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20破滅への道【お父様編②-3】

本日、2話連続投稿しています。これは1話目になります。


誤字報告に感謝します。

これからもよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


― もう辛気臭いキャロルの顔と声は真っ平だ。


その日、帰宅した私はルシアナにキャロルの今後についての計画を話した。

ルシアナは反対しないばかりか、キャロルに対してまったくの無関心のように見えた。


「旦那様のよいと思うようになさってください。」


こうして私たちはキャロルを手放すことを決めたのだった。


***


あれから1週間後にカリーズから試掘がうまくいったこと、今回の配当金を送金したこと、想定以上の埋蔵量が見込めそうなこと、本格的な採掘は半月後から始められることなどが整然と書かれていた


私はカリーズからの手紙を読んで、心から安心した。じつのところ『カリーズに騙されたのではないか……』と多少は心配していたのだ。


とりあえずカリーズが送ってきた配当金を今月の借入金の返済に充ててサリバンの心痛を少しだけ軽くしてやった。


『ありがたい。このままうまくいけば俺の胃痛も治るだろうさ。』


サリバンは冗談めかしてそう言ったが、このまま採掘が順調にすすめばレイトン商会の借入金が完済される日も遠くない。


その3日後。

さらにサリバンの胃痛を(やわ)らげる出来事があった。

例の騒動以来、行き場を失い倉庫で眠っていた大量の化粧品や美容薬を始末できたのだ。


回収した(くだん)の美容薬を分析したところ問題なしという結果だったが、一度流れた悪評はそうそう消えない。

安く店舗に卸そうにもどこの店もレイトン商会の化粧品の類は置きたがらず、かといって廃棄するにも金がかかるので頭を抱えていたところ、なんとそれらを引き取りたいという奇特な商会が現れたのだ。

もちろん卸値よりもうんと安く買いたたかれたが、おかげで少しは赤字分を取り戻すことができた。


少し前までは頭痛の種だった借入金の返済の目途や不良在庫の問題が片付いて、私は久しぶりに上機嫌で茶をすすりながら、カリーズについて考えていた。


― ふふふ、カリーズのおかげで風向きがよい方に変わってきたのかもしれないな。以前もカリーズのおかげで窮地を脱したことがあったし……見た目は貧相でまるで貧乏神のようだが、私にとっては幸運の使者ということだな……。


試掘で得た配当金は出資した額には及ばなかったが、今後、(きん)の採掘が安定すれば元手を大きく上回る(かね)が入ってくることは間違いないし、目減りした私の隠し口座の数字も増えるだろう。


― とにかく次にカリーズに会ったら上等な酒と食事をご馳走して、金鉱にどのくらいの価値があるのか詳しく訊かねばな。


そんなことを考えているとドアがノックされ、秘書が『速達で届きました。』と1通の手紙を差し出す。

差出人を見ると、まさにいま頭の中で考えていたカリーズからだったので、秘書を下がらせると急いで封を切るといそいそと便箋を取り出し文面を読む。

手紙を読み進めるうちに私は驚きのあまり便箋を持つ手が震えてきた。


カリーズの手紙を要約すると『金鉱から少し離れた場所に別の鉱脈を発見した。鉱夫の中に多少鉱物に詳しいものがいて、”金剛石(ダイヤモンド)” かもしれないと言っている。さっそく試掘をする予定だが、出資する気はあるか? 』という内容だった。


金剛石(ダイヤモンド)だと!!


金剛石(ダイヤモンド)は数年前に隣国でわずかに発見された、もっとも新しい鉱石のひとつだ。非常に硬い特性から当初は工芸用の工具などに使われるだけで、それほど価値があるものではなかった。


ところがその後、金剛石(ダイヤモンド)を磨くことで非常に透明度が高い煌めく宝石になることが判明した。

最初にそのことに気付いた職人がアクセサリーとして売りだしたところ、『これまでの色の付いた宝石とは一味違う』と貴族の間で大流行したのだ。


しかし|金剛石(ダイヤモンド)の採掘量はわずかだったことに加えて、透明度が高いものは希少ということもあり、金剛石(ダイヤモンド)(きん)よりも高値で取り引きされている。

レイトン商会でもなんとか取りある変えないか頑張ってみたが、すでに隣国で独占されている状態で仕入れを断念した過去がある。


そんな貴重な金剛石(ダイヤモンド)の鉱脈が見つかったとしたら、たとえわずかな量であっても大きな儲けにつながることは間違いない。

しかもうまくいけば、流通をレイトン商会で独占できる可能性だってあるだろう!


― 出資する気はあるか、だって!? するに決まっているじゃないか!!やはりカリーズは私にとって幸運の使者、いや幸運の神様だ!


私は興奮を静めるべく深呼吸をして、もう一度カリーズの手紙を読み返す。

『出資する気はあるか? あるなら至急、出資金を次の口座に………』


出資金は高額だった。私の隠し口座にある預金の約半分だ。

しかし金剛石(ダイヤモンド)を扱えるチャンスを見逃すわけにはいかない。たとえ、隠し口座の預金全額を叩いてでも払ったに違いない。


私はカリーズの手紙を掴むと、(はや)る気持ちをおさえながら馬車を銀行へと向かわせ、

カリーズの手紙に記載されていた口座に指定された額の金を送金した。


金剛石(ダイヤモンド)の流通ができるようになれば、レイトン商会はさらに規模を大きくできるし、うまくいけば国外へ進出できるかもしれない。そうなれば、親父も俺を認めるしかないだろう。そうだ。これは親父を見返すチャンスなんだ!!


