表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アールス~地獄に最も近い戦場~  作者: 田上 祐司


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/46

第31話

 最初は俺をどかそうとしていた兵士達も俺達が兄弟なのだと知ると引いていった。


 ご丁寧に距離をとって二人きりにしてくれるおまけつき、話をするなら今しかない。


 俺達は近くの壊れた建物の残骸に座り、話をすることにした。


「本当に久しぶりだ。レンス、まさか大尉になってたなんて驚きだよ」


「上官が次々死んでいって、半ばなしくずしだったからね。いつの間にか指揮官さ」


 はにかむように笑うレンス、俺の弟……


 かなり痩せちゃいるが他は戦場に行く前と変わらない、短い金髪も、青い目も、そして優しい口調も。


 生きていてくれて、会えて、本当に良かった。


「母さんは元気にしてたかい? 手紙は送ろうとしたんだけど、戦闘ばかりでろくに送れなかったんだ」


「元気さ。カブのパン食って『クソ不味い』ってぼやいてるよ」


 そうして俺達はすこしの間だけ、他愛のない話をした。


 故郷の母親のこと、戦場であった出来事、支給された飯が不味いなんて話も。


 だがレンスも大尉、さして長い時間はとれない。


 だから俺は、本題に入ることにした。


「さてレンス、こっから逃げるぞ」


「え?」


 それまで笑顔だったレンスの顔が一気に真顔になった。


 まぁ、突然兄貴がこんなこと言い出したらそんな反応にもなるだろうが……俺は話を進めた。


「このクソッたれな戦場からバイバイして、故郷に戻るんだよ。そんで母さんも連れてどこか遠い場所に逃げるんだ。決行はそうだな、次の突撃の時にしよう、戦闘のどさくさに紛れて2人で逃げるんだ」


 俺は笑顔で周りに聞こえないように小さな声でそう言った、だがレンスは顔を伏せて表情を曇らせる。


 拙い計画だから迷ってるのか?


 そう思っていたんだが、帰ってきた返事は予想外のものだった。

 

「兄さん、僕は軍人だ。国を……故国にいる国民を守るためにここにいるんだ。兄さんも同じだと思ってたけど、違うんだね」


 故国の為?


 意味が分からん、確かに国は大事だが自分の命に変えられるものか?


「国は大事だ、けど俺にとってはお前も同じ……いやそれ以上に大事なんだよ。お前は違うのか?」


「同じさ。けど僕には軍人として使命がある。責任がある。ここを離れるということはそれを全部捨てて外道になれということと同じだ」


「外道だろうがなんだろうが構うもんか、生きてりゃどうとでもなる。俺はお前のためならなんだって捨ててやる、国も責任も、誇りだってな」


 口調が荒くなっていく、俺の弟は、レンスは家族よりもこのクソッたれの戦場のほうが大事だってのか?


「兄貴の言うことは聞くもんだ、帰ろうぜ。そんでどこまでだろうが逃げるんだ」


「僕はもう大人だ。兄さんの後ろをついて回るだけの子供じゃない。1人の大人だ。自分の道は自分で決める。兄さんも好きにしたらいい」


「レンス、おい待てって」


 立ち上がって鉄帽を被り、背中を向けてその場を立ち去ろうとするレンスを追いかけて肩を掴む。


 冗談じゃない、俺は何がなんでもこいつを連れて帰るんだ。


「……自分の部隊に戻れ。一等兵」


 ……俺の弟は、こっちを振り返るでもなくそう言った、いや命令してきた。


 一等兵、そう呼んで。


「命令だ一等兵。自分の、部隊に、戻れ」


 とても冷たい口調だった。


 兄弟としてではなく上官として、レンスは俺にそう言ってきたんだ。


「ああそうかい。分かったよ」


 掴んでいた肩から手を離し、俺は半ばやけくそで敬礼をして送ってやった。


 戦闘以外でこれほど苛ついたことはない、最悪の気分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