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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
149/192

先代勇者と大衆浴場その2

件の大衆浴場は街の中央から続く陸路とゴンドラの船着き場がぶつかるちょうど境にあった。

 建物の高さは三階立てのビル程度だが、横の広さは東京ドームもかくやと言う大きさだ。

 「でけぇなオイ」

 「このガラリエで二番目の名物だぜ?当然だって!」

 道案内兼マナーの教導のマルコが自慢げに胸を張る。

 地元を褒められて嬉しいのだろうか。

 「ちなみに一番は?」

 「もちろん、魔装演武に決まってるじゃんか兄ちゃん!」

 確かに、年に一度とは言え世界最強を決める戦いだ盛り上がって当然と言えるだろうな。

 ちなみに今、俺は『黒き執行者』の外套は着ていない。シルヴィアが目立たないよう護衛を少人数にしているのに俺が目立っては意味が無いからだ。

 それに俺もあんな姿で風呂に入りに来たくはない。

 「さぁ、中に入ろうよ王様の姉ちゃん」

 そう言うとマルコは人混みをスイスイと駆け抜けて行った。

 なんと言うか身体捌きの上手い奴だ。

 「ふふ、案内人が人を置いていってどうする」

 シルヴィアは苦笑しつつも人の波に逆らわずに進んで行く。

 「私達も行きましょう、ヤシロ様」

 護衛の一人が俺をチラと見る。

 「ん、そうしますか」

 俺は頷いてシルヴィアの後を追うように進んだ。

 身長の高いオーガ種の亜人ですら入れそうな大きな入り口を越えると、広いロビーのような場所に出た。

 見るといくつか売店があり、風呂から出たらしい客が瓶に入った飲み物を飲んでいた。

 「いや、あの茶色だけど白い飲み物は……まさか、珈琲牛乳か!?」

 「こーひー? 違うよ兄ちゃん、あれはユキジルって言うんだ」

 ユキジルってまさかお前雪じ……これ広めたの絶対日本人だろ!

 「ほう……少し飲んでみるか」

 美味しそうにコーヒー牛乳を飲む客を見てシルヴィアが懐からサイフを取り出す。

「ダメだよ王様の姉ちゃん! あれは風呂上りに飲むものなんだ!」

 やっぱ異世界でも風呂上がりの珈琲牛乳は最強なのか。

 「そうなのか……それは楽しみだ。では二手に分かれるか」

 「俺は別に一緒でも良いんだけど?」

 「良いわけあるか馬鹿者が」

 「じ、冗談だって」

 冗談(半分本気)を言ったらシルヴィアにジト目で睨まれた。すぐ魔法をぶっ放さないだけ成長した、と言う事だろうか。エロい事ばかり考えて俺は成長しないのかって?俺がエロいのはアイデンティティだから良いの!

 「風呂あがる時間はどうする?」

 「そうだな……まだ午後には時間はあるし、二刻ほどで良いだろう」

 一刻が約三十分だから約一時間か。

 「了解だシルヴィア」

 「うむ。ではまた後程な」

 「おう」

 そう言うとシルヴィアはお供の三人を連れて♀のマークの暖簾が掛かっている入り口へ歩いていく。

 「ほら兄ちゃん、こっちが男湯だよ」

 「わかってらい」

 意識してないと女湯へ行きたがる足を無理やり男湯に向ける。

 マルコについて行きノレンを潜ると、後ろにロッカールームのように鍵のついた棚が沢山並ぶカウンターが見えた。

 「あそこに数人同じ格好した奴がいるだろう?」

 マルコが指を指さずに顎をくいっ、と動かす。

 「ああ、ここの従業員か?」

 「アイツらに脱いだ服と貴重品をそこの籠に入れて渡すと預かってくれるんだ」

 言うとマルコは近くにあった籠を掴みその籠に靴や服を脱ぎ入れた。

 「これ頼むよ」

 「おお、マルコか。ほらよ」

 一瞬で裸になったマルコが籠を背伸びしてカウンターに載せると、眼鏡を掛けた従業員が籠を受け取り代わりに何か木でできた札のようなものをマルコに渡した。良く見るとその札には紐が通っていた。

 「それは?」

 「これは自分の荷物の番号が書かれてるんだ」

 「なるほど、風呂から上がったらそれを渡せば荷物が帰ってくるんだな?」

 マルコに習うように籠を取り今着てる服と四次元ポーチを籠に入れる。

 「うわ、……兄ちゃん脱ぐと凄いんだね」

 俺の裸体を見てマルコが顔を青ざめる。無理も無い。自慢じゃないが実は俺、隠れマッチョなのである。細マッチョって奴?

