確執
「レディース&《エーンド》ジェントルメーン!ガールズ&ボーイズ!!闘技場のリングが破損する程の激戦を越えた戦士達の闘いは、遂に準決勝へとたどり着いた!一瞬足りとも目を離してはいけません、今日、貴方は歴史の目撃者になるっ!『魔装演武』準決勝戦の開幕です!!」
「「「「うおおおおおぉぉぉっっ!!」」」」
司会兼実況解説のうさぎ娘がマイク(拡声魔法を付与された棒)片手に宣言すると、興奮度がMAXな観客からは怒号のような喚声が沸き上がる。
「……しかし多いな」
立ち見席まで満員だ。明らかに昨日より観客が多い。
「お前がザッパを下したからな。この街じゃ話題性は一番だろう」
選手控え室からリングを眺めていた俺にイーブサルが声を掛けてきた。
「んで、俺様がお前を倒せばさらに話題に上がるってもんよ」
「なんだ、お前でもやっぱ話題にはなりたいわけ?」
こいつの事だから戦えりゃ良い、なんて戦闘狂な事しか考えてないのかと思ったが……
「当たり前だろ?喚声も、勝利も、全て戦って勝って奪うのが俺の流儀さ」
歯を見せて笑うイーブサル。なるほど、ただの戦闘狂より余程こいつらしい言葉だ。
「もちろん勇、お前から勝利を奪うのも俺だ。だから、わけのわかんねぇ奴に負けんじゃねぇぞ」
「……ま、頑張るさ」
互いの腕を軽くぶつけ合う。
「ヤシロのアニキっ」
「ん?」
「御武運を!」
カチカチッ、と二つの石をぶつけて火花を起すクオン。
「あいよ」
振り向かずに歩き出す。闘技場の真ん中、黒いフルフェイスの兜を被った女の待つリングの上へ。
「……どんな手を使ったのかは、知らない。ただお前を殺すのが早まったのは感謝する」
リングに上がった俺に、先にリング上に上がっていた仮面の女が言う。
殺すのが早まった、と言うのは試合の順番の事だろう。トーナメント表からして先に準決勝をやるのはクオンとイーブサルだった。
「そりゃあ良かった。礼はシルヴィアに言っておけ、イーブサル達の試合との順番を変えてくれたのはあいつだからな」
チラと貴賓責を見るとシルヴィアと俺を見て小さく頷いた。
今朝、シルヴィアから俺の試合の順番を早めると言い渡された。
まぁいつ魔族が来るかわからない状態なのに悠長に試合を見ているわけにはいかないからな。
フルフェイスの兜の女の素性を探りながら魔族襲来に備えるにはこれが一番と言うわけだ。
「『竜人の戦士ド・イジュンを屠った謎だらけの女騎士、リューネ・レンファ!対するは4連覇を目指した王者ザッパを降したまたもや謎の多い選手、『黒き執行者』ぁっ!さぁ、注目のこの対戦カード、戦いを制し勝利を掴むのはどちらなのかっ!!』」
実況のウサギ娘ちゃんの煽りもテンションが最高潮。今にでも試合が始まりそうだ。
「この日を……待っていた。貴様が、姿を消したあの日から……」
フルフェイスの兜の奥で、殺気を帯びた視線が俺に向けられたのがわかる。
「そうかよ、そりゃあ三年前からご苦労なこった」
俺がこの世界からいなくなったのは三年前。その頃から俺の正体を知っている女……、と。
心当たりが無い。そう思って返すと、フルフェイスの女は、
「三年前だと?……私が言っているのは、貴様がルクセリアから消えた事だ」
と言って自身の周囲に無数の剣を浮かべた。
「……何?ちょっと待て一体どう言う――」
「『試合、開始ですっ!!』」
うさぎ娘が開始を宣言しゴングが鳴ると、同時に、無数の剣がその切っ先を俺に向けた。
「死ね」
剣が俺に向って襲い掛かって来る。
それを俺は直撃コースの剣だけを魔剣レイヴンブランドで弾き、掠る程度の攻撃は身体を動かし剣の雨を回避する。
「ほう、中々上物じゃねぇか。甘く見てると頭をポトリと落としちまうぞ坊主」
「わあぁってるよ!!くそっ、考え事もできやしねぇっ!!」
飛来する剣を打ち落とすとレイヴンブランドが口を開く(剣に口なんてないが)。
だがその言葉に反論する余裕も今の俺には無かった。剣の量と勢いが強すぎて進む事ができないのだ。
「一撃一撃があの時の、竜人の時より遥かに速く、重い……簡単には行かせてくれないか……っ!!」
予想を越える猛攻に防戦一方な俺に対し、仮面の女は微動だにしない。
「しない、……出来ないのなら、ありがたいんだが……っ」
剣の雨から引こうと一歩下がったその瞬間、
「!?」
「逃がすものか」
背後に2mはあろうかと言う大剣が突き刺さり壁となった。そして、一歩、フルフェイスの女が前に出た。
「やっぱり動けるか……くそっ、めんどくせぇっ!!」
剣雨の勢いが増す。頭を貫こうとする剣を弾き、胴体を切り裂こうとする剣を身体を捻って避ける。避ける、避ける、避ける避ける避ける避ける――!!
