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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
孤島の大迷宮ノルドヨルド編
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ベルナデットの想い

どうも皆さんこんにちは。私、神聖ウルキオラ教団の修道女で代行者なベルナデットです。


水底の遺跡の階層も半分程進んだ私達ですが、なんと今、修羅場に遭遇してしまいます!


「大体テメェは事ある毎に姫様姫様って騒ぎ立てやがって。レズか?レズなのか?こっちが見る分には良いが非生産的な行為はあんまり推奨しないよ俺は」

「そんな下品で低俗な言葉で、私と姫様達の仲を汚さないでくれる? まぁ、男の、それも勇みたいな下半身と脳が直結した変態にはわからないでしょうけどね」

「人を性欲しかねぇ変態扱いしてくれやがったな!? こっちは甘酸っぱい恋模様を散々邪魔された事は忘れてねぇんだぞごらぁっ!? 手を繋ぐってだけで上位魔法ぶちかましやがって、この貧乳レズエルフが!!」

「実際そうだったでしょうが! 忘れてないのはこっちもなのよ? オリヴィがそう言う事に疎いのを知って事ある毎にお尻を触ろうとしたり、私達の下着を漁ってたり、よくもまあそんな奴が性欲の権化であるのを否定できるのかしらねぇ?」

「はぁ? 下着を漁ってたのはテメェもだろうが。特にお気に入りなのは鍛錬後に汗で濡れたシルヴィアの意味を成してないブラだっけか?」

「なっ、ななななっ、なんで勇がそれをっ……!?」

「水浴び覗こうとしたら偶然な。ウケケ、どの口が性欲の権化だって? ぼくちんもう一度教えてほしーなー」

「……いつも勇のおねしょを姫様達にバレないようにしてあげてたのって誰だったかしらねー?」

「なっ、ば、て、テメェ、狡いぞ! それは人として言っちゃダメだろうが!? つか毎夜毎晩漏らしてたみたいに言うな!」

「残念私は至高種ハイ・エルフなのよ」

「人種の話してんじゃねぇよこのロバ耳! テメェに慈悲の心はねぇってのかおい……っ」

「貴方に対して慈悲なんてあるわけないでしょうが……っ」


……修羅場と言うか、レベルで言うなら子供のケンカですね。


事の発端は真面目な出来事でした。

聖女様であるオリヴィアさんを国のお姫様として信奉するフィオナさんと、女の子として愛したヤシロさんのオリヴィアさんに対する意見の相違。

どちらも正しくて、オリヴィアさんを想っているのですが、フィオナさんはヤシロさんが勇者の責務から逃げ、オリヴィアさんへの想いを無くしたと怒り、ヤシロさんはそんなフィオナさんの言葉に怒ってしまい、売り言葉に買い言葉のようにどんどん喧嘩腰の会話になって行き……、


