帰り道の探し物
どうしてこうなってしまったんだろう…
ボクには夢があった。
他人に言ってもきっと笑われるような夢…
それは願えば願うほど遠くなる。
だからボクは走る。
もう何度転んだかなんてわからないけど…
信じているから…
そう、今はまだ信じていられるから。
「ねぇ?今日はなにするー?」
教室の雑音に混じっていつも聞こえてくる隣からの高い声。
ボクには関係ないんだけど楽しそうに見える。
もちろんボクが話し掛けられたわけじゃない。
ボクの右斜め後ろの娘が何か答えてる。
多分彼女の友達。
二人で何か話してる。
でもボクには関係ない。
そのうち彼女達は談笑しながら教室を出て行った。
そうだ…もう放課後なんだっけ。
今日はもう学校にいても特に用事はない。
部活になんて入る気もないし、委員なんてもっと嫌。
やりたい人がやればいい。
ボクはボクのやりたいことをする。
今はそのやりたいことが見つからないだけ。
…もう学校を出よう。
ここにいても楽しくない。
学校からの帰り道。
この時間がボクは好き。
探し物があるから。
いつも探している物が。
決して目には見えないけど。
ボクにはこの帰り道にそれがあるような気がするんだ。
家になんか着きたくない。
だから少しだけ遠回り。
今日こそは見つかるかな?
ボクの夢…
幸せという名前をした探し物…
眠い。
いつものことだけど…
いっそこのままずっと寝ていられたら楽なのに…
キーンコーンカーンコーン…
あれ…?
いつのまにか眠ってしまったみたいだ。
今日の授業は終わり。
また帰り道で探し物。
今日こそはといつも思いながら…
日差しが強い。
ボクには少しきつい。
帽子を被ろうかとも考えた。
けど帽子は嫌いだ。
風を感じ難くなる。
今日もまた遠回り。
いい風が吹いている。
もっと遠くに行ってみようかな。
「ねぇ、これ君の?」
突然聞こえた男の子の声。
ちょっとびっくり。
だから軽く睨みつける。
よく見ると男の子の手に握られてるのはボクのハンカチだ。
いつのまに落としたんだろう。
同じ学校の制服を着てる。
見覚えはないけど、元々ボクはクラスメートの顔さえ覚えてない。
それにしてもわざわざ渡しに来るなんてお人好し。
とは言っても目の前で落とされたら気にもなるか。
「あ…ありがと…。」
とりあえず礼を言ってみた。
他人と話すのに慣れていないから聞き取れなかったかもしれない。
「ん、また落とさないように気をつけなよ。」
そう言ってくしゃっと頭を撫でていく。
変な奴…
ボクには関係ないけど。
もう家に着いてしまった。
特にすることもないし、しなければならないこともない。
両親と顔を合わせたのはいつのことだっただろう。
最近は世話係とメイドの顔しか見ていない気がする。
家の門から10分ほど歩いてやっと自分の部屋。
息が詰る…
だから眠くなるの。
ずっと寝ていたいの…
朝。
窓の外から小鳥の声が聞こえる。
でも、これも世話係の仕業。
ボクが気持ちよく起きられるようにと目覚ましの代わりに仕掛けたらしい。
うざい…
これが作り物でなければ良かったのに…
ぼーっとしていると数人のメイドがドアを開けて入ってくる。
先頭にいる人の手にはボクの着替え。
次の人は櫛とタオル。
その次の人はハブラシ。
いいかげんにしてほしい。
あっと言う間に身支度が終わる。
今度は朝食が運ばれてきた。
いつものように豪華だったけど何があったのかは覚えてない。
パンだけ掴んで部屋から逃げるように飛び出す。
後ろからメイドや世話係の悲鳴。
それもいつものこと。
パンを口に放り込みながらいつもの道を歩く。
今日もまた暑い。
ボクは何のために学校に行ってるんだろう。
勉強をするため?
友達を作るため?
やりたいことをやるため?
でも勉強なら家庭教師がついてる。
友達なんていらない。
やりたいことなんて見つからない。
唯一好きなのは帰り道。
学校の授業なんて全く聞かない。
眠いから寝る。
そうするといつのまにか終わってる。
それが日常。
今日はどこまで行こうか。
それだけが楽しみ。
途中で見かける花。
空を飛んでいる鳥。
どれも作り物じゃない。
素直に綺麗だと感じる。
「よっ、また会ったな。」
突然話し掛けられる。
昨日も同じことがあったような気がする。
昨日と同じ声。
ボクには関係ないから無視する。
「お、おい。ちょっと待てって!」
後ろから慌てた声。
仕方がないので立ち止まって振り返る。
「なに…?」
低い声で言ってみる。
さっきまでの穏やかな気分が台無しだ。
「いや…別に用はないけど。」
男の子は頭を掻く仕草をしながら明後日の方を見る。
「ボクもないから…さよなら。」
早くここから去りたい。
ボクには探し物があるんだから。
こんなのに構ってる暇はないんだ。
「ちょっと待てってば。」
いつのまにかボクの目の前に息を切らしながら男の子が立っていた。
「はぁ…なに?」
諦めて溜息をつく。
すると男の子はさっきより嬉しそうな顔で言う。
「おれは空。氷上 空って言うんだ。よろしくな。」
言いながら手を差し伸べてくる。
本当に変な奴…
手を払ってもいいけど後で面倒になりそうだ。
「…ボクは蒼。河上 蒼。よろしく…。」
言いながらさっさと歩き出す。
空と名乗った男の子はさっき差し伸べた手をそのまま頭にもっていって困った顔をしている。
ちょっと可哀想だったかな。
でもこれ以上付き纏われるのは嫌。
今日はもう帰ろう。
そしてまた明日探し物を探してみよう。
なんでだろう…
少しだけ楽しみだった。
明日が。
END




