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14破滅への道【お母様編①】

誤字報告に感謝します。

これからもよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


私が記憶喪失になってから4ヶ月が過ぎた。


記憶喪失になった当初は、お母様は私を見るたびに涙ぐんでいたし、お父様は『焦らずゆっくり治せばいい』と、私にというよりは自分に言い聞かせるように毎日言っていた。

ブランドンからは2、3日おきに誘いの手紙が届いてうんざりした。


そこで、ジョディが扮するアーサー医師から、『患者の負担になると却ってよくない、できるだけ干渉は控えるように』と言ってもらった。

その甲斐あって、ここまで平和に過ごしてこれた。


それに最近になって、お父様とブランドンからの干渉が激減した。


お父様は、現在レイトン商会のほうで手一杯で、私までは手がまわらないらしい。

取引先が次々と取引を停止したことで在庫は倉庫からあふれそうだし、売り上げは急降下、商会の存続が危ぶまれているという。


まあ、もうすぐその余剰品を購入してくれる商会が現れるはずなので、それまでがんばってもらいたいものだ。


そしてブランドンは……。


「キャロ、釣れたよ。」


「あら、早かったわね。1通目でしょう? まあ、思い切りがよいのは悪くないわね。」


「予定通りでいい? 」


「ええ。アシュレイによろしくね。」


「まあ、彼がどう動こうが結末は決まっていると思うけど? 」


「ふふっ、今だけはいい気分でいさせてあげましょう? 」


「あの男にキャロが情けをかけるのはもったいないよ。じゃ、またあとで。」


私の頬をさらりと撫でてニコリとするジュディが出て行くのを見送ると、入れ違いにヘレンが入ってきた。


「お嬢さま、お茶をお持ちしました。今日のお菓子はフルーツタルトです。お顔が赤いですが? 」


「ああ、なんでもないのよ! ありがとうヘレン。座って一緒に食べましょう。」


この計画を開始してから、ジョディの私への態度は徐々に遠慮がなくなっている。いまもいきなり頬をなでられ、顔が火照って仕方がないが、ヘレンの前では何食わぬ顔をしている。


「はい、お嬢様。ありがとうございます。」


この5ヶ月でヘレンも私たちの仲間として、意識が少し変わったようだ。

以前はどんなにすすめても一緒にお茶を飲もうとはしなかったが、最近になってようやく私ひとりだけのときなら同じテーブルでお茶を飲んでくれるようになった。


ヘレンは連絡係として、邸内のスパイとして大いに活躍している。

特に邸内では、使用人仲間たちからの情報収集能力に長けている。

またその逆に、流したい噂を自在に広める手腕もなかなかのものだ。


しっかり者のヘレンだが、見た目は素朴で控え目、まるで “野に咲く小さな花” といった風情だ。本人はそのイメージを最大限に活かし、邸内で起こっているほとんどの情報をあっという間に集めてきたこともあった。


(あのときヘレンを味方に引き込んで本当によかったわ。)


そう思いながら、お茶が注がれるのを待つ。


ふたりでテーブルにつき、一口お茶を味わったあとにヘレンが口を開いた。


「お嬢様、ご報告があります。本日、奥様がマダム・アウロラに接触するとのことです。」


「あら。いよいよね?」


「はい。

 ご指示通り、”高貴なお方も相談している凄腕占い師マダム・アウロラ” の噂を邸内に流したところ、メイドのサラから噂を聞いた奥様が興味を持たれ、本日予約を取り、先ほど向かったそうです。」


「ヘレン、よくやってくれたわね! 本当にすごいわ!

 お母様の趣味がわからなくて苦労したけど、ヘレンのおかげでうまくいきそうだわ。」


「ありがとうございます。」


褒められてヘレンは嬉しそうだ。

でもヘレンは褒められてしかるべきだ。


ギャンブル依存症の母だが、あの後追加で調べてところ、母のカジノ通いは社交界ではそれほど知られてないないらしい。


あれだけ派手に負けているのに噂になっていないのは借りたお金をきっちり返済しているからで、もし返済できていなかったら母は今頃、借金奴隷となっていただろう。


(奴隷になっていないのは、父と私のお金のおかげだけどね。)


ジョディが手配してくれた調査報告書をじっくり読んでみたが、やはりお母様がギャンブル依存症になった原因は紐解けなかった。

何度かビギナーズラックをはじめ大勝ちしたことはあるが、トータルでは大きなマイナスだ。


(大勝ちしたときの快感が忘れられないのかしら? )


私には想像することしかできないから、いまひとつわからない。

それに父がそれほどまでに母の借金を払いつづけている理由も、いまひとつわからない。


(愛しているから? でもあのふたりからそんな情熱は感じないし……。)


