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16破滅への道【ブランドン編②-1】

誤字報告に感謝します。

これからもよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


【ブランドン視点】


クソッ! どうしてこうなったんだ!?

ついこのあいだまでの俺は、仕事もプライベートも順風満帆だったはずなのに!


原因はわかっている。

キャロルだ。

キャロルが記憶喪失になったのが、すべてのはじまりだった。


いや、違う。これは八つ当たりだってわかっている。

たしかに記憶喪失になったキャロルには振り回されてばかりで腹が立ったのは事実だが。


それにキャロルの顔を見るのも、今日が最後になるかもしれない。

そう思うと彼女が可哀そうになった。


― 孤児院にいたほうがよかったんじゃないか?


さんざんキャロルを金づるにした俺にこんなことを思う資格はないかもしれないが、これからのキャロルの運命を思うとそう思った。


でも俺はもう、キャロルの婚約者じゃない。

俺がしてやれることはない。

それに俺は今日を最後にキャロルのこともレイトンのこともすべて忘れる。


そしてアシュレイを探しに行くんだ。



***

昨日のことだ。

俺は男爵に呼ばれて、レイトン商会の商会長室にいた。

テーブルを挟んだ向かい側には、商会長のレイトン男爵と男爵夫人が並んで座っている。


メイドがお茶を配り出て行くと、男爵が口を開いた。


「さっそくだがブランドン。

 君とキャロルの婚約は解消してもらうことになる。

 契約通り、婚約解消後は援助金を打ち切ることになるので、そのつもりでいてくれ。」


「え、ずいぶん急ですね!

 こう言ってはなんですが、婚約解消前に僕に相談してくれてもよかったのではないですか?

 それにキャロルは納得したのでしょうか? 」


「キャロルには、明日話すつもりだ。

 君も一応、立ち会ってくれ。」


「それはかまいませんが……このあとキャロルはどうするんですか?

 記憶はまだ戻っていないんですよね?」


「キャロルは……、療養所に入れることにした。

 記憶が戻るまでそこで世話をさせる。」


「戻るまでって……では、記憶が戻らなかったらキャロルは一生そこにいるということですか?

 いくらなんでもそれは可哀そうなのでは……。」


「では、あなたがキャロルの世話をしてくれるのっ?

 娶ってずっと面倒をみてくれるっていうのっ?」


いままで無言だった男爵夫人がいきなり怒鳴った。

夫人の怒鳴り声なんて聞いたことのなかった俺は、思わず夫人をしげしげと見つめてしまった。


「ルシアナ、よしなさい。」


俺が口を開くよりも先に、男爵が夫人をなだめた。

それで夫人は俺を睨みつけてフーフーを肩で息をしている。と思ったら、夫人は立ち上がって無言で部屋を出て行ってしまった。

俺はあっけにとられるばかりだ。


「すまんな。ルシアナが、ここしばらくあんな調子でな。

 少し前までは本当の母子のようだったのに、キャロルが記憶を失ってからというものルシアナに対して一向に心を開かないのでな……。

 まあ、それがショックだったのか、急にキャロルの顔を見たくないと言い出したんだ。

 それで療養所へやることにしたというわけだ。」


男爵の話を聞いて俺はいまさらだけど、どうして男爵夫妻はキャロルを引き取ったのだろうと考えた。

キャロルはまあ可愛いが、見た目で養女を選ぶならもっと可愛い子はたくさんいるだろう。


じゃあキャロル本人が気に入って養女にしたなら、今回の仕打ちはなんだ?

記憶を失くしたから、顔を見たくないから療養所って……厄介払いだよな。


たしかに男爵夫人はキャロルを可愛がっていた。


ただ、本当の親子というよりは……男爵夫人のキャロルの可愛がり方、あれはペットを可愛がるようなものだと俺はいつも思っていた。

ひたすら褒めまくって、ひたすら甘やかす。間違っても『めっ!』で終わりだ。


幸いキャロルは賢かったから、褒められまくったからっていい気になったりしなかったし、間違いは繰り返さなかった。

本当によくできた子だよな。


それにキャロル自身は自分がペットのつもりはまったくなかっただろう。

ただ孤児院育ちで普通の親子関係を知らないキャロルには分からなかったのだと思う。


男爵夫人の愛情が、親としてのものではないことが。


ああ、だからか。

懐かなくなったペットはいらないってことか……。


本当に、なんで男爵はキャロルを引き取ったんだろう?