財布を掏(ス)ろうとした相手が実はめちゃくちゃ筋肉質だと知って今更ながら「大事にならなくて良かった」と思ったのだろう。

 しかしこの世には線の細い奴でも強い奴がいる。そうだな……『時の魔女ノルン』こと婆ちゃんが良い例だな。

婆ちゃんの身体はリリルリーとほぼ同じ幼女の姿だ。

だと言うのに、俺は真っ向から剣で戦っても婆ちゃんには勝てない。

それは何故か、経験もあるにはあるだろうが、ズバリ魔法による身体強化だ。

身体強化の魔法は手軽ながら大きな効果を生み出せる魔法だ。

術者の力量により作用も大きく変わるが、魔法を習いたての幼児が拳で岩を砕けるようになる、と言えばその有用さと恐ろしさがわかるだろう。

故に外見だけで判別してはいけないのだ。

「もうやめとけよ?細い奴でも魔法使えば一般人なんて楽勝なんだからさ」

「ハハハ、肝に銘じとくよ」

 乾いた声でマルコが笑った。

 「これ、お願いします」

 「あ、はーい。お客さん、ここは初めて?」

 籠をカウンターに載せると眼鏡を掛けた従業員が駆け寄って来た。俺達以外にも客が多くいるため忙しそうだ。

 「初めてだけど湯の入り方はマルコに聞いた」

 「へぇ、なら安心だ。アイツここの常連なんでね。たまに掃除の仕事頼むくらいで」

 さっきの会話でわかっていたが随分親しい、と言うか知人みたいだな。

 「なら軽くだけ説明させて貰うよ。ここの風呂は無料で入れる。浴槽は綺麗に、身体も綺麗に、どんちゃん騒ぎは禁止、ってくらいかな」

 どんちゃん騒ぎの時だけやけに力強く言われた。良く起こるんだろうか。

 「わかった」

 「どんちゃん騒ぎに巻き込まれそうになったら風呂から出るのをお勧めするよ。それじゃあ、是非寛いでいってくれ」

 渡された札の紐を手首に結びつけ風呂場へ向かう。見るとマルコはもう先に行っていた。

 


 ◇


 「もう勇は入っているだろうか」

 女子更衣室ではタオルを身体に巻き、髪を結い上げたシルヴィアが今まさに風呂場へ向わんとしていた。

 「ヤシロ様が気になりますか?」

 シルヴィアが護衛に連れてきた女騎士の一人が頬を緩ませながら主であるシルヴィアに尋ねる。

 「悪いか、?」

 ふて腐れたように言うシルヴィア。

 対して女騎士は笑みを浮かべながら首を横に振った。

 「いーえ、全然!」

 「むしろドンドン見せて欲しいくらいですよ」

 「わたしもー」

三人の女騎士が姦しく騒ぐ。その姿は勇が居た時に見せていた従者然とした姿とは大きくかけ離れていた。

 「だってシルヴィア様の想い人じゃないですかー!白馬の王子様じゃありませんけど」

 「まあ見た目も普通だし……」

 「おっぱいじぃっと見られてましたー」

 「そうそう!ユースタス卿の話そのまんまだったねヤシロ様」

 「見た目は普通でエッチで下品。だけど達人級の剣技を持つ英雄」

 「陛下と互角でしたー」

 姦しく騒ぐ三人にシルヴィアがため息をつく。

 「全く……皆の前で試合うべきではなかったかな……何を言ってるんだ、私は」

 三人の騎士の反応に思わずシルヴィアが呟き、嫉妬にも似た感情から出た言葉に更にため息をつく。

 「……ん?」

 腕に札の紐を巻き風呂場へ向おうとしたシルヴィアの前を、小さな人影が横切った。

 「エルフ?」

 幼いエルフの少女だ。

 若草色の髪のそのエルフの少女はシルヴィアをチラと見てそのまま歩いて行った。

 「……まさかな」

 その瞳が、その姿に似合わぬ鋭さを持っていたのに、シルヴィアは魔法の師である『時の魔女』を垣間見た。


お待たせしました、最新話です。

仕事だったりで更新が遅れてます。申し訳ないです。

次回更新は水曜日に出せそうです。


ではまた次回。お楽しみに~




近衛騎士三人娘の名前募集中!(笑)


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