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紫微綾の事件簿1 鎖の記憶  作者:
1章 栄の夜に沈むQR

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3章 深淵からの脱出 1

 意識が戻ると、冷たい鉄の床に倒れたまま、錆びた鎖が足元で軋む音が耳に届いていた。

視界がぼやけ、頭に鈍い痛みが残るが、男たちの手が体から離れた瞬間を悟る。

倉庫の暗闇にガラスの割れる音が鋭く響き、薄い光が床に飛び散る。


 ナイフの男が私の腕を離した。

「何だ!?」

いきなりの事で戸惑ってるようにも感じた。


 タトゥーの男が髪を掴む手を緩め、鉄パイプの男がロープを手に持ったまま振り返る。

ボスが拳銃を下ろし、倉庫の入り口に目を向ける。


凛が革ジャンを翻し、腰のナイフを手に鋭い目で男たちを睨む。玲奈が窓を突き破り、警棒を手に飛び込み、ガラスの破片が床に散乱した。


 凛はわかるけど……玲奈現職警官が笹原さんと一緒に来たら不味いんじゃないのと場違いな事が頭によぎった。


 笹原さんが静かに扉を蹴り開け、冷徹な視線を投げる。

「お前らの遊びはここまでだ。俺らの知らないところで色々と遊んでくれたな」

笹原さんには結構大きな借りを作っちゃったなぁ


 そこに現れたのは凛、玲奈、そして笹原さんだった。

一瞬私は、自分の願望が見せた都合のいい夢だと思ったぐらいだった。


「うちの子猫を良くも遊んでくれたわね。借りを回収しに来たわよ」

凛が低く言い放った。

誰が子猫だ、誰が……、全く。この時にやっと現状の状況ががやっとわかった。

千景と凛で私の危機を知り、レスキュー隊を作ってくれたわけなんだ。


 私もこのままではいかないので、鎖に絡まった足をどうにか解こうとする中、笹原さんが素早く近づいてきた。

「動くな、すぐ解放する」。


 笹原さんが私の鎖に棍棒を滑り込ませ、力任せにこじ開ける。

1本目の鎖が外れ、私は這うようにしてワイヤーを動かし、2本目も脱出。足が自由になり、立ち上がる。

視界が揺れるが、10年前のトラウマを振り払い、櫻華流の構えを取る。


「紫微 お前やる気か?」


「私、お返しは自分でお返ししたい主義なので」


 笹原さんはやれやれと言った様子で後ろに下がった。

何時でも動けるように、伏兵が来ないように遊軍になってくれてる感じだ。

こいつらの敗因は、他の部下を忍ばせていない事だった。

流石に50人100人といればこんな人数で何とかならなかったことだろう。

反撃ののろしが今上がった。


 私は周囲がよく見える範囲で、ボスと今対峙をしていた。

ボスは私と対峙しながら銃を構え私を狙っていた。

その間にも周囲は戦いが始まっていた。


 凛が鉄パイプの男に猛然と飛びかかり、革ジャンを翻してナイフを閃かせる。

ロープを鋭く切り裂くと、切れた糸が空に舞った。

男が体勢を崩し、反撃に鉄パイプを振り上げる。

——凛は素早く身を沈め、肘打ちを腹に叩き込む。

「ぐっ!」

男は壁に叩きつけられ、コンクリにひびが走る。呻き、膝から崩れて前のめりに倒れた。


 容赦ない。凛がここまでやるなんて、想像してなかった。

彼女はいつも言っていた。

「私は荒事が苦手。喧嘩は綾に任せる。私のメインはこっち」

そのこっちを示すみたいに、凛の部屋のモニターには依頼のターゲットが映っていた。


 玲奈はナイフの男に狙いを定め、警棒を手に低く身をかがめる

「——刃物を置いて。警察だ。いまなら軽く済む」

仕事の癖だろうか素早く警察手帳を相手に見せるが、相手は意に返さず。

返ってきたのは舌打ちと踏み込みだった。

横薙ぎの刃が空気を裂く。

玲奈は腰を落として内側へ滑り込み、足首を外から刈る。

支点を失った体が背から落ち、短い息が床に散った。


 起き上がりざまの突き。ナイフが玲奈の胸元を狙う。

警棒で外へ弾き、返しに警棒を浅く脇腹へスイングした。

横腹に当たり苦悶の顔をして片膝を床に着いた。


「動いたらだめよ。綾を辱めた代償は深いけど、抵抗しなければ……」


 男の握りが緩む。玲奈は靴で刃先を遠ざけ、左手で手首をとって肩へ肘を乗せる。

