第12話
対空機関砲を目指す俺達の前にそいつは現れた。
「でたぞ!」
背中にタンクを背負った兵士が塹壕内にいる俺達に向かって鉄パイプのようなものを向けてきた。
「火炎放射器だ! ぶち抜け!」
向けられた鉄パイプから炎が吐き出され、先行していた分隊が焼かれた。
「くそったれ兵器の博物館だな! 何でもありやがる!」
火炎放射器と呼ばれるこの兵器は今回の戦争でかなりの数が使われており、塹壕や堡塁の中に籠っている敵に対して有効だった。
一度にまとめて焼き払われる可能性があるため、俺達はこいつらがでてきた場合最優先で狩る。
エリアンの指示の下、俺達は一斉に銃弾を浴びせた。
「離れろ!」
銃弾を数発受けたそいつはタンクの中身と引火し爆発した。
「地味な花火だな!」
「煙草屋! 敵は他にも居るんだぞ!?」
モーゼスは曲がり角から突然出て来たデュッセル兵を銃剣で突き殺し、銃弾を装填している奴らの腹をぶち抜いていく。
俺はというと……手を上げ投降する姿勢を見せた奴に対して指が動いた。
「やっちまった!」
「ほっとけ煙草屋!」
次だ次だと、俺達は先を急ぐ。
だが俺はここに至るまでにかなりの銃弾を使い、残りは少なかった。
「ああクソ、手が震える……」
かたかたと震える手で、俺は弾を銃に込める。
「こっちも弾切れだ!」
どこの戦場でも同じだろうが、戦場で弾が切れた時には敵が使っていた武器を鹵獲して使用していた。
皮肉なことに、デュッセルの奴等が使っている銃は俺達が使っている物よりも高性能なものが多かった。
「なかなか良い銃ですね! 弾が真っすぐ飛びます!」
どうやらアヌックも弾切れだったようだ。
さっきまで神にお祈りをしてた奴が今じゃデュッセル兵から奪った小銃を使って弾だけ返品してる。
鉄帽からはみ出た金髪には細かな肉片や血、泥が付いてる、まぁそれは全員同じだが。
「ザマァみやがれ! 退いていくぞ!」
「とっとと出ていけこのクソボケが!」
「ペイル共和国万歳!」
ペイル兵達が叫ぶ、降りかかる炎に屈することなく俺達ペイル軍は進み続けた。
汚泥と死体を軍靴で乗り越えて、デュッセル兵を蹴散らし、対空機関砲を目指し陣地を制圧する。
無事な堡塁に手榴弾を投げ込み、弾の無くなった銃を持ち替え銃床でデュッセル兵の頭を叩き割った。
銃剣がへし折れた結果、鉄帽や塹壕に使っていた木材で殴り付けて殺す者もいた。
「一等兵殿! 右!」
俺が1人を殴り殺すのに集中していた時だった。
アヌックが叫ぶ。
「くたばれペイルの豚野郎!」
弾も何も無くなったんだろう、デュッセル兵が塹壕の外から飛びかかられ、俺は汚泥の中に直接顔面を埋めることになった。
背中に乗られ後頭部を何度も殴り付けられ、立ち上がろうとしてもできない。
「うわぁぁぁ!!」
窒息して意識が飛びかけた時だった、アヌックの叫び声と共に俺の背中が軽くなった。
「げっほげっほ、おえっ」
顔を上げて俺は久しぶりに呼吸が出来たが口の中に目一杯入った泥のお陰で盛大にむせ返った。
敵はどこかと思って泥のついた目をぬぐい近くを見渡す。
思いの外近くにいた。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇッ!」
俺のすぐ隣、もうピクリとも動かないデュッセル兵に対して、アヌックは何度も何度も曲がった銃剣を突き刺していた。
返り血と泥で元の金髪も綺麗な顔もすっかり見えなくなり、まるで悪魔のような形相だ。
「アヌックもういい! 先に行くんだ!」
俺はアヌックの手を止めて、なんとか立ち上がった。
その時だった、俺達の頭上、暗い夜空に数発の照明弾が上がった。
「合図だ……勝ったぞ」
エリアンが呆然としながら泥沼の中に尻餅をつく。
目映いくらいに輝くそれは俺達ペイル軍がデュッセルの陣地をおさえたときの合図だった。