もやもやした気持ちは残るが、キャロルの婚約者役が不要になったいま、契約は終了、俺はお役御免だ。

これ以上レイトン男爵家の事情に首を突っ込むつもりはない。

男爵家だけでなく、今後はレイトンとは一切かかわりのないところで生きていくつもりだ。


ああ、これも違う。


レイトンとは一切かかわりのないところで生きていくつもりだった。


もう、過去形だ。


2ヶ月くらい前。

『C&J商会』から引き抜きを打診する手紙が舞い込んだ。

C&J商会は設立して間もないながらも、画期的な商品やサービスで、あっという間に顧客を獲得して急成長しつづけている、いまもっとも注目されている商会だ。


そんな商会からの勧誘だ。

引き受けたい気持ちはあったが、レイトン男爵令嬢キャロルの婚約者として、ライバル商会で働くことはできない。


ただ、そのときはすでに記憶喪失のキャロルとの婚約が負担になっていたから、話だけでも聞いてみようと手紙を寄越したアシュレイ・ホープに返事を送った。


アシュレイの第一印象は、いかにも『デキる女』な感じだった。

背が高めで痩せ気味、俺がいつも声をかけるタイプの女ではまったくない。

ところが話をすると、とても気さくで一緒にいて楽しいと感じさせる女だった。


アシュレイはC&J商会で人材発掘のような部門にいて、ほかの商会で働いている俺みたいな前途有望な人材を探して勧誘し、C&J商会に移ってもらえるよう手助けするのが仕事なんだとか。


それからもアシュレイとは何度か会った。

俺はキャロルの婚約者である以上、C&J商会の関係者と会うのはまずい。

だから、お互いの商会から離れたカフェや酒場で会っていたが、それがなんとなく秘密めいた関係のようで、俺らしくもなくワクワクしたんだ。


たしかにアシュレイは俺のタイプの女じゃない。

だが、一緒にいると楽しいし、それに落ち着くんだ。


たとえば食事をしていて調味料が欲しいなと思うと、アシュレイが調味料をすっと目の前に置いてくれる。


そろそろ飲み物のお代わりを頼もうか、と考えるとアシュレイがメニューを寄越してくれる。


そそろそろ腹が減ったな、と思ったら食事にしないかと誘われる。


まるで俺とアシュレイの心同士がつながっているようだ。

こういうのを『気が合う』というのだろうか。


―ずっと一緒にいられたら、きっと楽しいだろうな。


そう思ったのは、5回目にアシュレイと会ったときだった。


C&J商会で働きたい気持ちが強くなっていたそんなある日、アシュレイが言ったんだ。

C&J商会で俺に任せたいと思っていた役職が、ほかの人に決まりそうだと。

そうなったら、俺の引き抜きは失敗したことになるから、もう会うことはないだろうと。


そう聞いた瞬間、俺はキャロルとの婚約を解消して、レイトン商会も辞めて、C&J商会に入る決意をした。


―アシュレイに会えなくなるのは嫌だ。


俺はこのとき気付いたんだ。


――俺はアシュレイが好きなんだ……。


考えてみれば、アシュレイと会ってからほかの女に声をかけなくなったし、関係のあった女に連絡をしなくなった。それどころか誘いも断ったくらいだ。


だから俺はアシュレイに聞いた。

C&J商会に入りたい。どうすれば入れる? って。


するとアシュレイは驚いた顔をして、そのあと悲しそうな顔をして言ったんだ。

役職は、ほどんど決まりかけていて、よほどの功績がないと無理だろうと。


それなら俺と付き合ってくれ!


そう言いたかった……。

だが俺には婚約者(キャロル)がいる……アシュレイに不実な真似はしたくない。


それなら俺のやることはひとつだ。

キャロルとの、いやレイトンのすべてと手を切ることだ。


そうすれば俺はアシュレイと一緒にいられるだろう……。


俺はそう考えて、アシュレイにわかったと返事をした。

そして2日後に会う約束をして、その日は別れた。


俺はあのとき、C&J商会に入るためなら、なんでもしてやろうと考えた。

そして実際にあることを、やったのだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。

よろしくお願いします。


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