うつ伏せに回し、体重線を背に預けて固定した。

抵抗の起こりに合わせ、鳩尾へ警棒で突き上げた。

空気だけが抜ける「ぐっ」という音。力が抜けた。


「暴行・監禁の現行犯で逮捕する。」

背面で手首をまとめて手錠で結束した。

胸ポケットからビニール袋を出し、床のナイフを証拠保全で回収した。

視線は切らずに脈と呼吸を確認する。

男は呻きだけを漏らして沈む。

玲奈は警棒を収め、周囲をみわたした。


 タトゥーの男がボスを助けようとして、私めがけて一直線に走ってくる。鉄の床に足音が鳴った。

それを見ていた笹原さんが、一歩踏み込み、男の顔へまっすぐ拳を飛ばす。

男は首を引いて紙一重でかわした。


「そういえば、もう一人いたな」

男は口の端をつり上げ、ぶ厚い肩をぐるりと回した。刺青の筋肉が皮の下でうねる。

笹原さんはあごを引き、こぶしをほほの横に上げる。

つま先で小さく弾み、正面から一歩も引かない。

荒事の笹原さんは、私も初めて見る。


 先に動いたのはタトゥーの男だった。大きな右の振り回しが風を鳴らす。

笹原さんは半歩だけ内側へ滑り込み、肩を相手の胸に当てて勢いを吸い取った。

頬に息がかかる距離だ。畳んだ肘で、わき腹のやわらかいところへ短く差した。

腕を振らずに左の短い拳を目の下の出っ張りへゴツッと当てる。

骨に触れる乾いた手応え。男の視線がにじんだ。


「効かねえよ」

タトゥーの男は、そう吐き捨てると、左右の連打。重たい拳が乱暴に振り回される。

笹原さんは首をすくめ、前後に小さく体をずらして紙一重でかわす。

拳がほほをかすめ、油と鉄の匂いが流れた瞬間、同じ立ち位置から深く右のまっすぐを顔の中心へ通した。

鈍い音のあと、鼻血が霧のように散る。


 怒った男が体ごと乗りかかってくる。押しつぶす踏み込んだ。

「男に抱き着かれる趣味はないんだが」

笹原さんは短く息を吐き、両腕で受け止めて胸の前で組みつく。

自分の頭を相手のあごの下に差し込み、足を外へ回して体の軸をずらす。重さが外へ流れ、男の腰がぐらついた。


 組みをほどく瞬間、右の拳を腹に沈める。

わき腹の奥で鈍い音が鳴り、男の膝がガクンと沈む。

間を与えず、左で顔をはね上げ、返しの右でもう一度顔を揺らす。

守りが高く浮き、腹ががら空きになった。


「まだだ!」

タトゥーの男はそう吠えながら、やけ気味の大振りを笹原さんに殴りに行った。

肩ごと振り切ろうとする軌道だったのだが、その振り始めを見て、かかとを踏み替え、体ごと前へねじ込む。

まず体の重さがぶつかり、遅れて拳が顔の真ん中を打ち抜いた。

乾いた衝突音が跳ね、男の後頭部が壁を打つ。

タトゥーの男の背中がずるりと滑り、膝から床へ崩れ落ちた。

両手が空をつかんだまま、力が抜ける。


 笹原さんは、構えを残したまま半歩下がって、呼吸を整える。

「悪いな、お前では俺の相手にならない」

男の目から焦点が消え、肩がだらりと落ちた。


 周りが戦ってる最中私はまだボスと戦っていた。

ボスの太い指が引き金に触れた。

その瞬間、体が先に動いた。私は櫻華流の「動視」で軌道を読み、弾道を外す。

耳元を風が裂き、放たれた弾は背後の壁に叩きつけられた。

火花が散り、コンクリートに乾いた金属音が反響する。

視界が揺れ、膝が笑う。それでも、十年前の記憶を押し込み、怒りと決意で体を立て直す。

汗が額を伝い、コートの内側で血がじわりと広がる。私は相手をまっすぐ前を見た。


「いくら拳銃を躱せると言っても、その体力じゃ何発躱せる?」

ボスが持っている銃はベレッタM9の装弾数は15+1で最大16発。

確かに今のこの怪我と体力では全弾躱すのは難しいかと脳裏をよぎった。


 ボスがあざけり、拳銃を振り回して再び狙いをつける。

私は櫻華流の動視で軌道を読み、瞬身のステップで足音を消し、低く潜り込んだ。

空気が切れる音。腕が耳元をかすめる。タイミングを合わせ、隠してあったワイヤーを素早く出し、振り上げたワイヤーを右腕に巻きつける。

金属がボスの銃をつかむ。

「何!?」

ボスが叫んで暴れる。

私は奥歯を噛みしめ、全身でぐいと引く。右腕がねじれ、拳銃が床へ落とす。