夫婦の愛も私にはわからない。


「うーん、お父様とお母様って仲がいいわよね? 」


「はい、私はそう思いますが? お嬢様様はそう思わないのですか? 」


ヘレンが不思議そうに尋ねる。


「仲がいいとは思うのよ。うーん、でも夫婦ってそんなものなのかぁ……。」


「私の両親はなにかと言えば口喧嘩をしておりますが、時間が経てばなにもなかったかのように平然としておりましたし。

かと思えば、お隣に住んでいる老夫婦はお互いろくに口を利かないまま30年以上も夫婦として生活していますね。

独身の私が言うのもおかしいですが、夫婦の数だけ夫婦の成り方があるのではないでしょうか? 」


むむ。ヘレンは20歳だから、私よりは大人な考え方ができるのかもしれない。


「そうねぇ。まあお父様はともかく、お母様の内面というか本心というか、とにかくつかみにくいのよね……。

 私にはひたすら甘いけど、ほかの人に対してはどちらかというと無関心な気もするし。」


「私どもメイドたちに対しては寛容ですよ。よほどの失敗をしないかぎり、やんわりと口頭での注意だけですし。」


「ま、人の内面なんてそうそうわからないものだもの。

だからあとは、マダム・アウロラのお手並み拝見ね……ふふっ、結果を聞くのが楽しみだわ。お母様は占い師になにを話すのかしらね? 」


***

【占い師マダム・アウロラ視点】


わたしはマダム・アウロラ。職業は凄腕占い師、ということになっている。


自慢ではないが、私は占いについては詳しくない。タロットカード占いも、星座占いも、紅茶占いってなんじゃそりゃ? な程度に知らないと自負している。


そんな私が、なぜ凄腕占い師のマダム・アウロラを名乗り、水晶玉を覗いているのか?


それはテーブルを挟んで私の向かい側に座っているルシアナ・レイトン男爵夫人から、ありとあらゆる情報を引き出すためだ。


もちろん、男爵夫人ついての調査結果はすべて私の頭の中に入っている。


だからこれから私は男爵夫人から話を引き出るよう、心にもないことをべらべら喋って、男爵夫人が話やすいように誘導するだけ。それだけだ。


なお、ここでの会話は隣室にいる速記者によってすべて記録されておりますので、ご了承くださぁい。


さて、そろそろお仕事をはじめましょうか。


「奥様。あなたはいま、大きな問題を抱えていますね? それもふたつも! 」


「ええ、ええ。そうなのです! よくお分かりになりましたわね!

 やはりマダム・アウロラが凄腕の占い師だというのは本当のことだったのですね。

 わたくし、本当に困っていて、ぜひマダムのお力をお借りしたいんですの! 」


男爵夫人と向かい合って挨拶をして30秒。水晶玉を覗くこと30秒。たった1分、それだけの時間で私は男爵夫人が、現在抱えている問題がふたつであることを言い当てたところだ。

男爵夫人は、私が水晶玉を覗いて悩みを言い当てたことに慄(おのの)きながらも感動しているようだ。

さてお次は、ふたつも悩みのうちの片方をズバリと当ててみよう。


「なるほど……ではもう少し見てみましょう……ん! ひとつは……金銭にまつわるお悩み、ですね? 」


「!! ええ、そうなのです! お恥ずかしいことにわたくし……賭け事がやめられませんの……。」


うん。賭け事をやめられない人は大勢いる。

これまでにギャンブルで身を滅ぼした奴もたくさん見てきた。

みんな言うんだよ、『やめたいのにやめられない』って。

そんなことは占い師でなくても知っている。


「奥様! みなまでおっしゃる必要はありません。

 すべてこの水晶に映っておりますよ……。

 なるほどなるほど、やめたいのにやめられない……そうですね? 」


「はい!! わたくし、何度も賭け事をやめようとしたんですの。

 でも、どうしてかはわかりませんが、気が付くとカジノに足が向いていて、気が付くと手持ちのお金を使い果たしていて……。

 するとカジノの方がお金を貸してくださるので、またずるずると……。」


うんうん。

それはね男爵夫人、あなたがすっかりギャンブル依存症になっていて、カジノにとってはいいカモになっているからですよ。

よくある手口とはいえ、どうしてそんなのに引っ掛かることになったのか?

それを知るのが私のお仕事だ。


「奥様。そのカジノの人間は、奥様が頼んでもいないのにお金を貸してくるのではありませんか? 」


「そうなのです! わたくし、1度だって自分から借金をしたことなんてないんですの。それなのにお金を貸すからと言われて……。」


「そやつらは奥様が優しく、断らないの知っていながらお金を貸す、いわば借金の押し売りなのです! 奥様はお断りしてもよろしいのですよ。


しかし奥様。


もしや借用書にサインをされませんでしたか?

サインはいけません。サインをしてしまうと、奥様の意思に関係なくかりたことになってしまうのですから。」


「そう通りなのです……気が付くといつもサインをしてしまっていて……。

 結局夫が、わたくしの借金を返してくれていたのです……が……。」


サインしてしまったら支払うしかないからなぁ。

それにしても、ほんと太っ腹な旦那だよなぁ。

これまでに奥様の作った借金の総額を見たときはぶっ飛んだね!!