私は金剛石(ダイヤモンド)がもたらすであろう、さまざまな利益について考えていた。そして、はたと気付いた。


金剛石(ダイヤモンド)があれば、キャロルの前世の記憶はもう無くてもいいんじゃないか?


そうだ。金剛石(ダイヤモンド)をレイトン商会の主力事業にすれば、いつ戻るともしれないキャロルの記憶を当てにしなくてもよくなるのではないか。

どのみちキャロルは療養所に入れて、記憶が戻ったら男爵家に戻そうと思っていたが……どうやらその必要もなさそうだ。


それなら一生暮らせる施設を探してそこに押し込めておいた方が楽だろうな……。

たしか、どこかの田舎に “なんらかの事情で家に置いておけない家族” を預かってくれる施設があると聞いた記憶があるがそこはどうだろうか?


― ふむ、我ながら妙案だ。カリーズからの知らせで、またひとつ悩みが減ったな。

とりあえず、療養所のことなら医者に訊くのが一番だろうから、帰宅したら、キャロルの今後についてアーサー医師に相談かてら尋ねてみるとしよう。


自宅に向かわせた馬車の中でそう考えた私は、邸に着くとメイドにアーサー医師が来ているなら書斎に来てほしいと伝えるよう言いつけた。


ほどなくしてアーサー医師が書斎にやってきたので、さっそく話を切り出した。


「アーサー先生、お呼び立てして申し訳ありませんな。最近のキャロルの様子はどうでしょうか?  記憶を失くしてすでに半年近くたちますが、一向に改善の兆しが見えないように私は感じているのですがね……。」


アーサー医師は頻繁にキャロルを訪問しているが、キャロルの記憶を取り戻す役には一切立っていない。口調にとげとげしさが混じっても仕方ないだろう。


「男爵。それは大変申し訳なく思っておりますが、最初にお話ししたように人間の記憶は繊細なのです。

 それに一番辛いのはキャロル嬢でしょうが、彼女はよく耐えていると私は思っております。」


アーサー医師は私をじっと見つめながらそう言ったが、私から見れば、キャロルはただただ殻に閉じこもっているようにしか見えない。

本当に記憶を取り戻したいなら、自分からもっと行動してもよいだろうと思うくらいだし、アーサー医師から働きかけてもいいくらいだ。


― まったく、なんのために雇ったと思っているのだ……。


まあ、キャロルを施設に入れると決めたのだ。

キャロルを施設に入れたらアーサー医師との縁も切れるのだから、いまさらそんなことをアーサー医師に言っても仕方あるまい。

それよりも施設のことを訊いてみなくてはならない。


「そうですか。とはいえ、いま言ったようにここにいてもキャロルの記憶は戻りそうにない。

 そこで気分を変えてみてはどうかと考えたのですよ。

 アーサー先生は、キャロルのような患者を受け入れてくれる施設をご存じありませんか? 」


「ああ、転地療養ですね。それはなかなか名案かもしれませんね。

 ふむ、いくつか心当たりがありますが、ご希望はありますか?」


「あー……そうですね……まず、長期間預かってくれる所がいいですね。短期間だと、ようやく慣れた頃に退院となってしまっては落ち着けないでしょうし。

 それからあまり療養費が高くないところをお願いしたいのです。

 お恥ずかしい話ですが、最近は商売があまりうまくいっていませんので……できれば、療養費の安さ重視でいくつか教えていただけると助かるのですが……。」


「はあ、安さ重視ですか? しかしそれだと、最低限の世話しかしてもらえない場合もありますが……? 」


アーサー医師が少し不機嫌そうに私に尋ねる。


「あー……キャロルは若いとはいえ、しっかりした子でしたから自分の世話くらい自分でできるでしょう。アーサー先生はお気になさらなくて大丈夫ですよ。」


「はあ、そうですか? まあ男爵がそうおっしゃるなら……。

 ところでキャロル嬢には婚約者がいるとお聞きしましたが、そちらは……? 」


「ああ、はいおりますが、婚約は解消するつもりでいます。このような状態ですから婚約者も否とは言わないでしょう。」


「はあ、それはそれは……。

 わかりました。ご希望にあいそうな施設をいくつか調べてお知らせいたしますので、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか? 」


「もちろんです! ご面倒をかけて申し訳ありませんな。

 それからキャロルが療養所に入ったあとは……。」


「ああ、私はお役御免ということですね? それはもちろんかまいませんが、キャロル嬢が転地するまでは担当させていただいてもよろしい、ですよね?」


「え? ええ、もちろんです。」


やけに圧が強い気がしたが、いまさら医師を変えるわけにもいかない。引き続きアーサー医師に頼むしかないだろう。


「それはよかったです。

では、施設の資料はできるだけ早くお渡しできるようにしますので、本日はこれで失礼します。」


「ええ、よろしくお願いします。」


― ふう、これでキャロルの施設問題も片がつきそうだ。


あとはカリーズからの返事を待つばかりだが、どのくらいで返事がくるだろうか?

金鉱のときは約1週間だったが、今回はこれから手配をするのだろうからもうしばらくかかるだろう。


私はその夜、良質な金剛石(ダイヤモンド)を大量に扱い、押しも押されぬ大店になったレイトン商会の夢を見たのだった……。


お読みいただき、ありがとうございます。

お父様編、もう1話ありますので、よかったらつづけてお読みください。


誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。

よろしくお願いします。

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