21破滅への道【お父様編②-4】
本日、2話連続投稿しています。これは2話目になります。
先に、20破滅への道【お父様編②-3】をお読みいただくとお話がつながります。
よろしくお願いいたします。
誤字報告に感謝します。
これからもよろしくお願いします。
感想もお待ちしております。
― ふう、これでキャロルの施設問題も片がつきそうだ。
あとはカリーズからの返事を待つばかりだが、どのくらいで返事がくるだろうか?
金鉱のときは約1週間だったが、今回はこれから手配をするのだろうからもうしばらくかかるだろう。
私はその夜、良質な金剛石を大量に扱い、押しも押されぬ大店になったレイトン商会の夢を見たのだった……。
1週間後。
アーサー医師から療養所のリストが届けられた。
『療養費重視』と伝えておいたおかけで、全部で20ほどの施設名が並んでいるがいずれの療養費もそう高額ではない。
私はその中でももっとも療養費が安い療養所を3つ抜き出した。
ひとつはかなり遠方で、行き来するためには途中の街で何度か宿泊する必要があるため却下した。次は近かったが、受け入れ対象年齢が18歳からなので、もうすぐ16歳のキャロルでは受け入れてもらえない。
最後は、馬車で半日と少し離れた街の外れにある元病院だった建物を再利用している療養所だ。
療養費も安く、希望すれば無期限で預かってもらえ、受け入れも15歳以上となっている。
― うん、ここがいいだろう。
私は念のため、ルシアナの気持ちが変わっていないか確認したが、やはり『旦那様のよいと思うようになさってください。』と前回と同じことを言った。
私が言えた義理ではないが、ルシアナはあんなに気に入っていたキャロルに本当に興味を失ってしまったようだ……。
なにはともあれ私は、目星をつけた療養所にキャロルの受け入れが可能かどうか打診する手紙を書いたところ、すぐに『いつでも受け入れ可能。』との返事がきた。
私はアーサー医師を呼び、キャロルの受け入れ先の療養所が決まったことを伝え、キャロルの転地と同時にアーサー医師の解任を告げた。
「というわけで、1週間後にはキャロルを療養所に連れていくつもりです。
アーサー先生には申し訳ありませんが、その日をもって契約終了とさせてください。
それからキャロルには私から話すので、なにも言わないでください。」
「わかりました。お役に立てず、本当に申し訳ありませんでした。
とはいえ残りの期間、専属医として精一杯尽くさせていただきます。」
アーサー医師はそれだけ言うと出て行った。
それから私は、ブランドンに使いを出し、明日レイトン商会の商会室まで来るよう言付けした。
翌日。
レイトン商会の商会長室で、私とルシアナはブランドンと久しぶりに顔を合わせた。ブランドンは何度もキャロルに冷たくあしらわれたせいもあり、めっきり邸に来る回数が減っていた。
メイドがお茶を配り出て行くと、私は口を開いた。
「さっそくだがブランドン。
君とキャロルの婚約は解消してもらうことになる。
契約通り、婚約解消後は援助金を打ち切ることになるので、そのつもりでいてくれ。」
「え、ずいぶん急ですね!
こう言ってはなんですが、婚約解消前に僕に相談してくれてもよかったのではないですか?
それにキャロルは納得したのでしょうか? 」
ブランドンが避難めいたことを言うとは思っていなかったので少しだけ驚いた。
援助金が惜しくなったのだろうか?
私は咳払いをひとつし、つづけた。
「キャロルには、明日話すつもりだ。
君も一応、立ち会ってくれ。」
「それはかまいませんが……このあとキャロルはどうするんですか?
記憶はまだ戻っていないんですよね?」
「キャロルは……、療養所に入れることにした。
記憶が戻るまでそこで世話をさせる。」
「戻るまでって……では、記憶が戻らなかったらキャロルは一生そこにいるということですか?
いくらなんでもそれは可哀そうなのでは……。」
― お飾り婚約者になにがわかる!
思わずそう言おうと口を開けたが、それよりも早く隣に座っているルシアナが、ブランドンに向かって半ば叫ぶように言った。
「では、あなたがキャロルの世話をしてくれるのっ?
娶ってずっと面倒をみてくれるっていうのっ?」
いままで無言だったルシアナがいきなり怒鳴ったため、ブランドンはルシアナをまじまじと見つめて驚いている。
私もルシアナがこんな風に怒鳴るのを見るのはかなり久しぶりだ……。
「ルシアナ、よしなさい。」
ブランドンを睨みつけてフーフーを肩で息をしているルシアナを、とりあえず落ち着かせようとしたが、ルシアナはすばやく立ち上がって無言で部屋を出て行ってしまった。
私はため息をつき、ブランドンに向き直った。
「すまんな。ルシアナが、ここしばらくあんな調子でな。
少し前までは本当の母子のようだったのに、キャロルが記憶を失ってからというものルシアナに対して一向に心を開かないのでな……。
まあ、それがショックだったのか、急にキャロルの顔を見たくないと言い出したんだ。
それで療養所へやることにしたというわけだ。」
顔を見たくないと言うのは嘘だが、ルシアナがキャロルに興味を失ったのは事実だ。
しかしそれなら先ほどのルシアナの反応はなんだろう?
