19破滅への道【お父様編②-2】
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これからもよろしくお願いします。
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「おお、じつはですね! とびっきりの儲け話があるんです。」
カリーズは目を輝かせると、わずかに身体を寄せて声をひそめた。
「ここだけの話ですが、隣国で金鉱が見つかったそうで試掘をおこなう予定なんですよ。ただそれが、わずかに資金が足りなくて行き詰っている、と。」
「それのどこが儲け話なんですか? それは見込みがないから投資がつかないだけじゃないですか? めずらしくもありませんよ。」
私は少しがっかりしてそう言った。
「いえいえいえ。資金が足りないのは、たしかに投資がつかないせいですが……決して見込みがないわけじゃないんですよ……じつは少しワケアリでして……。
ここから先は投資をしない場合でも口外無用でお願いしたいのですが……もしそれができないようならお話はここまでにさせていただきますよ、ふふっ……。」
“どうしますか? “ というように私の顔を下から見上げるカリーズの態度には少しイラっとしたが、カリーズの自信ありげな口調に、投資家としての私の勘が “聞くべきだ” と告げている。
それにもし期待外れの内容だったとしても、口外しないと約束すればいいだけだ。
「わかりました。お話を聞きましょう。ですが、投資するかしないかはお話を聞いてからです。もちろん口外するようなことはしないので安心してください。」
「それで結構です。それに決して後悔はされないでしょうから……。
じつはですね、その金鉱を発見したのはワタシなんですよ。」
「はぁ? あなたが? だってあなたはたしか……。」
「ワタシの本職を覚えてらしたのですね。
ええ、私は郷土史が専門で、鉱脈などの採掘事業とは無関係です。
ところがですね、ひょんなことから隣国のある地域の昔の文献を入手しまして……そこはなんの特徴もなく、これまで研究する人もいないような地域でしてね。
まあ、ワタシもほんの暇つぶし……ついこのあいだ、次に出版する著作の脱稿が済んだばかりで時間を持て余していまして、それでたまたま入手した文献を読んでみたわけです。
すると読み進めるうちに気になる部分がいくつかある。
ワタシも研究者ですから、気になると調べたくなる。
とうとう、隣国のその地域の領主様を訪ねて事情を話して調査の許可をいただいたわけで。領主邸にはさらに資料がたくさんありまして、調査に大いに役立ちましたよ。
まあ結論を先に言うと見つけたわけですよ、金鉱があるという証拠を。
うまくぼかして書いてありましたが、何代か前の領主が子孫にだけわかるような言い回しで記していまして、ワタシも領主様のご協力がないと解き明かせなかったでしょう。
とまあ、とにかく金鉱があるらしいことはわかりましたが、なにしろ昔に書かれたことですからね、間違いや勘違いということもある。
そこで領主さまが極秘裏に調査したところ……。」
ここまで話したカリーズは私をみてニヤリと笑った。
私はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「あったのですか? 」
「はい。あったのです。しかも結構な量が期待できる金鉱が……。
金鉱のある土地は領主様個人の財産で、金鉱の存在を知っているのはワタシと領主様、領主様子飼いの部下数人だけ。うまくいけば少人数で大儲けできる。
とまあここまではよかったのですが、本格的に試掘をするとなると金がかかります。
で、ワタシと領主様で信用できる口の堅い知り合いに声をかけたのですが、わずかに資金が足りなくて試掘を始められない、という状況なのです。
このままでは極秘に試掘をするのはむずかしいため、ならばいっそ世間に公表して大々的に投資を募ろうかという話に傾いていましてね……。
でもそうするとひとり当たりの儲けは少なくなってしまいます。
所有者の領主様はそれでも相当の利益が見込めますから構わないようですが、ワタシのようにわずかしか投資できない人間には旨みがなくなるわけですよ。発見者として多少は色を付けてもらったとしても。
なのでワタシ的には、できればこのままで試掘に必要な残りの額を調達できないかと思案しているときにれ……レイトン男爵、あなたに会ったわけです! 」
カリーズは期待を込めた目付きで私を見た。
これが本当の話なら、大儲けできることは間違いない。ただし本当のことなら、だ。
そもそも私は、このカリーズをよく知っているわけではないし、隣国の金鉱が本当かどうかもわからない。
ただ、眉唾だというだけで断ってしまうには、あまりにも惜しい話だ……。
どう返答しようか迷っていると、先にカリーズが口を開いた。
「もちろん男爵からしてみれば、ほとんど見ず知らずの私や私の話を信用しろというのは無理でしょう。
そこで、証拠として私が講師をしている大学の研究室で金鉱に関する資料をお見せしたいと思うのですがいかがでしょう?