「……」
兜の女は一歩一歩俺の方へ近づいて来る。
その距離が10mを切った時、剣の雨が止んだ。
「ぜらああああああぁぁっっ!!」
「――……っ!!」
その次の瞬間、俺は駆け、奴も駆け、剣と剣がぶつかり合う。
ほぼ同時に地面を蹴り、肉薄し、鍔迫り合いになったのだ。
そうして力比べとなった事で俺は、
「……お前、一体何者なんだ……っ」
事の異常さに呻いた。
徐々にだが押されているのだ。この、目の前の女に、力で負けているのだ。
このリューネとか言う女の腕は、鍛えてガッチガチの丸太のよう、なんて事はなく、女性らしい細い腕だ。
足腰もだ。肉付きの良い四肢だがスラリと伸び、とてもじゃいが、俺を押し返せるような身体じゃあない。
魔法による身体強化ならばまだ、まだ理解できる。
だがこの女からは魔法の気配がしない。
魔法を使ってはいないのだ。
「魔法も使わずに……てめぇ、人間か?」
「良く言う……社勇、お前こそが化け物ではないか」
低く淡々とした口調で女は言う。
「化け物は化け物と戦っていれば良い……なのに貴様は……!!」
「ちぃっ!」
力を増したフルフェイスの女に押され、俺は距離を取る。
「……俺はてめぇに、何をしたんだ?」
「何も」
「何もしていない。……故に、姉さんが死んだ」
「姉、さん?」
「……貴様は勇者なのに……あの日、あの時、貴様がいれば姉さんは死ななかったのにっ!!」
轟、と魔力が溢れだす。
猛る魔力はまるでオーラのように身体から沸き上がる。
「……だから死ね、社勇」
剣群が現れ切っ先は俺を捉える。
「くそっ……!!」
飛来する剣の数、速度に魔剣一振りでは対処できないと踏んだ俺は、腰のベルトに差していた宝剣を抜きその事如くを打ち落とす。
「俺がルクセリアから消えて、なんであんたの姉さんが死ぬんだよ!」
「お前がいなくなった後、魔族が現れた。勇者と、貴様と戦う為にだ」
「まさか……アグニエラ!?」
俺がルクセリアの城から抜け出した翌日、アグニエラが現れたと言う話を聞いた。
その時に、こいつの姉さんは……。
だとしても――
「俺は勇者になんかなりたくない。崇め奉られたいわけでも、政治の駆け引きなんかに使われたいわけでもない。その為には、俺はあそこから出なくちゃならなかったんだ」
「……」
「だから俺がルクセリアの城から抜け出して……アンタの姉さんがアグニエラに殺されたって言われても、申し訳ないとは悪いが思わない」
同情はする。だが、そこまでだ。俺が正体を隠していた事も、城から出た事も、何も後悔してはいない。
魔王が復活したわけでもねぇのにあの王女様が勇者召喚に踏み出しもしなければ、奴はルクセリアには来なかっただろうしな。
「黙れ」
その瞬間、魔力が弾けた。
「黙れ、黙れ黙れッ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れええええええぇぇぇぇっっ!!」
剣の豪雨、走る剣閃。
「ぐぅっ!?」
濁流とも言うべきその剣戟の波を俺は捌ききれず腕に、腹に、足に剣が突き刺さり、その衝撃で吹き飛ぶ。
リングを転がり起き上がった瞬間、頭をリング叩きつけられる。いや、踏みつけられた。
「勇者だろ!貴様は、勇者の癖にっ!!私達を一度は救っておいて、何故姉さんだけ見殺しにしたっ!!」
「っ、あ……だ、から俺、は……」
鼻が折れた、歯も折れた。口の中に鉄の味が広がる。
だが止まらない。何度も、何度も踏みつけられる。
「だったらあの時、見捨ててくれれば良かったんだ!!なのに貴様は助けた!!助けたのに、今度はなんで、なんでなんでなんでなんでぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
もはやヒステリックの域にまで錯乱するフルフェイスの女。その女が振り上げた足を掴む。
「てめぇ、こそ……わけの、わかんねぇことをっ!!」
立ち上がると同時に足を掴んだままフルフェイスの女をリングに叩き付ける。
「勇者勇者ってなぁ!俺は勇者になりたくてなったんじゃねぇんだよ!!それに魔王以外の魔族くらいてめぇらでなんとかしやがれ!!」
「社、勇ぅっ……!!」
叩き付けた衝撃でひしゃげた兜の奥で、双眸が俺を睨む。
その瞬間、剣が俺の首を狙い放たれる。頬は薄く裂けたが顔を逸らして避けた。
「殺す、コロ、すっ!!」
起き上がったフルフェイスの女の手に、夕暮れのような赤い閃光が灯る。
大変長らくお待たしました。リアルで色々あり投稿が遅れに遅れた次第であります。本当に申し訳ないです。
ではまた次回。お楽しみにー