ルシアナともきちんと話をしたほうがよいのだろうが……。
ブランドンが出て行ったあと、秘書にルシアナの居場所を聞くと、馬車を呼び邸に帰ったと言う。
私はもう一度ため息をつき、秘書に手紙が届いていないか確認する。
「なにも来ておりません。」
私は商会長室に戻ると椅子に深く腰掛け、目をこすった。
キャロルの問題は、ほぼ片付いた。
しかし、カリーズからの手紙は、あれ以来届いていない……。
― その後、金剛石は一体、どうなったのだろう? 金脈だって、すでに採掘が始まっているはずだが……。なにか事故でもあったのだろうか?
できればキャロルを療養所にやる前にカリーズから金剛石について詳しく聞いておきたかったが、仕方あるまい。
あと2、3日待ってみることにしよう……。
いつもより早めに邸に戻った私は、ルシアナの部屋を訪れた。
最近のルシアナはカジノに行くことはなくなったが、その代わり3日に1度のペースで占い師のマダム・アウロラとやらの館に通っているらしい。
貴族の中には、占い師や呪い師と懇意にしている家門も少なくない。
メイドのサラの話では、ルシアナはマダム・アウロラと会ったあとは心持ち、すっきりとした表情をしているから良い息抜きになっているようだ、と聞いていた。
だから私もカジノよりはかなり優良な娯楽として特になにも言わなかったのだが……。
ルシアナの寝室をノックするとメイドのサラが出てきて、すでにルシアナは休んでいると言う。
「こんなに早くからか? ルシアナはどこか具合でも悪いのかな? 」
「いえ、ただ眠りたい、と。それから明日のことは承知しています、と旦那様への言伝がございました。」
「……そうか。それならゆっくり休ませてやってくれ。頼んだぞ。」
「はい。かしこまりました。」
こういうときのルシアナとは話そうとしても話にならないことが多い。
明日の朝にでも少し話せるとよいのだが……。
時間が空いたので、久しぶりにサロンにでも顔を出そうかと考え、再度馬車に乗り込む。
ホールで馬車を待っていると、キャロル専属メイドのヘレンを見かけたのでキャロルへの言伝を頼む。明日の午前中に書斎まで来るように、と。
サロンに来たのは、たしかカリーズと会った日だったか……だとすると、1ヶ月ぶりくらいになる。
― カリーズはどうしているのやら……。せめて連絡が付くとよいのだが……。
やはり金剛石の件が気になって仕方がない。
せっかくサロンに来たのに早い時間のせいか知り合いはひとりもいない。
注文した酒を1杯だけ飲んで席を立つ。
ドアを開けようと手を伸ばそうとしたちょうどそのときドアが開き、外からでっぷりと太った大男が入ってきた。
「失礼。」
私はその大男とすれ違うように表に出ると、馬車を呼ぼうと御者に合図をした。
閉じかけたサロンのドアの内側から賑やかな声が聞こえてきたが、私は馬車に乗り込み扉を閉めると邸に戻るよう指示した。
『おや、カリーズじゃないか! 久しぶりじゃないか? 』
『うん、約3カ月ぶりかな? ずっと新しい本の取材で遠出していたんだよ。』
『売れっ子の郷土史家さんは忙しいねぇ! その割には、ちっとも痩せていないみたいだが? 』
周囲から笑い声が起きる。
『それが、取材先の名物料理がことのほか美味くてね! ああ。あの肉はたまらなかったな! 』
再び笑い声が起きる。
『はははっ! でもその間は大学の講師の方はどうしてたんだい? 』
『ああ、大学側に言って休講にしていたよ。ちょうど、研究室の床板の一部が痛んでいたので留守の間に職人に貼り替えを依頼してね。』
『ああ、ならきれいになった研究室に戻れるってわけだ。』
『そうそう。あ、でもその前に職人に預けた研究室の鍵を返してもらわなきゃ。』
『え! 職人に鍵を預けたのか? 不用心だなぁ。室内のものがごっそりなくなってたって知らないぞ? 』
『ははは! 僕の研究室なんて値打ちのある物なんてなにもないから大丈夫さ。』
『そうかぁ? お前のさんの名前は……まあ、知らない奴の方が多いか! 』
『ひどいなぁ。でもまあ、郷土史家なんてそんなものさ! 』
はははは、あはははは……。
郷土史家としてはそれなりに有名なカリーズ氏が、自分の名前と研究室が詐欺に使われたと知るのは、もう少し先のことだった。
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