第29話
突撃する傍ら、俺は横目で弟の姿を探した。
突撃していく奴等に混じっちゃいないか?倒れた奴等の中に……死体に居ないか?
敵よりもそっちが気になって仕方がなかった。
「おい一等兵! 集中しろ! 気持ちは分かるがしくじればお前が死ぬことになるぞ!」
「わ、分かってます!」
弟のことは気になるが今はそんな時じゃない。
敵ももう一切容赦なく銃弾を叩き込んできていたし、俺達も容赦はしない。
デュッセル軍は山の斜面を降りていく俺達に対して銃弾と砲弾の雨を降らせ、必死の抵抗をし続ける。
「撤退する味方がいるかもしれないのにデュッセル軍は正気か!?」
「おちつけ一等兵。俺達もよくやる戦術だ」
頭の悪い受け答えをしつつ、下からこちらに狙いを定めてくる機関銃手を狙う。
が……
「くそったれ当たらん! 遠すぎる!」
「下手糞! お前は一体軍学校で何を学んできたんだ! クソする方法と飯の食い方か!?」
エリアンは俺を罵倒しつつ小銃をひったくると素早く敵に狙いを定めて撃った。
土嚢に守られていた敵の機関銃手はエリアンの放った弾に当たり倒れる。
「見事な腕前ですね!」
「これでも元は教官だ! それも射撃のな!」
意外だった。
エリアンがそんなことをしていたとは……
「そんなことよりモーゼス! 一体どうした!? 早く来い!」
感心していた俺は気付くのが遅れてしまった。
モーゼスの歩く速度が遅くなってきている、歳のせいかとも思ったがなにやら違うみたいだ。
「すいません……すいません」
「どうしたモーゼス? 負傷でもしたか?」
俺の問いに対して、モーゼスは首を振って答えた。
そういえば口数も少なくなってきている、いつもならもう少し愚痴を吐いたり声をかけたりするはずなのに。
「モーゼス……お前」
「いい、行こう。先に」
顔を合わせてくれない、それどころか少し震えているような……
だが今はどうしようもない、せいぜいモーゼスが死なないように援護してやることくらいだろう。
「……大丈夫なんだな? そうじゃないとしてもここじゃ休めんから先に行くしかないが」
俺は今回、いつもよりモーゼスの動きに注意するように心がけるようにした。
何か重大なしくじりをしそうだったから。
太陽が真上に来る頃、当初の予定通り麓にある敵陣地を押さえることが出来た。
まだまだ警戒しなければならない状態なのには変わりないが休息が取れるだけまだましだ。
「大丈夫か? モーゼス」
「ああ、なんとか……」
エリアンの言葉に対してもモーゼスは俯いたままだ、気分が落ち込んでいる。
一時的なものならいいが、これがずっと続くようならそれは頭の病気だ。
いままで見てきた仲間の中にも今のモーゼスのような奴がごまんと居た。
銃弾や砲弾の音に怯え、震えだし、時には発狂するという病、原因は砲弾で頭が揺らされて起こるんだそうな。
それになってしまった結果臆病者と罵られたり、時には上官に撃ち殺されたり後方に送られて敵前逃亡で裁かれ絞首刑になった奴もいる。
「…………」
俺にはモーゼスがそうなってしまうんじゃないかと思えてならなかった。




