現実
1ヶ月後。
桜が散り始めた、4月の午後、俺は陽平、月原さくら、そして美咲と共に、病院のカフェで談笑していた。
大きな窓からは暖かい春の陽射しが差し込み、テーブルの上のコーヒーカップから立ち上る湯気が心地よかった。
美咲はすっかり元気になり、夢図書館での「仕事」を面白おかしく話している。
「でね、でね、お兄ちゃん!あそこにはね、すっごく変わった本がいっぱいあったの!人の名前が書いてある本とか、未来のことが書いてある本とか!」
「美咲、それは——」
「秘密なんでしょ?分かってるよ。でも、あの司書さん、とっても優しかったんだ」
さくらも徐々に体調が良くなっているらしく、穏やかな笑顔を浮かべていた。頬に薄っすらと赤みが差し、以前の生気が戻ってきている。
俺もさくらの様子を見に度々、病院にお見舞いに来ている。
「まさか、美咲の落書きで解決するとはな。悠馬が司書になる覚悟まで決めてたのに、拍子抜けだぜ」
陽平が笑いながら言う。俺も苦笑した。
「本当にそうだよ。でも、よかった。みんなで、こうして笑い合えるのが一番だ」
月原さくらが、俺の顔を見て静かに微笑んだ。
「悠馬、本当にありがとう。私のために、そこまで考えてくれて……。美咲ちゃんも、私を救ってくれて。みんなに感謝してもしきれないね」
「俺も手伝えてよかったよ。というか、もっと早く本のことに気が付いていればな……。こんな不思議な体験、一生忘れられないな」
陽平が感慨深そうに言った。
「あ、カラス」
美咲が急にカラスを指差した。木の上に一匹のカラスが止まっている。なぜか、俺たちを見つめているような、そんな気がする。
その烏は何か、光るものを咥えているように見えた。
俺はあれ以来、夢図書館に行けなくなった。というのも、いつの間にか栞がどこかに行ってしまっていたのだ。おそらく、もう俺には必要ないと判断されたのだろうか?
俺たちの未来は、もう分からない。誰も、今後何が起こるかは分からない。でも、それでいい。未来が見えないからこそ、毎日が新鮮で、希望に満ちている。
俺たちは、今を精一杯生きて、それぞれの未来を、自分たちの手で創り上げていく。
(完)




