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更新が恐ろしく間が空いてしまいました。偶然前の話を読んで覚えてくれている方なんていたら…うれしいです!笑


昼休み、教室に戻ると瑞希が飛んでくる。

 「大丈夫?!顔色あんまりよくないね?」

 「大丈夫だよ。ちょっと気分悪かっただけだから…」

本当は、顔色の優れないのは、心配事のゆえんだろう…いろんな意味で。お母さんお手製のお弁当の蓋を開けたが、なかなか箸は進まなかった。

 瑞希は朝練まできっちりするような部活なだけあり、よく食べる。私の1.5倍はありそうなお弁当をぺろっと食べたあと、購買で買ってきたパンをかじっている。

 「瑞希、私のお弁当たべてもいいよ。」

 「え?ほんとー?」

 重く感じる胃をさすりながら、私は思った。なるほど、脳内少年は、意外に繊細らしい。

 

 六時間目は体育であった。

 保健室にいたのに参加するのかと周りに止められるが、そういうわけにはいかない。脳内少年を昇天?させるには、授業に出て、行動を起こす必要があるのだから。

 …もっとも、私は運動嫌いで、体育なんて真面目に参加したことないのだけれど。


 のろのろと着替えて体育館に出ると、バレーボールの籠がでていた。あー一番やなやつだ。バレーボールって、試合はもちろん全員のチームワークがいるし、トスとかの練習だって結構上手な人と苦手な人には差が出やすい。

 先生の笛が鳴って集合すると、今日は女子はボールを用いた練習で、男子は試合だと指示される。

 「女子、4人グループを作れ。欠席者は…いないな。よし。」

ちなみにおじさんというよりおじいさんな年齢に片足突っ込みかけている先生は、無口だが、口が悪く怒鳴ると普通に怖い。

 脳内少年が早くボールに触りたくてうずうずしているのはなんとなくわかるが、さっき約束したようにおとなしくしてくれている。適当なメンバーに誘われてチームを組み、そのうちの一人が籠からボールを取ってくる。あー体育かったるいね~と、私の隣に立っている樹里がジャージの袖を伸ばして萌袖気味にしている。私の中では脳内少年が体操服の長袖を脱いで半袖になりたくてうずうずしているのがわかる。が、自重していただいている。この秋の肌寒い日に半袖になりたいとか…アキみたい。アキは一年中半袖で居たがって、真冬でもせいぜいジャンパーぐらいしか羽織らない。お母さんはそれを嫌がって長袖を着せようと毎朝喧嘩してるけどね。

 ボールを取りに行っていた子が戻ってきて、さあ始めようとしたその時、先生の怒声が体育館に響いた。


 「おい、鈴木がグループに入ってねぇじゃねえか!なにやってんだ!女子!」


 一瞬で空気が凍る。そうなんだよね。別にシカトの首謀者グループじゃなくても、みんななんとなく、シカトの対象者をこういう時にグループに入れたがらない。なんでだろうね。それはだって、だってさ、もしそんなことしたら、次の対象者は自分かもしれないからさ…。

 「おいおいおいおーい、いじめですかぁ?」

 男子が茶々を入れてくる。最悪だ。


 「早くグループもう一回決めろ!聞いてんのか、女子!ああん?」


 首謀者グループはもちろん、他のグループも先生の言葉を無視してまたトス練を再開し始める。それが最善の策なのだ。今までほかにシカトされている人が出たときだって、そんな感じだったのだ。放っておけば、先生が適当に倉庫掃除だのなんだのの雑用をその子にあてがってくれるのだ。

 「さ、やろ。」

 私のグループも、トス練を再開しようともう一度輪の体系になり始める。そう、今まで私も誰がシカトされてもそうしてきた。これは一種の流行病。隣の樹里だって前にされてたことあるし、輪になった状態で私の前にいる仁美ちゃんだって、隣のグループにいる太田さんだって…。


 騒音のような言い訳、罪悪感の濁ったゼリーが頭に心にどっと流れ込んで…

 脳内少年が、何かを叫んだ気がしたその時…


 「あ、うちのグループ、場所余裕あるし、鈴木さん一緒にやろー!」

 

