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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
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幕間:怒りと焦燥

トーニトゥルスと死闘を繰り広げていた海斗は、全身を揺さぶらんとする突然の衝撃に戦慄した。


「な、何事だ……?」

衝撃がどこから発せられたのかは気付いていた。闘技場からだ。

「正気か、『竜戦士(ドラグナー)』?」

「ぐっ!くそ、こいつをなんとかしなくちゃ……!!」

海斗の意識が闘技場へ逸れた一瞬の隙をトーニトゥルスは見逃さない。

雷光を纏った穂先が海斗の心臓目掛けて放たれる。それを咄嗟に魔剣の腹で受け止める海斗。

防がれた瞬間に半歩下がって槍の石突きを地面に勢い良く突きたて、その反動で空中に躍り出たトーニトゥルスは、雨のような連撃を突き放つ。

海斗も防戦一方ではない。魔剣による斬撃で雷槍の連撃を打ち払う。一合一合ぶつかり合う度に雷槍による連撃の間隔が開いて行く。


「見事!……ならば、この必滅の一撃を受けよ!!」

不利と悟ったトーニトゥルスは槍を片手で掴み、身を大きく捻り雷槍を投擲した。

「こ、のぉッ!!」

至近距離で放たれた雷槍は、本物の稲妻が如き威力を持って海斗に迫る。瞬時に魔法障壁を展開し防御姿勢を取った海斗の耳を轟音が(つんざ)き、雷蛇がのたうち身体中を焼きまわる。

「お、おおっ、オオオオォォォォォッ!!」

全身をくまなく襲う激痛に海斗は堪らず叫ぶ。障壁を展開し、直撃こそ防いでいるものの余波ですらこの威力だ。

切れそうな意識を保つため、海斗は咆哮した。



「……驚嘆に値する。『竜戦士(ドラグナー)』よ、貴様は間違いなく人類最高峰の戦士也」

紫電の光が収まった後に残ったのは、上半身の服は焼き飛び、全身からは血を噴出しつつもその双眸で眼前敵を捉えて離さない海斗の姿があった。そして、その海斗の両手が掴む魔剣からは、白熱化した炎が吹き上がっていた――!!


「『竜装(ドラゴニック)憤怒の炎(ラース)』」

刹那、炎が舞い上がり海斗を包む。四肢を包んだ炎は海斗の身体に赤黒い竜の鱗を焼き移す。皮膚は強靭に、爪は硬く鋭く。竜を模した刻印が海斗の体に刻まれて行く。


「更なる驚嘆。竜言語(ドラゴ・ロア)にかような物があったとは」


「――『覇王竜爪斬(ドラグ・ザンバー)』!!」

竜の鱗すら容易に貫く灼熱の刃が、魔剣から伸び、まるで鞭のようにしなりながらトーニトゥルスに振り下ろされ、その身を容易く両断した。


「……嗚呼、再び合間見えるのを楽しみにしている」

満足げな表情で消えて行くトーニトゥルスを見届ける事無く、海斗は駆け出していた。

負った傷は、既に無くなっていた。




自由都市ガラリエの街中を、燃えるような赤毛を二房に留めた少女が疾駆する。常人では眼に捉える事すら困難な速度で走る少女は、往来に跋扈する魔族に走りぬけざま拳や蹴りの一撃を与え殴殺して行く。

その少女の前に3mはあろう巨大な魔族が立ちふさがった。辛うじて人型をしてはいるものの、身体中は棘だらけで、シルエットはどうみても化け物のそれだった。少女は魔族を見上げると勢い良く跳ねた。


破穿鋼(はせんこう)!!」

少女は手に纏った手甲で作った拳を魔族の脳天に叩き降ろす。

パァンッ!!

小気味良い炸裂音と共に、魔族は一撃で叩きつぶされ塵と化して消えて行った。

魔族に死は無い。人間界へは基本的に分身体が送られるので分身体を倒した程度で本体の魔族にはダメージこそ行くものの致命傷を与える事ができないからだ。

魔族の分身体が消えると、赤毛の少女、茜は荒い呼吸を整えながら周囲を見回した。

瓦礫と化した町並みからは人の死が放つ特有の嫌な臭いが、燃えくすぶった火が黒い煙を上げていた。しかし、視認できる範囲には、もう魔族の存在はいなかった。


「これで終い!次行くわよ咲夜、晶!!」

吹き出る汗、疲労を訴える四肢。しかしそれらを全て無視して駆け出そうとする茜を、茜と共に魔族と戦っていた二人の友人が止めた。


「待て茜、私たちはまだ良いがお前は先ほどから働き過ぎだ」

「そ、そうですよ茜さん!そんな状態じゃあ、倒れちゃいますよ!」

身の丈程ある大太刀を担ぐ黒髪の少女、咲夜。ローブを纏い杖を両手で抱える少女のような容姿の少年、晶。

二人は疲労の色が濃くも動き続けようとした茜を心配しての事だったが、茜は焦りを隠さず苛立たしげに返した


「そんな事言ってたら、海斗に追いつけないじゃない!」

「海斗なら単独でも問題は無いだろう。我々は街中の散敵を制圧し……」

「だから、そんななんじゃあ私たちは、追いつけないって言ってるの!!」

声を荒げた茜の言葉に、咲夜は息を呑んだ。


海斗と茜達達は常人と比べ膨大と言うほかない魔力保有量を持つ。魔力保有量をサーチ条件として召喚されたのだから当然ではあるが、それにしても化け物じみた量だった。

それを用いた戦闘法により、茜達は短時間で急速に強くなった。しかし、今現在海斗と茜らとの戦闘能力には歴然とした差があった。


竜言語魔法を操り、単独で公爵級の魔族すら退けるまでになった海斗。それに対し、茜らも人類としては強者に区分されるが、複数人でようやく公爵級の足止めができるか否か、と言う程度だ。

強力な竜言語を用いている事もあるが、海斗にあるのは強迫観念にも似た飽くなき闘争心。魔族への苛烈なまでの憎悪が彼を突き動かしている。


「あの馬鹿はこのままずっと走り続けるわ!どんな危ない目にあっても、どんなに苦しくても!!だから私が、私たちが止めないといけないのよ!」


言い終わるや否や、茜は駆け出した。


「……僕たちも、行きましょう」

「ああ。……茜だけにいい格好はさせられんからな」

茜の言葉に思う所があった二人は苦笑しつつ茜を追いかけるように走り出す。







茜達が走り去った後に、瓦礫の丘に立つ姿があった。

少女だった。銀色の髪に碧色の瞳をもったその少女は、走り去って行く茜から視線を逸らさない。

その双眸はどこまでも、何もかもを見極めようとしていた。


少し短めですが。今後海斗らがメインになる話にはタイトルに幕間と書いて行きます。

日曜も更新します。

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