12 ブルードラゴンに立ち向かいました
なーんだ。ブルードラゴンって、マウンテンドラゴン程度か。
だったら、全然たいしたことないじゃん。
「普通に倒せばいいんだよね」
僕なら、わりと余裕で勝てる。
しかし他の受験者が言う。
「エース君はビビって頭がイカレたか?」
また僕を馬鹿にする。皆が僕を笑っている。
別に頭がイカレたわけじゃない。
「でもブルードラゴンって、ブラックドラゴンより弱いんでしょ?」
「「「えっ?」」」
一瞬、皆の目が点になる。ふたたび、うるさくなった。
こっちを指差しながら、笑い声や嘲り声。
彼らのことは放っておくことにした。
どうせいっしょに戦う気はないのだろうし。
それに僕一人でじゅうぶんだ。
ブルードラゴンの前に出ていく。
「エース君、何をしようっていうんだ」
「エース君は本当に馬鹿なのか?」
「エース君に何ができるってんだ」
「ここはエース君のいた平和大陸じゃないぞ」
エース君、エース君、って。
僕の名はエースじゃなくてエアスだ。
平和な大陸から来たからって馬鹿にしやがって!!
巨大なブルードラゴンを見あげる。
この特殊スキル、あまり使いたくないけど……。
トランス!!
=== === === ===
俺様はネオバーサーカーとなった。
「なんだ? エース君の雰囲気が変わったぞ」
ブルードラゴンが俺様を見おろす。目が合った。
「糞竜、そこをどけ。邪魔だ」
ブルードラゴンが大きな口を開ける。
火炎放射――。
俺様の顔に直撃した。
避けようと思えば避けられたが、面白そうだから浴びてみた。
やはり……どうっていうこともなかった。
顔の皮膚は焦げなかったし、髪もチリチリになることもなかった。
そんな糞みたいな炎で、この俺様を焼けるものか。
「えーーーーーーーーっ」
などと驚いているのは外野の連中だ。
「ブルードラゴンの炎、まともに喰らったよな?」
「どうして無事でいるんだ? 火傷もしてないぞ」
再度ブルードラゴンが口を開ける。
また火炎放射か? もう飽きた。
二度やっても面白くないぞ。
ブルードラゴンの炎は俺様に当たらなかった。
素早く間合いを詰めたからだ。
ブルードラゴンの大きな足を両手で抱えた。
そのまま持ちあげていく。
「見てみろ。エース君がブルードラゴンを持ちあげたぞ」
「嘘だろ? 筋力増強魔導でも使ったのか?」
「負の重力魔導で、ブルードラゴンを軽くしたとか?」
「いや、あれほどの巨体だ。魔導でどうにかできるものか」
大きな足を持って放り投げた。
ズゴォーーーーーーン
ブルードラゴンは壁に衝突。
巨躯が地面に落ちた。壁も大きく崩れた。
「おい、これって現実か? アイツ……」
「エース君がブルードラゴンを投げたぞ」
「どういうことだ? あれがエース君?」
「黙れ、馬鹿っ。彼はエースさんだろ」
外野がうるさい。
倒れたブルードラゴンの首にまたがった。
このマウントポジションから、ブルードラゴンの顔を殴る。
殴る、殴る、殴る、殴る。殴りまくった。
巨大な顔はもはや原型をとどめていなかった。
ブルードラゴンの顎の付け根当たりに手を回す。
そのまま首を引きちぎった。
「エースさんがブルードラゴンを屠った!?」
「信じられない。一人でブルードラゴンを……」
「なあ。魔物を千体倒したって話、嘘じゃなかったんじゃないのか」
「これほどの実力ならば、どこのギルドでもエース級だぞ」
ブルードラゴンの血を浴びた。
この鉄臭さが香ばしくていい。
さてと。
ブルードラゴンが魔物である限り、必ずどこかに魔石があるはずだ。
全身の皮を引き裂き、内臓を取りだす。
あった。魔石だ。
どんなに巨大な魔物であっても、魔石は魔石だ。
魔石の大きさは、魔物の大小にほとんど関係ない。
しかしそこに含まれている禍々しい魔導濃度が、ぜんぜん違う。
ブルードラゴンの魔石、かなりの魔導量だ。
「でもどうしよう。この通路、瓦礫で塞がれてるんだ」
また外野の声だった。
さらにザワザワしてきた。
「そうだよな。あの三人に閉じ込められたんだ」
「瓦礫を破壊すればいいんじゃないのか?」
「それが駄目なんだ。瓦礫の壁、魔導で強化されてる」
「魔導で強化? あの三人、ここまでしたのか」
通路を塞ぐ瓦礫の壁を、一人の受験者が叩く。
「この強度、半端じゃない。鋼鉄やミスリル鋼より硬そうだぞ」
「だったら皆で力を合わせてみようじゃないか!」
剣、槍、斧などで瓦礫の壁を壊そうとする受験者がいた。
さまざまな魔導で瓦礫の壁を壊そうとする受験者もいた。
ああ、邪魔な連中だ。
「てめぇーら、どけ! 殺すぞ」
受験者どもが、さっと散っていく。
俺様は壁を前に立った。
バンっ
一度目のコブシで瓦礫の壁にヒビが入った。
バンっ
二度目のコブシで、大きな瓦礫の壁が粉々になった。
これで開通。通路は元どおりだ。
通路の分岐点まで戻ってくることができた。
俺様のもとに、男どもが寄ってくる。
「エ、エースさん。キミってスゴイ人だったんですね」
「ごめん。僕、エースさんのこと見くびってたよ」
「いやあ、エースさんにはビックリしました!!」
そいつらを睥睨する。
「うるせえ、話しかけんな。殺すぞ」
男どもは怯えながら逃げていった。
今度は俺様を女どもが囲む。
「エースさんが千体もの魔物を倒した話、実はわたし信じてました」
「わたしだって、エースさんを一目見たときからオーラを感じてたの」
「将来、エースさんとパーティを組めたらなあ……」
そいつらを横目で一瞥する。
「うるせえ、あっち行け。殺すぞ」
女どもも怯えながら散り去った。
だいたい、それよりも……。
俺様はエースじゃねえ。エアスだ!
周囲に誰もいなくなった。
ドッと疲労感が押し寄せてきた。
そろそろ元のエアスに戻らねば……。
ギュッと目を瞑る。
=== === === ===
はっ、ここは? いままで僕は何を? そうだった……。
ブルードラゴンと戦うため、ネオバーサーカーになったんだ。
手に持っているものに気づく。
あっ、魔石! ちゃんとブルードラゴンを倒せたのか。良かった。
ドラゴンといえば誰もが認める強敵だ。もしかすると……。
この一つ目の試験、僕がトップ通過じゃなかろうか。
だけどこの魔石、ブルードラゴンのものだとは言い切れない。
別の弱小魔物から奪った魔石ということもありえる。
ああ、トランス時の記憶がないから不安だ。
念のため、もう少し魔石を集めておいた方がいいだろう。
保険だと思って。
今度は、分岐点から真ん中の道を行くことにした。
先へと進むと、さらに多くの分かれ道にぶつかった。
右に行ったり、左に行ったり。
魔物、早く出てきてくれないかな。
一方、その頃アスリア王国では……。
季節外れの雪が地面を白く化粧していた。
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