「この貧乳エロエルフ!」

「黙りなさい女の敵! 変態!」


こんな子供の喧嘩のような暴言の応酬になってしまったのです。


「仲が良いんだか悪いんだか」


海賊のアンジェリカさんが呆れたように呟いたのを覚えてます。


「~~っ、寝る!」

「ふん。見張りになったら起こすわよ」

「んなもんわかってるっ!」


癇癪を起したようにヤシロさんは組み立てたテントの中に入って行ってしまいました。


「こりゃヤシロのアニキを鍛錬に誘う所じゃないな。……ベルナデットのねーちゃんはどうする?先に休む?」


クオンさんがテントを見て尋ねて来ます。


「いえ、先に見張り番になります」

「そっか。じゃあまた後でな。……ふぁ~」


可愛らしい欠伸をしたクオンさんはヤシロさんが入った方でない、もう一つのテントに入って行きました。


「驚きだわ。貴女が先に休むと思っていたのに」


キッ、と睨まれながらの言葉に、私は思わず苦笑してしまいます。


「あ、あはは……随分と嫌われてしまったようですね」

「悪いわね。恨むなら勇を恨みなさい」


全く悪びれた様子のない拒絶の言葉。その言葉で、私は確信しました。

あぁ、この女性は、そんなにも……


「いえ。……でもヤシロさんを怒らないであげてくださいね? ……三年前の、ヤシロさんの事は私が無理に聞いたんです」


ヤシロさんをオリヴィアさんを……そして、かつて共に旅をした仲間達を愛しているのか、と。


フィオナさんの機嫌が悪くなったのも、ヤシロさんが私の水着姿を見てえっちになったせい。フィオナさんは、かつての仲間でない私がヤシロさんと親密なのを、許せないのだ。


「……」


フィオナさんの眼光が三割増しくらいで鋭くなります。警戒から敵意へ変わったようです。


「勇者として素性を隠していたヤシロさんについて行って、勝手に裏切られた気分になって、それで問いただしたんです。「本当に聖女様を見殺しにしたんですか?」って」

「……そんな事、あるわけないでしょう……っ」


振り絞るように呟いたフィオナさんの瞳には、涙が浮かんでいました。


「はい。今となっては恥ずかしいです。ただあの時の私は色々と混乱していて、聞かずにはいられなかったんです。だって、どんどん好きになって行った男性が、憧れの聖女様を見殺しにした勇者だった……なんて勘違いをしてしまっては、聞かざるをえないでしょう?」


そう言うと、フィオナさんはやっぱり、と言った表情で私を見ます。


「私は、ヤシロさんの事が大好きです。少しえっちでだらしないけど、とっても優しい心を持つヤシロさんの事が大好きです。はしたないですけど、キスして貰いたいです。優しく抱きしめられて耳元で「好きだ」なんて囁いて欲しいです。内緒ですけど、ヤシロさんにならえっちな目で見られても、胸を揉まれても嬉しさが溢れておかしくなっちゃいそうなんです。楽しくて、嬉しくて、これが他人(ひと)を好きになる事なんだって実感できました」

「……貴女は勇と」


フィオナさんの言いかけた言葉に、私は首を横にふって応えます。


「私はヤシロさんが大好きです。……でも、ヤシロさんはオリヴィアさんが大好きなんです。私が、私達(・・)がヤシロさんを好きな以上に、ヤシロさんはオリヴィアさんの事を愛しています。……だから、ヤシロさんとは、そんな関係じゃないんです」


純粋な、純然たる、愛。


「悔しいです。いなくなってもなおヤシロさんの心を捉えて離さないオリヴィアさん。狡い、酷い。憧れていた聖女様に、そんな暗い気持ちも抱きました。他人を好きになるって、こんなにも胸が痛むものだなんて知りませんでした」


もしオリヴィアさんが生きていたなら、まだヤシロさんを振り向かせられる可能性はありました(とっても少ないでしょうけど)。でも、いなくなってしまった相手に、どう戦えと言うんです。そんなの、勝ち逃げです。


叶わない恋。愛を囁いて貰えない、茨の道……それでも私は、


「私は、ヤシロさんの味方です。ヤシロさんの為なら、教団すら敵にする覚悟です。ヤシロさんの支えになれなくてもいい。自己満足でも良い。……でも、もしまたヤシロさんが泣いてしまった時、私はその傍らに居たい。胸を貸すなんて偉そうな事は言いません。だけど、ヤシロさんの涙を隠す壁に、押し殺した嗚咽を近くで聞いてあげていたい」


大好きで、愛してもらいたい。けどそれ以上に、私はヤシロさんの味方でありたい。

この想いだけは、誰にも負けない自負がある。

 フィオナさんやヤシロさんのかつての仲間達。そして、オリヴィアさんにも、この想いでは負けたくない。


 「ですから、私とヤシロさんは恋人なんて間柄じゃないんです。ヤシロさんの味方を名乗る私が、勝手にヤシロさんの旅についていってるだけなんです」



大変ながらくお待たせしました。

一文書く事に泣きたくなって更新が遅れてしまいました。

誰だ! この話がコメディになるって言った野郎は! 私でしたこんちくしょう!


ではまた次回。お楽しみに

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