 ざわ…

 体育館の無言の空気が揺れる。私にはそう感じた。遠くで大きな地震があった時みたいに、大きな横揺れを。


 私の足は動いて、私の手は女の子のあたたかな華奢な感触が伝わって、グループの輪は大きくなって、私の隣は樹里じゃなくなった。


 とどのつまり、私は、鈴木さんをグループに入るように誘い、手を引いてきて、私の隣に鈴木さんがいるってことだ。…脳内少年が暴走した結果だった。


 そこからその日、どうやって6時間目の残りをやり過ごしたのか、あまり覚えていない。ただ、耳鳴りのような空白な時が私を包み、うずくまっているようだった。白青黄色のボールは、宙に浮かんでは地に落ちていた。結局、首謀していたグループの子たちは早々にトスの練習をやめて、男子の試合を見ていた。


 私は鈴木さんの顔を見ることができなかった。誘ったのは私なのに、明るい言葉で周りを盛り上げることもできなかった。脳内少年は、押し黙っていた。

 いつもは多少なりとも和やかな雰囲気のこのグループも、今日の空気は流動性を失っているように、私には思えた。


 帰り道、一人きりになると、脳内少年がまた現れた。

鼻歌なんか歌って…おんなじ曲をそういえばアキもよくお風呂で歌ってるな、たしか今小学生の男の子にに流行しているカードゲームアニメのOP…ご機嫌そうな彼。もちろん、かわいいななどと微笑める余裕は今の私にはない。キッとにらみつけると、脳内少年はきょとんとした顔をした。

 「これで一件落着だね。よかったじゃん、明日からクラスは仲直りするんでしょ?心配事なくなってよかったね。」

 一瞬頭の血管が切れそうになってしまうが、何とか踏みとどまる。こいつは本気で言っているんだろうか?いや、本気なんだろう。でも…

 「はあ?あんた、これで、あんたがとった行動のせいでどんなことになるかわかってるの?明日から教室で今までみたいに過ごせる保障なんてないんだよ?わかってるの?下手したら明日から私がシカトされるかもんだよ?あんたは、クラスの問題を解決して、ヒーロー気分なのかもしれないけど、そんなに単純じゃないの。してはいけないことをしたの。ねえ…」

 感情が高ぶりすぎた。涙が目ににじんでくる。鼻がツンとして痛くて。

 脳内少年はきょとんとこちらを見つめていた。


 家についてもすぐに部屋に入った。誰とも話したくなかった。明日からどんな風に過ごせばよいのかそのことを考えるだけで胸が痛かった。

 私もアキも、食卓、とどのつまり親の目の届くところで勉強する、というルールになっている故、帰ってきてからいつまでも部屋から出てこない私に対するお母さんからのイライラとした声をやり過ごし、ベッドに転がってただただ目をつぶっていた。脳内少年のことを怒る気にも、責める気にもならなかった。ただ、絶望に似た冷たい水の奥深くに沈め落とされたような気分でいた。

 宿題や塾の課題が終わったのだろう。5時半を過ぎると、アキが、TVゲームを持って私の部屋に誘いにきた。勝手に部屋のドアを開けて入ってきて、ベッドに横になっている私を見ると、暇そうだね、とつぶやく。

 「おねーちゃん、サッカーのゲームしようよー。」

 「しない。」

 「えーじゃあ、フェンシングのゲームは?」

 「うるさい。あっち行って。あと、勝手にへやに入ってこないでって何度言ったらわかるわけ?」

思わずきつく言い放ってしまう。アキは少し涙目になった後、黙って部屋を出て行ってしまった。しばらくするとリビングのほうからゲームの音楽が聞こえてきた。アキの、変声期前独特な高い笑い声も聞こえてきた、よくひとり遊びでそこまで盛り上がれるなあ。ほんとは…ほんとは、私もアキとゲームで遊ぶのは結構好きなんだけど、今はそんな気分でないし、高校に上がったぐらいから私がアキとゲームをしてはしゃいでいるとお母さんにたしなめられるようになった。

 「高校生の女の子がそんな子どもっぽいことしてたら…。」

 脳内少年がゲームという単語に反応し、うずうずとしているのはわかっていたけど、無視を決め込んだ。


 無言で夕飯をすまし、お風呂に入った。湯船から上がり、体を洗おうと洗面所の鏡を見ると私はとても悲しげな表情をしていた。

 周りにとらわれて身動きの取れない砂の城の住人。

 それは自分から動けば、すぐに崩壊してしまう安全地帯。

 そんなイメージを、自分の瞳越しに初めて意識した。

 もうどうしたらいいんだろ…。

 

