火力が足りません」
「うるさい黙れ! 貴様は黙って撃ってればいいんだ! お前は当ててるから問題ない、口を挟むな!」
苦言を呈したアヌックに対してもベンヤミンはキレながらそう返してきていた。
……こいつがエリアンだったら、もっとマシな指示を出してきていただろうに。
今はこっちに双眼鏡を向けてくる奴を狩る程度だが、いずれ攻勢をかけてくるはずだ。
そうなったとき、果たしてこの分隊長は一緒に戦ってくれるのだろうか?
「そらモーゼス一等兵! 貴様も何をしている!? 早く銃を執れ! 敵を撃ち殺すんだ!」
とうとうベンヤミンはモーゼスに対しても同じ口調と態度で向かっていった。
冗談じゃない、そいつはもう撃てるような状態じゃないんだ。
「伍長殿、そいつには無理です。暫くは休ませてやってください。代わりに俺が──」
「黙っていろ一等兵! 上官命令だ! 今すぐに撃てモーゼス!」
取り付く島もない。
「あ、は……え?」
「私を馬鹿にしているのか!? なんだその態度は! いいから早く撃て! 急げ!」
それまで塹壕内で震えながら座っていたモーゼス。
一応指示自体は通っているのか立ち上がろうとするのだが……
「何だ貴様立つことも出来んのか! 母親に教わらなかったのか!?」
立ち上がろうとしたモーゼスだったが、それも出来ずにその場にしりもちをついてしまった。
小鹿よりも脆弱な足だ。
俺と一緒に死んだ兵士から煙草を剝ぎ取ってた時が懐かしくすらある。
だが今は思い出に浸ってる場合じゃない、下手すればベンヤミンは腰の拳銃でモーゼスを撃ち殺してしまうかもしれない。
「伍長殿! モーゼスは負傷──」
そこまで言った時だった。
俺達のすぐそばに砲弾が着弾し、頭から泥をかぶった。
「敵の砲弾です。向こうからはこっちが丸見え、撤退しましょう」
「ふざけるな! そんなに死ぬのが恐ろし──」
ベンヤミンの言葉を遮るように、俺達の頭上から砲弾が複数降り注ぐ。
どれも俺達を傷つけはしなかったものの、小心者のベンヤミンをビビらせるには十分だ。
「どうしますか?」
「ええい! 撤退しろ!」
そう言った瞬間、我先にと逃げ出すベンヤミン。
砲弾の音と降ってくる泥に驚きながら一目散に後方に下がって行った。
「モーゼス! 肩貸してやる、ほら掴まれ!」
「モーゼスさん! 行きますよ! 逃げるんです!」
不思議な気分だ、慣れもあるんだろうが俺達は砲弾にビビることなく冷静にモーゼスを担いで後方へと下がることが出来た。
逃げる最中にベンヤミンが吹っ飛べばいいのにと願いもしたが、残念ながらそうはならなかった。




