お金の持ちの理由とフウの秘密
馬車が次々に倉庫の前にやってくる。同乗してる筋肉隆々の男達が荷下ろしを手伝ってくれているとはいえ、やはり肉体的にハードな手伝いだった。小麦粉や果物を始めとする食べ物や、お皿や洋服が詰まった樽や木の籠を降ろしていく。
ダンボールがいかに素晴らしい発明品なのかよく分かった。中身というより入れ物が重い。
そんな中、レーナは涼しい顔をしながら荷下ろしをしていた。そんなに屈強な体つきには見えないが。脱いだら腹筋がバキバキに割れているとかなのだろうか。
「レーナは力持ちなんだな」
「そんなことはありません」
手を休めず、表情一つ変えずに答える。
「いや、でもそんな重いものを軽々と持っている。おれにはとても出来ないよ。どうやって鍛えたんだ?」
「何を言ってるんですか。肉体強化の魔法を使えばいいじゃないですか?」
そう素っ気なく答えると、首をかしげてこちらを見た。無表情ながらも不思議そうな顔をしているのがなんとなく分かる。
というか、そんな魔法があるなら最初に教えて欲しい。完全に無駄骨だ。
「おれにもかけて欲しいのだがダメかな」
「………まあ問題ないでしょう。いいですよ」
レーナはそう言うと何やらブツブツと呟き、おれの肩に触れた。
「これで大丈夫です。さあ残りがんばりましょう」
躰を見てもどこにも変わった様子はない。取り敢えず重そうな調度品が入った樽を持ってみた。
「!?」
空のダンボールを持ったような、あまりの手応えのなさに思わずひっくり返るところだった。
「レ、レーナさん! めっちゃめちゃ軽いですよ!!」
「当たり前です。そういう魔法なんですから」
「いや、でも本当にすごいですね。他のみんなにも使ってあげたらもっと早く終わるんじゃないですか?」
「お金払ってくれたら使いますよ」
「お金とるんですか?」
「当たり前でしょう。魔法は選ばれたもののみが使用出来る特別な能力です。フウ様もそうですが、その能力をタダで使うことは希です。そして、それが私達の仕事でもあります。どこからお金が湧いてると思ってるんですか?」
フウがお金を持っている理由が少し分かった気がする。意味もなくお金を持っている訳ではなかったようだ。それはそれで少し安心した。よく分からない闇のお金だったらどうしようと思っていたからだ。
「フウ様は、間違いなく世界最高の大魔法使いです。彼女に勝てる人物はこの世界にはいないでしょう。いえ、世界中の人間が束になっても彼女には勝てないはずです。あと100年経ってもでてくるか。私は、あと数百年は彼女の時代が続くと思っています」
『世界最高の大魔法使い』その響きに頭がクラクラしてきた。どんな因果か知らないが、とてつもない人物に拾われ、気に入られてしまったようだ。そして、数百年という言葉に妙に引っかかった。
「故に、フウ様は………誰よりも孤独です………」
誰かに伝えるためにではなくポツリと発せられた言葉は、レーナの無表情さと相まって、空中を静かに漂っておれの頭の中に溶けていった。