第26話「舞台」
※長編作品です
あっという間に時は過ぎ、今日で祝意祭1週間前となった。
「―ふぅ、少し緊張してきました」
エルナリアは胸に手を当てると大きく息を吐く。その隣を歩いていたセラは、視線を滑らせてエルナリアを見つめると少し口角を上げた。
「ふふっ、エルちゃんはこういうことに慣れてると思ってたけど、そうでもないのね?」
「まだわたくしは子供です……社交場にはお父様とお母様に付き添って参加していましたから……」
するとエルナリアはギュッとセラの裾を握る。
「それに、見定めるような……わたくしを物としか見ていないようなあの人達の瞳を思い出すと……わたくしはたぶん、これからも慣れることはないでしょう」
それにはセラも思い当たる光景を思い出して、目を伏せた。
「みんな同じことを経験してるのね。かくいう私もだからエルちゃんの気持ちすっごく分かるの」
「今回は主催者に招待されている側だとしても、やはりそういう目で見られるのですよね」
「私達は街を救った英雄!……だから宣伝材料にもなりえるしはたまた私達が考えつかないような使い道……考えるだけで嫌になるわ、だから今回、料理だけに集中しましょう!どう?」
エルナリアは顔を上げるが、すぐに俯く。
「もしかしたら、わたくしを知っている方がいるかもしれません」
「あー……悪意があるならそれが弾き返してくれるだろうし、もし何かあったらすぐに私を呼んで!ここらを吹っ飛ばしても必ず、エルちゃんを助けるわ!」
ハッと顔を上げると、少し頬を赤らめてコクリと頷いた。
「……その、お師匠様のこと頼りにしてますからね」
「ふふっ、もちろんよ!」
セラは微笑みながらそっとエルナリアの手を握る。
(必ず、守れるように。大切な人を失わないように―小さい命、志もきっと彼女と一緒……あぁ、ダメだな……どうしても、重ねて見ちゃう。全く違うのに)
―「そこの2人、止まりなさい」
スピードを落として立ち止まる。城門前にて門番を務めているであろう2人の兵士が槍でバッテンを作っていた。
「招待された方であれば、招待状の提示をお願いします」
懐からそれぞれ取り出し、手渡す。
「エルナリア様にセラ様ですね。少々お待ちください」
そういうと城門と向かい合い、招待状を押し当てる。すると数秒もしないうちに扉が開き始めた。
―ギッ……ギギギギ……
「わぁ、魔法ですかね?」
「うーん、魔法師か魔導師の魔法かしらね?王城だからたくさんいるんじゃない?」
―「お二方、どうぞお入りを。ようこそエンクイック王国王城へ、どうか楽しまれてください」
両端から頭を下げられながら中に入ると、目に入ったのは広大な庭園だった。
「……」
エルナリアはふと懐かしい気持ちに包まれ、頬を緩める。
「これは、とても暖かい気分になれますね」
「城壁の中にあるだけあってもう流石だわ―ん?」
セラは微かに目を細めると、人影を捉えた。
「もしかして私にもついに侍女とやらがつくの?」
「……そのよう、ですね」
エルナリアは3人揃って立つ侍女から目を逸らし、庭園をただ見つめる。
「お待ちしておりました」
そう言うと同時に頭を下げ、両端の侍女が1歩前に出た。
「お二方にはそれぞれ専属の侍女が奉仕致します。何か不便等あればすぐにお申し付けください」
「えぇ、エルちゃん、またあとでね」
するりとセラの手が離れ、エルナリアは名残惜しそうに唇を噤む。
「案内致します」
歩き始めた侍女の後ろをついていく。左手側に見える庭園を見ながらオリヴィアス王国の庭園を思い出す。
(形色は違えど、雰囲気はどことなく似ている気がします。きっとあそこはもう、焼け野原でしょうから……時間がある時にここを散歩しましょう)
……
(広々としていますね……一応今のわたくしは英雄だからでしょうか、それとも……正体を知っていたり?)