 お風呂から上がると、ケータイが点滅していた。着信一件。瑞希からだ。

 瑞希から電話なんて珍しい。いつもケータイ代惜しさにワンギリか、メールしかしてこないのに。でも、今は瑞希と話す気分ではなかった、というより誰とも話す気分ではなかった。

 もう寝てしまってたことにしようか…そんなことを考えていると、手の中でケータイが震えだした。また瑞希からの着信だ。フーッツフーッツフーッツ、と私のピンクのケータイは泣いている背中のように震えている。

 なに?そんなに急用なわけ?。少し苛立ちながら通話ボタンを押した。


 「もしもし?」

 「もしもしマリコ?通話料金かさむから手短にすますけどさ、今大丈夫?」

 「うん。」

 ほんとは大丈夫じゃないけど、アキに対してのようにさすがに八つ当たりするわけにいかない。

 「今日さ、部活の時に聞いたんだけどさ、マリコ、体育の時間に鈴木さんをかばったんだってね。」

 「…。」

 はあ…。

 「いや、なんか、ちょっと噂になってたっていうかさ。おとなしいマリコにしては珍しいなあって、そんな行動起こしたの。それで放課後マリコの教室行ったら、もうマリコいないしさ…」

 「きっと、明日には私はのけ者になるんだろうね。」

 瑞希の話をさえぎって、自分でも驚くような冷酷な声が出る。冷たい声に当てられたように鼻の奥がすこしツンと痛んだ。

 「まさか、そういうことしたら今度は自分がされるって心配でもしてるの?」

 「…うん。」

 涙声になってしまった。

 かっこ悪、そう瑞希に言われるのが目に見えた。ああもう最悪だ、自分の情けない感情や考えが表にあふれていっている。しかし、瑞希から返ってきた言葉はまったく予想と異なっていた。


 「そんなん誰も明日になったら覚えてないよ。」

 「え…?」

 「だって、鈴木さんをシカトしてんのって、首謀者たちにとっちゃゲームだもん。別にシカトしてる理由なんてないんだから、いちいちマリコの行動に反応したりしないって。あー優等生ちゃんが先生に媚びうるためになんかしてんなーってぐらいだよ、せいぜい。」

 「…。」

 私はあっけにとられ、口をつぐんだ。瑞希は話を続けた。

 「あーもうマリコ黙ってるけど、聞いてる?そろそろ料金やばいから通話切るけどさ、マリコはそんなつまんない子供っぽい奴のことはいちいち気にしちゃだめだよ?青春の無駄遣い。とにかく明日間違っても学校休んだり保健室引っ込んだりしないでよ?わかった?」

 「あ…うん。…ありがと、瑞希。」

 「うむ。あ、そうそう、今日の青い髪留め、かわいかったよ。じゃ、お休み。」


 プッツ。私の挨拶も待たずに電話は切れる。

 私は、そのままベッドに倒れこむと目をつぶり、パジャマの袖で涙を拭いた。今日の放課後今までの私の行動や考えを後悔する気持ちと、明日からも何とかなりそうという勇気とが混じって、私の砂のお城を再構築しているのを感じた。

 

 「夕方、あんな言い方してごめん。」

 寝る前、目をつぶって、脳内少年に謝った。

 「おうよ。弟さんにもちゃんと謝れよ?明日はゲームで遊んでやれよ。」

 脳内少年は答えてくれた。でも…

 「脳内少年、なんか声小さくなったね…。」

 心の中に感じる彼の気配も薄くなったように感じる。

 「ああ。お前の心がやっと少し整理ついたからだろ。明日にはきっと俺は消えてるさ。」

 「そっか…。」

 少し寂しい気がした。脳内少年みたいな部分の自分も、本当は嫌いなわけではないから。

 「またいつでも、お前の感情次第では現れるさ。」

 「は?それは勘弁。」

 …今日一日の学校での苦労を思い出すと、やっぱり寂しいのは気のせいってことで!

 

 「おやすみ、脳内少年。」

 「ああ、お休み、マリコ。」

 私は心の中で何かが消えていくような感じを抱きしめながら眠りについた。


 

 

 


 

 



 

 

 


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