4章 shadowの深淵 2
これは10年前のあの時の事件の夢か。
暗いコンテナの内部。鉄の壁が冷たく湿り、滴る水音が絶え間なく響く。
10年前の私は、鎖で手足を繋がれ、膝を抱えて座っていた。
空気は息苦しく、重い鉄錆と汗の臭いが鼻を突く。
外のネオンは届かず、ただ男たちの荒い息遣いが闇を満たす。
手首と足首の鎖は重く、動くたびに鈍い痛みが走り、すでに皮膚が擦り切れ、血の気配が感じられた。
艶やかな黒髪が肩に乱れ落ち、勝気な私も気力を失いつつあった。
心の中では、幼い頃の記憶がちらつく
母の優しい手、赤い瞳を「美しい」と褒めてくれた声。
それが今、遠い幻のように溶けていく。
どうしてここに?
どうして私だけ?
そんな問いが頭を駆け巡るが、答えは闇に飲み込まれる。
ただ、胸の奥で小さな恐怖の種が、急速に膨張し始める。
「商品として完璧だな。」低い声が響き、男の影が近づく。
30代後半、剃り上げの頭に龍のタトゥー。組織の運び屋で、ボスの手下。
どこかで見覚えがあったと思ったら思い出した先日の男だ。
心が身体が覚えていたのだろうか?
なぜか恐怖の心に溺れていたのは
私の黒髪を乱暴に掴み、顔を無理やり上げさせる。
赤い目が怯えで揺れ、涙が自然に溢れる。
「お前みたいな珍しいガキは、高く売れるぜ。アルビノめいた白い肌、赤い目…客が狂うよ。」
その言葉が、心に棘のように刺さる。
私は「商品」? 人間じゃないの? 胸が締めつけられ、息が浅くなる。
自分自身が、急に汚れた存在のように感じる。
いや、違うのにって、必死で否定しようとするが、声にならない。
鎖がきしみ、手首に鋭い痛みが走る。
抵抗しようと体をよじるが、男の膝が腹に沈み、息が止まる。
胃の底がひっくり返るような衝撃で、視界が白く霞む。
吐き気がこみ上げ、喉が痙攣する。
黒髪が額に張り付き、汗と涙で濡れそぼる。
「泣けよ。客はそれが好きだ。」
泣く? そんなことで、私の価値が決まるの?
屈辱が熱い塊となって喉に詰まり、涙が止まらない。
自分を嘲笑うような感覚になっていった。
これが私の運命? 心のどこかで、諦めの影が忍び寄る。
男の指が私の頰をなぞり、鎖を強く引っ張る。
鎖の輪が皮膚を深く締めつけ、温かい血が滲む気配。
服の一部が引き裂かれる音がコンテナに反響し、冷たい空気が肌に触れる。
恐怖が体を硬直させ、涙が頰を伝う。
男の息が耳にかかり、腐ったような臭いが鼻を突く。
「や…め…て…おねがい…」
声が震え、喉が詰まる。その瞬間、心が凍りつく。
助けは来ない。誰も、私の叫びを聞かない。
当時の私はこの時もう心は俺かけていたのだろうと思う。
この闇は、私の墓場。絶望が波のように押し寄せ、幼い頃の無垢な自分が、ゆっくりと溺れていく感覚に襲われる。
どうして抵抗できないの?
どうして弱いままなの?
どうして私なの?
自己嫌悪が、痛み以上に胸を抉る。
男の笑いが低く響き、荒い掌が肩と胴を押さえつけ、
殴るように打ちつける。柔らかな部分が痛みに歪み、鋭い暴力の衝撃が体を貫き、体が勝手に震え、嗚咽が漏れる。
鎖が手首をさらに締めつけ、血の温かさが感じられる。
男の影が覆い被さり、重みがかかり、下腹部が激痛に襲われる。
息が詰まり、視界が落ち、耳鳴りが響く。
闇の中で、叫びが無力に消える。抵抗の余地なく、ただ強烈な屈辱と痛みに耐えるしかない。
汗と臭いにまみれ、気が遠くなる。
心の奥底で、何かが裂ける音がする。
尊厳の糸が、ぷつりと切れる。
自分はもう、ただの物体——壊れやすい、価値のないもの。
涙が枯れる前に、魂が先に乾き始める。
どうしてこんなことに?
