第1話「魔法使い」
※長編作品です
………少女は目を覚ます。身体を起き上がらせながら軽く頭を振ると妙なことに気づいた。
「ここは……どこでしょう」
思わず呟いてしまう。
―少女がいるその場所は、どうやら簡易的な小屋のようだ。
「―あら、起きたのね?」
声の聞こえた方に目を向ける。そこには魔法使いめいた風貌の女性がにこやかに立っていたのだ。
その女性はとんがり帽子を片手で抑えながら言う。
「ふふっ、初めまして―私はセラ、見た目通りの魔法使いよ」
―セラ
深い漆黒のローブは上質な生地で仕立てられ、裾や袖口には繊細な銀の刺繍が施されている。無駄のない美しいシルエットが、静かな威厳を漂わせる。
落ち着きが見える赤髪は動きに滑らかさを与え、より一層輝きを見せる真紅の瞳は明るさを湛えていた。
つばの広い帽子は品よく整えられ、より神秘性を引き立たせている、さながら魔女のようだ。
少女は視線を彷徨わせ、数秒迷った後―いそいそとベッドから降りてカーテシーを披露する。
「初めまして、わたくしはエルナリアと申します……あの、もしかして貴方様がわたくしを助けてくださったのですか?」
―エルナリア
深い紺を基調にした、気品あるワンピースとケープの装い。胸元のペンダントが輝き、白いフリルが上品な華やかさをもたらす。
陽光により淡く輝く金色の髪と、澄んだ青い瞳が、その佇まいにいっそうの気高さを添えていた。
広がるスカートは優雅に揺れ、裾の細やかな装飾が繊細さを感じさせる。
大きなつばの帽子にはリボンと装飾が施され、全体に落ち着いた中にも高貴な気配が漂っていた。
女性―セラは軽くウィンクをして答える。
「そうよ、あんな所で倒れてたらいつ魔物に食べられてもおかしくなかったんだから」
「助けてくださりありがとうございます……あの、ひとつ伺いたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
セラは軽く頷くと、エルナリアを手招きで呼び寄せた。
「ふふっ、その前に飲み物を用意するわ―あそこに座っててくれる?」
セラが指を鳴らす、するとエルナリアの目の前の景色が一変し、いつの間にかテーブル前の椅子に着いていたのだ。視線を下げるとオレンジジュースらしき飲み物が注がれたカップが置いてあり、目の前でコーヒーを飲むセラに不思議そうに問いかけた。
「今のは何でしょう……?」
その問いに、セラはカップを置くとニコリと笑う。
「魔法よ、エルちゃんには少し早かったかしらね?」
エルちゃん―その呼ばれ方に戸惑いながらも平然を装いながら言う。
「不思議な感覚で……面白いと思いました」
すると、セラは嬉しそうに微笑んだ。
「それなら、エルちゃんには魔法の才能がありそうね」
「わたくしに……?」
「ふふっ、その話の前に……私に聞きたいこと、あるでしょう?」
エルナリアはコクリと頷く。
「オリヴィアス王国は……どうなりましたか?」
「………あら、隣国のことね―何故知りたいのかしら?」
すぐに目を伏せ、揺れるオレンジジュースの水面を見つめる。
「わたくしの……故郷なんです。両親のおかげで逃げ出すことが出来たのですが、それ以降情報が掴めなくて……」
「……申し訳ないけど、私でも知らないのよ―長年ここに住んでるから、世間の情報には疎くてね……でも、数日前まで聞こえていた音は最近聞こえないわ」
「……そう、ですか」
少しがっかりしながら返事をした。
「―これからどうするつもり?まさか、オリヴィアスに戻る、なんて言わないわよね?」
エルナリアは瞬時に首を振って否定する。
「侵略が終わったか定かではない今、両親が残してくれた命を無下にすることは出来ませんから、戻りはしません……ですが、この後は街に向かおうと思います」
「分かってないようね、ここは森林近くだから魔物も多いのよ。エルちゃんは戦う術を持ってるの?」
少し考えた末、小さくだが頷いた。
「……助けてくださったセラ様にはお伝えしておこうと思います……実は、わたくしの―」
―コンコンコン
エルナリアの言葉を遮るように、ドアを叩く音が響く。
「人が訪ねてくるなんて、滅多にないことだけど……」
その言葉に、エルナリアは胸元にあるペンダントを服の下に隠してギュッと抑え、どこか怯えたように縮こまっていた。セラはその様子を見た後立ち上がり、出迎えようとドアへ向かう。
―「あらあら、迷子?こんなに大人数で―それとも、探し物かしら?」
微かに聞こえてる会話に、エルナリアはどうしようかと思案する。
緊張で冷や汗が流れる中、音を立てないよう静かに立ち上がり―壁にくっつきながら会話の様子を見ようと顔をそっと覗かせた。
「なるほどねぇ。それで、もしその子がここに居るとして……貴方達に引き渡したらその子はどうなるのかしら?」
「依頼人に引き渡すだけです。どうやら、その子は家出をしたようで両親が心配になり探しているようなのです―私としても早く親御さんを安心さたいので、どうか引き渡していただけませんか?」
「―その子の名前は?」
「エルナリアという少女です。紫の宝石が嵌め込まれたペンダントをつけていると思います」
セラはじーっとその集団を観察したあと、ぷっと吹き出した。
「貴方達、冒険者のフリをするんじゃなくて盗賊のフリした方がマシだったんじゃないの?」
馬鹿にするような言い方に、1人が憤慨してセラを罵る。
「居るなら早く出せって言ってんだろ!このクソババア!」
すると、不意にピタッとセラの動きが止まった。
「―は?……あらそう、そこまでして死にたいのね……はぁ、クソババアね……」
突然、空間の裂け目がセラの手元に現れたかと思うと杖が意思を持つように勝手に出てきた……それを手に取ったセラが杖を小さく振る。
「その言葉、責任とってもらうわよ」
次の瞬間、どこからともなく現れた光の鎖で集団を縛りつけ、身動きを取れないようにしたのだ。
「くそっ、離しやがれ!」
「汚い言葉を発さないで―さて、どう料理してやろうかしら?」
セラはくるりと杖を回転させた後、まるで悪事を思いついたかのように口元に笑みを浮かべた。
「そうね、貴方達には一旦死んでもらうとするわ」
もう一度杖を振ろうとした―刹那、集団の一人が隙をついて何かを地面に投げつける。そこでセラは何かを見たようで目を見開いた。
「その紋章―」
煙がもくもくと周りを覆い、一瞬にしてその集団は消え去ってしまった。
しかしさしてその事を気にする様子もないセラは、先程の紋章を思い出している。
「……まさか、ね」
「―……セラ様」
セラ以外誰もいなくなったのを見届けたエルナリアは遠慮がちに近づくと話しかけた。
「どうしたの?エルちゃん」
「……わたくしの話の続き、聞いてもらえますか?」
「ついでに、さっきの人たちのことも教えてもらえると助かるわね」
エルナリアはゆっくりと頷いた。
『救済の運命が開花しますように』
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