自由都市ガラリエ
それはいつの話だったか。
身を引き裂くような想いを胸に、思考は怒りに染まり、目からは熱い物がとめどなく溢れている。
心が砕けそうな、そんな話。
「もう嫌だ」と何度も嘆き、
「ふざけるな」と何度も慟哭した。
「信じない」と地面に拳をたたきつけ、
「助けて」と地面に這いつくばって泣きわめいた。
「……」
雨の中、二人の少年がいた。
青年にも見える端麗な顔つきの獣人の少年は泥の上に横たわり、幼さを残す人間の少年は黒い髪を梅雨に濡らし、その黒曜石のように美しい黒い瞳に涙を溜めていた。
幼い少年がゆっくりと立ち上がる。
「許さない」
それは低く、聞いた者を呪いかねない程に憎しみに満ち満ちていた。
「絶対に……許さない」
幼い少年は天を仰ぎ、空を睨みつけた。
「こんなものを俺に守れって言うのかよ……」
彼は嘲るような声で、何かにそう尋ねた。
「あんなものを守るために……俺はッ」
強く握られた拳。爪が皮を破り血潮が溢れ出る。
心を引き裂くような痛みを覆うように自傷するが幼い少年の苦悶の表情は深まるばかり。
そんな少年を見上げ、獣人の少年は笑った。
「……勇、何、泣いていやがる……」
身体からは血が零れ、それに比例するように力が抜けて行く。
傷口が燃えるように熱いのに、身体はどんどんと冷たくなって行く。
「!? ……泣いて、なんか……っ」
「……お前の、そう言う……餓鬼っぽい所が、嫌いなんだよ」
こんな場面で、憎まれ口を叩いてしまう己の性分に獣人の少年は小さく笑う。
「おれ、だって……」
「そう、か……なら、ちょうどいい。……兄弟子命令だ」
「!」
幼い少年の身体がびく、と震える。獣人の少年の言葉から何かを感じ取ったのか。
「……誰かを恨むのも、誰かを傷つけるのも良い。だけど、何もしないのはやめろ。……どんなに憎んでも、恨まれても、進むか、戻るか……自分で……──」
熱が急速に冷めて行く。
獣人の少年は顔をくしゃくしゃにして泣く弟弟子の姿に、笑みを見せる。
(ああ、……むかつく野郎だったが……良い奴だった)
その顔は、命をなくしてなお、満足気に笑っていた。
「──……シリウスゥゥゥゥぅッッ!!」
幼い少年の瞳には、憎悪の炎が燃えていた。
◇
「うおおおお!あれがガラリエか? 流石は水の都、海のど真ん中にある!」
大迷宮を有する孤島ノルドヨルドを発ち約二日。
どっかの国の竜騎士部隊の追っ手を巻いたりしてようやくたどり着いた街は、まるで海の上に浮かぶように広がっていた。
城のように大きな館や楕円型の闘技場、大きな水路には小舟がいくつも浮かび観光客らしき人たちを乗せている。
水の都……なる程、と唸る姿だった。
「元々は小さな村しかなかった小島を十数年掛けて街と呼べるものにしたそうです。ちょうどあの大きな屋敷がその中心にあたる部分で、この街の領主、ズィーク・オイサーストの領主屋敷だそうです」
取り出したパンフレットの文を読み上げるベルナデット。
その瞳にはうんちくだけでなくおすすめの店特集も映っていることだろう。
「『傭兵王』ズィーク・オイサーストか……戦れんのかな?」
「決闘バカって噂だけど流石にそれは無理なんじゃないかい?」
ウキウキ、と楽しそうに笑うクオンにアンジェリカが苦笑で答える。
傭兵王とはまた、随分強そうな二つ名だ。まあどうせ会うこともないだろうし気にすることもないか。
「ほら野郎共!上陸の準備だよっ!」
「「「応! 」」」
プロペラが下を向き、飛空挺はゆっくりと降下して行く。
「……」
ルクセリアから始まったこの旅だったが、一応の目標にしていたガラリエに到着する。
俺は街への好奇心と共に、この旅が終わってからの身の振り方を考えていた。
最新話、と言うより新章プロローグです。
プロローグなので短め。
次回更新は早めに出来そうです。