あれを払ってきたっていうんだから、まあ大したものよね。


「私自身もこのままではよくない、主人にも申し訳ないとずっと思っていましたの。ですからこれからはギャンブルで作った借金は払わないと言う主人の言葉にも従いましたの……。」


「ふむ。奥様の気持ちはよくわかります……やはり奥様は良心的なお方ですね。

 ですが、心とは複雑なもの……なかなか思い通りには動いてくれないものです……違いますか?」


「!! マダム・アウロラに隠し事はできませんのね……なんでもお見通しですもの……。

 わたくし、もう2度とカジノにはいかないと主人と約束したのに、また行ってしまったのです……。」


うん。

旦那にも釘を刺されたのにもかかわらず、それでもカジノに行ったとは……相当依存しているわよね、これは。


「奥様はカジノに行くことで、日常で感じることのない……そう高揚感や期待感を感じていらっしゃるのではありませんか?」


「まぁ! なぜおわかりですの!? 」


いやまぁ、カジノに通う人の多くはそうだろうからねぇ。

それにしても事前情報通り、貴族なのに腰が低いというか素直というか……。

うん、ちょっと試してみますか!


「この水晶玉に浮かんでいるのですよ……

普段の奥様は大変 “真面目” な方なのでしょう…………

ですが! 奥様はそんな自分の殻を破りたいと思っていらっしゃる……? 」


「!!! ええ! その通りですの! わたくし、幼い頃から “真面目な子だ” と周囲から言われつづけておりましたの。

 そういているうちにいつしか、”真面目でいなくてはいけない” と思うようになってしまって……。」


「奥様は本当にお優しい。周りの方々をがっかりさせたくなくて、我慢していらした……? 」


「はい……わたくし、本当はそんなに真面目な人間ではありませんの……。」


“真面目” って言ったらかすかに不快な顔をしたから、もしかしてと思ったらやっぱりね。周囲から型に嵌められちゃって抜け出せなくなるパターン。

嵌まること自体が “真面目” だからなんだけど、本人だけは否定するんだよね。


まあ、なりたい自分と周囲が見る自分、そのギャップの埋め方がわからないままここまで来ちゃったって、ようやく埋める方法を見つけたらそれがギャンブルだった、って感じかな?

資料では、ビギナーズラックで大勝ちしたって話だから、別の自分になれたと思ったか……。


うん。とりあえず今日はこんなところかな?

内面を探られてるって気付かれると厄介だし、まだまだ機会はあるし。


「わたくしはもう、賭け事はやめたいのです。マダム・アウロラ、どうすればやめられるのか占っていただきたいのです。」


「奥様のお気持ちはよくわかりました。マダム・アウロラにお任せください。

 ただ、本日は時間がございません。それにもうひとつのお悩み事……。こちらは少々複雑なようですね? 」


「! ええ、そうなのです! 実は……。」


「奥様。皆まで言わずとも、マダム・アウロラはわかっております。

 しかし、いま言ったように本日は詳細に占う時間がございません。

 ええ、それでは奥様がお困りでしょう? ですのでいまから、今後1ヶ月分を占って差し上げます。

 それならばそれほど時間はかかりません。

 いかがでしょうか? 」


「わたくし、マダム・アウロラのお力は本物だと思いましたわ。

 だって私の悩みや、わたしくしの置かれた状況を当てられましたもの。

 ですから1ヶ月間、マダム・アウロラの占いを信じたいと思います。」


「奥様。マダム・アウロラを信じてくださってありがとうございます。

 では、さっそく占ってまいりますので、しばしお時間を……。」


***


「お嬢様、昨日の件でご報告があります。」


「お母様とマダム・アウロラの件ね? どうだったのかしら? 」


「奥様に付き添ったメイドのサラは控室で待っているように言われたそうで、奥様がなにを占ってもらったかまではわからなかったそうです。

 ただ、戻ってきた奥様は『私の気持ちわかってもらえたわ。』と尋常ではないくらい興奮しておられてたそうです。」


「ふふふ。ではお母様はマダム・アウロラを信じたのね。

 マダム・アウロラからも報告書がきている? 」


「はい。こちらです。」


「ありがとう。どれどれ………。ふふ、次は……明日ね。

 初日にしては、マダム・アウロラはとてもうまくやってくれたみたい。お母様のギャンブル依存の糸口がつかめそうだわ。

 お母様がマダム・アウロラに傾倒すれば、カジノにはいかなくなって借金を作る心配はなくなるし、お母様の内心も掘り下げられる。

 うん、順調だわ。


 私たちも最後の仕上げの準備をしなくてはならないし、ヘレンも忙しくなるわよ! 」


「はい。いつでも動けるようにしておきますね! 」


「ええ、よろしくね。あら、ノックが聞こえたわ。

 きっとジュディだから、ドアを開けてくれる? 3人で作戦会議をはじめましょう。」


お読みいただき、ありがとうございます。

誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。

よろしくお願いします。


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