悶々と考えながら荷物を置くと待機していた侍女に声をかける。
「案内をお願いします」
「承知致しました」
またしばらく歩いていると、とても広い煌びやかな場所へと着いた。
「女神生誕祝意際の舞台となるのはここでございます」
「……」
上の階から見下ろし、会話を交わす様々な人々を観察する。
「皆様方はこの1週間は自由にお過ごしになられ、本会場にて交流なされる方々もいらっしゃいます」
言い終わると同時に頭を下げ、その場から下がる。
(確かに他国の重要人物等一同集まる機会は中々ないもの、それに同じ格の方と交流して人脈を広げる枝になり得ると……わたくしには関係ありませんが)
互いを牽制し、視線を張り巡らせる者達に憐憫の目を一瞬向け、首を振る。
(これが雲を掴む大物達……ということでしょうね。機会を上手く操る巧みな技、ぜひ見習わなければ)
交流のある人物はいないと踏み、エルナリアは下に降りた。
(もし王女だと気づかれたら、勘違いだと言い張りましょう。実際、生きていると思っている人は少数でしょうから)
ふと見覚えのある人物を見かけた。どうやら支部長とセラはすでに合流をしていたようで談笑している。
「―支部長様、お師匠様。一体いつからここに?」
「私はついさっきよ、匂いに釣られてここに来ちゃったわ」
「お久しぶりです―私は3日ほど前からここに滞在していましたね。エンクイックの名産を無料で山ほど食べることができる機会など滅多にありませんから、早く来て正解でしたね」
手元で高級ワインを揺らしながらそう言う。隣のセラは皿に好みの料理ばかりを載せていて、カロリーが高そうだと感じたが注意することはしなかった。
「エルちゃんもお腹いっぱい食べるのよ、いいわね?」
「ほどほどに食べます」
2人から離れ、目についた料理の元に向かう。
(あまりお腹は減っていませんが、名産を食べ比べできるいい機会ですからね)
―「ふふっ、楽しんでおられますか?」
背後から突然声をかけられ、驚いて振り向く。
「ごきげんよう、姉様!お久しぶりですわ!あれから何年経ったことでしょう?あ、エルーフィネですよ、覚えておいでですか?」
「エルー……フィネ?」
首を傾げる銀髪の少女を見て、エルナリアはふと銀の王族、という言葉を思い出した。
「そう、エルーフィネですわ!えぇっと、4年ほど前の建立祭に招かれてその時姉様と楽しく遊びましたの!でもそのことはどうでもいいのです、今が大切なのですから!そうでしょう、姉様!」
「エルーフィネ様は……元気ですね」
エルーフィネ、そう名乗った少女は目を伏せる。
「大丈夫ですわ、私がいる限り姉様を1人にはさせません!早速ですがお2人に挨拶をしようかと」
「えっと……そうですね、いきましょうか」
成り行きに任せようとため息を吐く。
―「初めまして、お二方。私はエンクイック王国第一王女、エルーフィネ・ドゥ・エンクイック―ふふっ、祝意祭までの1週間、楽しんでくださいね」
声をかけられた2人は驚きながらも瞬時に口を動かす。
「―私はテビア街の領主代理兼冒険者支部支部長として参りました、ウィンターと申します」
そう言って膝をつくと手を取り、流れるようにキスを落とす。
「エルーフィネ王女、今回の様々なもてなし、至れり尽くせりでございます」
支部長が離れると同時にセラは口を開く。
「私はセラと申します―初めまして、エルーフィネ王女、このような場を設けていただき私たちはとても感謝しています」
思わず拍手をしたくなるのを堪える。
エルナリアは正直、社交場でのルールやマナーをまだ理解していなかった。覚えるのが面倒だったし、なにより建立祭以外は基本的に出ることはなかったからだ。しかし初めて1人で入場した自らの生誕祭、あの時ばかりは流石に頑張った。しかしあまりの緊張に作法は忘れてしまっている―もう思い出す必要もないが。
(しかし、エルーフィネ様と共にいたら面倒事に巻き込まれそうな予感が……)
「姉様、いきましょう!」
エルーフィネはエルナリアの手を引っ張ると走り始めた。
彼女にも昔侍女が付いてたんだよ、だから複雑な気持ちになってるの。名前は確か……ふふっ、ううん、もういないからこそ思い出す必要はないのかも。
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『救済の運命が開花しますように』
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改善点等ありましたら是非ご指摘ください