神様、いえ、誰か……でも、祈りさえ、無駄だと悟る。
無力感が、体を重く沈め、闇に溶け込ませる。
男の影は去らず、扉が開き、別の男が近寄ってきた。
40代、太った体躯、息が臭い男が入ってくる。
「次は俺の番だ。ボスが試せってよ。」
再び影が迫り、口を塞がれ、叫びが喉に詰まる。
男の体重が沈み込み、体が壊れるような衝撃に襲われる。
肩と胴を押さえつけられ、殴られるような痛みが繰り返す。
動きが乱暴で、汗が混じり、男の臭いが体を汚す。
重みがかかり、下腹部が激痛に震え、視界が落ち、耳鳴りが世界を歪める。
痛みの波が加速し、屈辱的な感覚が体を蝕む。
鎖がきしみ、血の気配が広がる。
汗と臭いにまみれ、気が遠くなる。
男の笑いが響き、闇がさらに深まる。
「ボスに報告だ。このままいけばいい感じだ、お前の価値はきっと上がるぜ!」
「価値」
その言葉が、心に毒のように染み込む。
私は、ただの取引物?
人間の心を持った存在じゃなかったの?
繰り返される影の訪れごとに、自己の輪郭がぼやけていく。
痛みは肉体を、言葉は精神を削る。
もう、終わって欲しい。消えたい。
この闇に、永遠に沈みたい。
そんな諦めの囁きが、頭の中で反響する。
どれだけ時間が経ったか。男たちの影が何度も訪れ、体を打ちつけ、鎖をきしませる。
繰り返される暴力と屈辱。
血と汗の臭いがコンテナを満たす。
叫びは嗄れ、涙は枯れそして、このころはもう抵抗する気力もなくただただ従順になっていった。
ただの肉塊のように、闇に沈む。
外の世界は遠く、希望は消えた。
恐怖の極限で、心の糸が切れ、尊厳が粉々に砕け散る。
その瞬間、胸の奥で何かが蠢く。諦めか?
いや、違う。砕けた欠片が、鋭く研がれるような感覚。
恐怖が頂点に達し、爆発寸前の静けさの中で、心の底から冷たいものが湧き上がる。
艶やかだった黒髪が、まるで魂の崩壊を映すように、根元から白く変色し始める。
一房、また一房と、指先で触れると、かつての黒が剥げ落ち、銀色の糸が現れる。
恐怖と絶望のあまり、髪は急速に白銀に染まり、闇の中で不気味に輝く。
アルビノの白い肌と赤い目に、銀髪が加わり、私はもはや人間ではなく、壊れた人形のよう。
男たちの嘲笑がその変化に気づいた。
「おい、髪が白くなったぞ。ますます珍しい商品だな」
笑う声が響く。
銀髪が床に広がり、血の染みにまみれ、冷たい鎖に絡まる。
突然、鉄扉が開く音。光が差し込み、あの人と沢山の影が飛び込む。
私は、あんなに沢山の人と恐怖を一段と上げ、全てをあきらめた瞬間だった、
周囲の男を倒し、「大丈夫か、助けに来たぞ。」あの人の声が闇を切り裂く。
鎖が外れ、冷たい空気が体を包む。あの人の腕に抱かれ、涙が止まらない。
私は……助かったの?
だが、無力感は残り、心に鎖が残る。体は傷つき、魂は砕けた。
そこで私は目を覚ました。
真っ白な雰囲気ともいえる病室で
少し過激なんですけど、必要なシーンなんです。
R15に落とすのは難しいです