コンクリに当たった金属音が鋭く跳ね返った。

本来は腕をボンレスハムみたいにからませるんだけど、私は無手以外は意外と苦手だった。


 ボスの肘がすぐに飛んできた。肩口をかすめ痛みが走った。

息が漏れるのを知りながら、それでも体を軸に回し、

[桜吹雪さくらふぶきの構え]から[桜嵐おうらん]に移行し相手の攻撃を払いながら即座に掌底を胸板に叩き込んだ。

相手が吹っ飛ぶのを見ながら、回し上段蹴りをした。

鈍い衝撃が倉庫に響き、ボスの呼吸が荒く乱れた。


「やるな……!」

ボスがこちらを見ながらそう言ってきた。

武器なくても意外と強く私は驚愕していた。

なぜなら櫻華流の個人技ではかなりの威力の技なのに立ち上がってきたからびっくりした。

激しく吹っ飛んだかに見えたのだけど、わざと後方に飛んだのだと理解した。

この時まだ、周囲も戦っていて私の方に援護が出来る状態ではなかった。

私が押しているけど、銃を拾われたら一気に私が不利になる

銃の位置はボスに近いが、胸元に膨らみがあるから、護身用にもう一丁持っていることだろう。


 ボスはナイフをつかみ、一直線に斬りかかってきていた。

そのナイフの先端は、薄い光で刃が光っていた。

 

 私は体を脱力状態にして、ボスの懐に飛び込み手刀を繰り出したのだが、

カウンターの要領で攻撃したのだが、ボスもまた超人的な反射により必殺の一撃がかわされた。

いくら身体が万全ではないにしろ、[瞬脱 (しゅんだつ)]の突き迄回避されるとは思わなかった。


 汗と血で濡れた顔のまま、ボスが私を睨み上げる。

周囲を確かめると私の仲間は戦闘を終えこちらに向かってきていた。

私は落ちていたワイヤーを拾い、仕留めに入ろうと一歩踏み出した瞬間。

ボスはこちらを見てにやりと笑った。

私は銃を撃たれる覚悟をして身構えたのだが、


「次はお前が死ぬ!」

そう言い残し、裏口へ身を翻した。

私は、はっとなり一瞬遅れて追撃のワイヤーを投げた。

[櫻華流:桜縛 (おうばく)]を使用したのだが、ワイヤーの距離が今一歩届かなかっせいで、ボスは闇の奥へ消えていった。


 倉庫に重い静けさが落ちた。

壊れた窓から吹き込む雨の匂いが、油と鉄の匂いに混じる。

床一面に散ったガラス片が、非常灯の薄い明かりを細かく弾き返し、暗がりのあちこちで瞬いた。

奥では天井の古い換気扇がうなるだけで、人の声は消えている。

さっきまでの怒号と金属音が、耳の奥でだけまだ続いている気がした。


 鼓動が耳の内側でどくどく鳴り、膝がわずかに揺れる。

私は深く息を吸い、ワイヤーを握る手の震えを押し込める。

コートの内側では汗と血が混じり、肩の痛みが脈を打った。

——まだ終わりじゃない。助けるチャンスはまだある。


 足元では、転がった拳銃とほつれたロープが、戦いの激しさを無言で物語っていた。

奥のシャッターの隙間からは雨音が細く流れ込み、天井から落ちる雨音が、乾いた響きが空間に跳ねる。


「遅くなった。まさか罠だと思わなかったごめん」

凛が駆け寄り、肩を支える。革ジャンの袖ににじむ血が、白い息の中で濃く見えた。


 玲奈は短剣を下げて戻り、額の汗を拭いながら周囲を見渡す。

「ボスは逃げたわ。でも、アジトの痕跡は残ってるので、あとはこちらが引き受けるわ」


 笹原さんが私の前に来た。

「まさか俺迄駆り出されるとはな」


「借りが出来たね。ありがとう」

私は素直に感謝を述べた。


「なに、やつらはシマを荒らした、そのついでにお前がいただけだ。気にする必要はない」

なんだかんだ言って優しい人だと思う。何で暴力団にいるのが不思議なくらいだ


「俺はそろそろ行くな、俺とそこの刑事といたらまずいしな。そうだ何かわかったら俺の方にも連絡入れてくれ」

そう言って笹原さんは倉庫から出て行った。


 私は胸の奥で、悔しさが熱に変わる。

もう少し警戒しながら行動すればここまで無様な事にはならなかったはず


 雨音、鉄の匂い、割れたガラスの光。

私たちの足跡だけが、薄暗い床に新しい線をつけていく。

希望と決意を胸に、私は次の戦いへ一歩を踏み出した。

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