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アールス~地獄に最も近い戦場~  作者: 田上 祐司


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第18話

 塹壕の中に溜まった泥に足を沈ませながら俺は味方陣地を目指した。


 背中に背負った仲間は苦しそうにうめくだけで役には立たない、もし敵が来たら俺は拳銃で敵の相手をすることになる。


 デュッセル兵から鹵獲した回転式拳銃は装弾数が6発、当然相手は服数人で来るだろうから無駄遣いは出来ないし足りない。


 撃つのは片手で出来るが装填は片手じゃ出来ない。


 この6発の銃弾が、俺とこの仲間の身を守る唯一の命綱だ。


「がんばれ、あと少しで味方の陣地だ。後ろから敵が来たら俺に言え」


「ああ……」


 響き渡る銃声に俺達の耳は慣れきっていた。


 恐らく今も銃弾が耳の側を掠めて行っただろうが、今の俺には気にせずに歩ける。


「家に残してきた家族ってのは……どんなだ?」


 歩きながら、俺は背中に背負った仲間に対して言葉をかけてみた。


「妹と、母親を残してきた……2人とも明るくて、いい家族だよ」


「そうか、なら尚更死ねないな」


 山を下り、味方陣地付近の塹壕へと入ろうとした時だった。


「後ろだ」


 振り向きざまに銃を構え、立っていた敵に銃弾を叩き込んだ。


 まずは一発、腹に当たったがまだ動いている。


 うめく敵に続けてもう一発、今度は首に当たりやっと止まった。


「急ぐぞ、敵が集まってくる」


 背負いなおした後、俺は先を急いだ。


 俺が撃ち殺したさっきの敵だが俺を撃つことをためらっていたように思える。


 優しい奴だ、だがそんな奴は戦場に来るんじゃない。


「ああ、味方が機関銃までたどり着いた……やったぞ、これで何とか陣地まで戻れる」


 味方陣地から向かってくる敵の掃討を行うために機関銃攻撃が開始された。


 味方の心強い援護射撃……とはならない。


 前から後ろから撃たれる可能性が出て、より負傷、いや死傷率が上がったのだ。


 日は出ていて人の姿は分かりやすいだろうが、もう敵味方を区別するような余裕は無いだろう。


「ああクソ! やっぱりだ! こんな時に間違えるんじゃねぇ!!」


 俺のすぐそばに銃弾がばらまかれた。


 撃ってきたのは前方、間違いなく味方からだ。


「クソ! 縫い留められた!」


 俺がいる場所に向かって、機関銃や小銃を撃ってくる味方。


 背負った仲間を降ろし、塹壕の中で壁を盾にして弾から身を守るが敵が追いついてしまったら俺達は終わりだ。


「また来たぞ……」


「こんな時に!」


 拳銃を構える、今度は2人だ。


「デュッセルの糞野郎共!! ぶち殺してやる!!」


 弾に限りがあるのを承知の上でありったけ叩き込んで黙らせた。


 そしてもう弾はない。


 次が来れば終わりだ。


「こうなったら一か八か走るぞ。もうそれしか道がない」


「…………」


 仲間を背負いなおし、味方陣地まで走ろうとした。


 その時だった。


「居たぞ!」


 後ろから敵がまた現れた。


 撃たれる。


 敵のデュッセル兵と目が合った。


 構える銃の照準が俺を狙っているのがわかる。


「頭を下げてください!」


 聞きなれた声と共に味方陣地の方から一発の銃声が響き渡る。


「走ってください! 急いで!」


「こっちだ煙草屋!」


「言っとくが俺は行くつもりは無かったからな」


 俺の周りに味方陣地から分隊の皆が走って来てくれた。


 小銃を構えるアヌック、ニワトリをぶっ放しながら手招きするモーゼス、そして手榴弾を投げ込むエリアン。


 今だけはこいつらが神様か天使に見える。


「走れ! こっちだ一等兵! アヌック、モーゼス! もういい退くぞ!」


 俺はこうして、自分の分隊の手を借りながら味方の陣地へと帰還を果たした。






「なんてこったあんなところから味方を担いで戻ってきたのか!? さすが俺達の英雄様だ!」


 戻った俺達を仲間のペイル兵達は賞賛してくれたが、今はそっちに返事している時間すら惜しい。


「おい軍医は!? 早くこいつの治療をしてやってくれ!」


「任せろ!」


 俺は背中に背負った仲間を軍医に任せ、その場にへたり込んだ。


 今更になって手足が震えてきたんだ。


「命令無視だぞ、一等兵。処罰はせんが今度からは気を付けろ」


「てっきりくたばったかと思ったぞ。いつぞやの砲撃の時といいお前は不死身か煙草屋」


「神様にも祈っておくものですね」


 エリアン、モーゼス、アヌックの順に声をかけてきた。

 

 だが今はそれがたまらない。


 やり遂げることが出来たんだから。


「ありがとうなお前等。助かったよ」


 そう礼を言った直後だった。


「すまない。せっかく助けてくれたんだが……」


「は?」


 俺の肩に手を置きながら、軍医はこう言った。


「彼は死んだ」


 

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