私の身分がたしかになれば多少は安心できるでしょうし、資料を見て見込みなしとの判断をされるなら、口外さえしないでくだされさば、ワタシもこれ以上はなにも言いません。」
悪くない話だと思った。
カリーズの身元がはっきりするだけでも信ぴょう性が増すし、資料を見ることができればさらに判断しやすくなる。
あと問題は必要な投資額だが……カリーズに尋ねたところ、とてもじゃないか出せない額だった。
……ただし隠し口座の金を使えば別だ。
私はだいぶ前、それこそ若い頃から、商会ともレイトン家とも関係のない口座を作り、そこに少しずつ金を預金していた。
レイトン家が貧しかった頃もなんとか維持しつづけ、いまではそれなりの額が溜まっている。
一度、隠し口座への送金用としてキャロル名義の口座を作ったが、なぜかルシアナに存在がバレ、預金のほとんどが引き出されてしまったことがある。
おかげで隠し口座へ送金する金が減ってしまい、あれは本当に失敗だった。
隠し口座を作ったのはいわば緊急避難用としてだ。
本来の目的で必要になることはなさそうだが、これまで一切手を付けずに、それこそ金が足りなくなったら店の金には手を付けても隠し口座の金はそのままにしておいた。
この金は、いわば私の最後の砦だ。
もし金鉱の話が本当であれば、隠し口座の残高はかなり減ってしまうが、まだ余裕はあるし、配当金で投資分を回収してさらに潤うはずだ。
そう考えた私は、明日カリーズが講師をしているという大学を訪ねることに決めた。
「では、明日お越しくださるのをお待ちしております。」
サロンでカリーズと別れて馬車に乗り込んだ私は、商会を出たときよりもずいぶんと心が軽くなっていることに気が付いた。
*
翌日。
私は約束通り、カリーズと会った。
カリーズを訪れる前、わずかな時間だったが私自身でもカリーズについて調べてみた。
運よく、カリーズの名前を聞いたことがあるというレイトン商会の従業員がいた。
彼によるとカリーズは、郷土史家として著作も多く、大学の講師のほか、国内だけでなく外国でも公演を行うこともあるのだとか。
「郷土史家としては著名ですよ。」
従業員はそう言った。
カリーズが講師をしているという大学は、国内で知らぬものがいないくらい知名度が高く、この地方ではトップクラスだ。
研究室も立派なもので、カリーズが発表した論文の表彰状が壁に何枚も掲げられ、書棚にもカリーズの著作が並んでいた。
カリーズは郷土史家としては、私が思っていたよりもずっと有名人らしいことがわかった。
カリーズから見せられた金鉱についての資料や計画書には、隣国のとある地方の領主のサインがされ、推測される埋蔵量と、それによって見込まれる利益は相当なものだった。
しかも、試掘した金は即時売却して一部を細工資金に回し、残りは配当として支払われるという。
カリーズは明日隣国へ行き、領主と話し合ったうえで最終的に試掘をどうするか決定するそうだ。
「ですので、投資するかどうかを今日中に決めてもらわねばなりません。」
― こんなうまい話に乗れる機会は、そうあるはずがない!
