先代勇者の宿探し~失敗編~
自由都市ガラリエに着いた俺達は先ず宿泊地を探したが、
「ええ!?ここも満室?」
世界規模で行われる武闘大会の本戦が数日後に始まるとあって、どこの宿屋も満室ばかりだった。
「悪いねぇ、この辺りの宿屋は三日前にはどこも満室さ」
「そんなぁ……」
宿屋の女将さんの申し訳なさそうな謝罪を受け、俺は宿屋から退散する。
「どうでした?……って、聞くまでもないですか」
「ここいらの宿屋は軒並みアウトだってよ」
言われて見れば納得する理由だ。こんな大規模な祭り、世界中から観光客が集まらないわけがない。
「少し甘く見すぎてたか」
「この地の教会を頼ってみましょうか?」
なるほど、それは名案……と行きたいが個人的に教会はなー。
神なんて禄な奴がいない、が俺の持論なので神の家なんて言う教会に厄介になるのは御免だ。
「最悪また飛空挺に泊まらせて貰うさ」
「そうですね。……それじゃあ、先ずは腹拵えですね」
「うわー、すっげぇ嬉しそうな顔してるね君。ま、軽く腹に入れてから楽しむか」
あまり暴食されても困るから安めの店にしようと心に誓う。
「ヤシロのアニキ、オレは先に領館に行くよ」
「領館に? 何でまた」
「魔装演武を仕切ってるのは領主のオイサーストなんだ。各地区の優勝者は領館で受け付けを済ませなけりゃならないんだ」
領主が武闘大会を仕切るって……いや、まあ何も言うまい。
「それじゃあここで一度分かれましょうか。集合場所はどうします?」
辺りはどこを見ても人ばかり。出来るだけ目立つ場所なら良いんだが……。
「そう言えばさっき通って来た道に噴水がなかったそこにする?」
「それじゃあ少し小さい気がしますけど……」
「なら……」
クオンとベルナデットが目印になりそうな物を探すが、どれもパッとしない。他の場所にもありそうな物ばかりだ。
「……もうあれだ、あそこのコロシアムで良いんじゃね?」
「少し遠いですが……そうですね。あそこなら迷いそうもないです」
俺が指差したのはこのガラリエの街一杯にいる観光客の半分は収容できるのではないかと思われる巨大なコロシアム。
俺の提案にクオンとベルナデットの二人も頷いた。
「それじゃあ、また後で!」
そう言うや否や飛び上がり、建物の上をぴょんぴょんと飛び跳ねながら領館へ向かうクオン。
人込みを進むよりは断然早いのはわかるがそんな目立つ事しなくても……。
あ、パンツ見えた。
「うわぁ、凄いですねクオンさん」
「ああ、まさかミニスカで褌な癖にあんな風に動けるとは。パンツじゃないから恥ずかしくないもんってか?」
「一体何の話をしてるんですか!」
「え? パンツ見せびらかしてよく恥ずかしくないなーって事じゃないの?」
「違いますよ! ジャンプ力が凄いって話です!」
顔を赤くしつつ俺を睨むベルナデット。……な、なんだろう。睨まれているのにゾクゾクする。
「たはは……さ、さて、適当に飯屋回るか」
「露骨な話題変更……まあ良いです。この事についてはご飯を食べながらゆっくり説教です」
ビシィッ、と指を俺に向けるベルナデット。
仕方ない、デリカシーの無さは自覚しているので甘んじて説教を受けよう。
決して、最近隣の家のお姉さん、みたいな風格を得つつあるベルナデットの説教を楽しみにしているわけではない。
決して。
「さて、そうと決まればお店を決めましょう! 質と量、取るとすればやはり量ですかね?」
太もものスリットに手を突っ込みパンフレットを取り出すベルナデット。
「質と量か……パンフレットに載るくらいだし味が悪いわけはないだろう、量に一票」
「流石ヤシロさん、わかってますね。やはりお腹一杯食べてこそのご飯です」
俺が答えるとニヤリとベルナデットが笑う。
ほんと君飯食う事好きだよな。
「さあ、行きましょうヤシロさん!」
「ちょっ、おいっ……ま、良いか」
左手をベルナデットに掴まれ──いや、握られて引っ張られる。
無理矢理引っ張られるのに抗議しようとするが、その嬉しそうな横顔に毒気を抜かれどうでもよくなる。
俺の手を引く力は軽く、しかし堅く握られていた。
◇
「……なんでこう……人が多いのよっ」
ガラリエの街を、少女が凛とした表情を若干曇らせながら歩いていた。
彼女が一歩進む毎に特徴的な赤髪が揺れる。二房に纏められた赤い髪は闇夜のテールランプの残光のように彼女に追従する。
見れば足取りもどこか荒く、彼女が苛立っているのが見て取れる。
「……海斗達と、はぐれちゃったじゃないの!!」
少女は若干涙目になりながら歩を進める。
何を隠そう、二代目勇者一行の茜である。
話せば短い。
天城海斗らと観光でも、と散策していたらいつの間にかはぐれそのまま迷子になってしまったのだ。
普段通りなら良くも悪くも何か行動を起こす彼女なのだが、見知らぬ地で一人ぼっちと言うのは心細くなるもので、普段通りの思考などできなくなってしまう。
故に彼女は涙目になりつつも取り敢えず前進していた。
「そもそもあの『時の魔女』がこんな街に来たいって言うからいけなかったのよ! な~にが「……あの地で、何か大変な事が起こる。見捨て置いてはダメ」よ。未来が見えるって言う癖に何が起こるかわからないって致命傷じゃないの?それに海斗も海斗よ!私が方向音痴って知ってる癖に…………っ!?」
延々と続くかと思われた彼女の愚痴は、ピタリと突然止まった。
目は驚愕に見開かれ口も開いたまま、茜は震える手を伸ばし人差し指を向けた先には──、
「な、なな何でアンタがここにいるのよ!!」
「うおっ、き、狂暴ツインテール!?」
「誰が狂暴よ誰が!」
やけに胸の大きな女と手を繋ぐ、この世界に一緒に召喚され、その後別れる事になった少年……社勇が茜と同じように驚く姿があった。
毎度お待たせして申し訳ないです。
久しぶりの登場、茜です。