だから私はその場で投資することを決め、その足で隠し口座のある銀行まで行き、カリーズが指定した口座に必要額を送金した。
商会に戻るとサリバンが青い顔をしていたが、資金繰りの目途がつきそうだと言うと、多少顔色が戻った。
商会長室の椅子に座り、秘書に茶を頼む。
当面の資金繰りの目途はたったが、このままでは商会の経営を立て直すには不十分だ。
商会の立て直しにはどうしたってキャロルの前世の知識が必要だが、このままキャロルを家に置いておいても記憶が戻る保証はまったくない……。
ブランドンとの婚約も現況では不要だ。
― いっそキャロルを余所にやってしまおうか……。
じつは少し前にもキャロルを療養所なりに入れて世話してもらった方がいいのではないかと考えたことがあった。
しかしルシアナが強固に反対したため、そのときは保留にしたのだった。
― だが最近のルシアナはキャロルへの関心が薄れたようだし、いまなら施設に入れると言っても反対しないかもしれないな……。帰宅したら相談してみよう。
そこまで考えて、ふとルシアナの様子が最近変わったことを思い出した。
キャロルが記憶を失ってからというもの、以前にもましてカジノでの借金が増えていたが、ここしばらくはカジノにも行っていないようだ……。
ルシアナは根が真面目なだけに対外的には完璧であろうとするあまり、その反動で多かれ少なかれつねになにかに依存していないと精神的に不安定になりやすい女だ。
最近は商会のほうでバタバタしていたため、ルシアナとは満足に会話をしていない。
ルシアナがギャンブルに依存するようになった原因は私の両親のせいだろう。
両親は、子供ができないことを理由にルシアナをひどく傷つけた。
私はルシアナを心から愛したわけではなかったが、両親を憎悪するあまり、ルシアナの肩を持つことに決めた。
『俺は両親の言いなりにはならない。』
ルシアナには心の拠り所が必要で、それがたまたまギャンブルだったのだ。
だから私はルシアナが壊れないよう、ルシアナがどんなにギャンブルで負けようと非難はしなかった。
たまに大きく勝ったと聞くと心から褒めたたえた。
借金を返すたびにレイトン家の財産は減ったが、ルシアナは幸せそうだった。
それから何年か経ち、財産も尽きる間際になって、キャロルの話をオットーから聞いた。
『あのガキで大儲けできるぜ。』
オットーのすすめでキャロルを引き取ったのは大当たりだった。
おかげでレイトン商会はこれまでにないくらいの大店にのし上がった。
これで父も私を見直しただろうと思うと溜飲が下がった。
恩着せがましく、会うたびに渡す金の値上げを要求するオットーは煩わしかったが、まあ仕方がない。
しかしオットーが殺されてしまったときは、さすがの私も驚いたが……オットーがいなくなったことで多少金が節約できるようになったのはありがたかった。
ルシアナはオットーが死んだと聞いても興味はないらしかった。
ちょうどその頃はキャロルに夢中で、とにかくキャロルの好きなことや気に入ることをあれこれと楽しそうに計画していた。
そんなキャロルが記憶を失くし、私たち夫婦にも一向に心を開かずつねに警戒ばかりしてる様子は、ルシアナにとっては苦痛だったはずだ。
私同様、あれこれと記憶を取り戻そうとしていたようだが、最近は以前ほどキャロルをかまってはいないようだが……。
……トントントン。
ノックの後に秘書が入ってくると私の前に茶を置き、ほかに用はないかと私に尋ねた。
今は特にないと言うと、そのまま部屋を出て行く。
茶を一口すする。
そう、キャロルだ。
まずブランドンとの契約は解消だ。
いまのキャロルには婚約者をあてがっておく必要性がまったくない。
それからキャロルは、やはり専門の施設に入れるのがよいだろう。
多少金を払えば、最低限の世話をしてくれる場所はいくらでもあるだろう。
記憶が戻れば、また男爵邸で暮らせばいい。
どうせ記憶がないのだし、療養だとでも言えば文句も言うまい。
それにあのカーター医師。
結局いてもいなくても変わらない、薬にも毒にもならなかった。
まあ、キャロルについて変な噂が立たなかっただけましとも言えるが。
キャロルが施設に入ることになったら彼も切ってしまえばいい。
空になったカップを受け皿に戻すと、私は帰宅することにした。
この考えにルシアナが反対しなければ、さっそく実行に移したい。
― もう辛気臭いキャロルの顔と声は真っ平だ。
その日、帰宅した私はルシアナにキャロルの今後についての計画を話した。
ルシアナは反対しないばかりか、キャロルに対してまったくの無関心のように見えた。
「旦那様のよいと思うようになさってください。」
こうして私たちはキャロルを手放すことを決めたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
お父様編はもう1話あります。
長くてすみません……。
誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。
よろしくお願いします。




