千堂アリシア、しみじみ思う
「とにかく、先生の家は、この先だからよ。もうすぐ約束の時間だし、俺は行くわ」
秀青はそう言って小さく手を掲げ、歩き出そうとする。でもそれは、アリシアが目指す和菓子店への道でもあった。
そこでアリシアは、意を決して、
「秀青さん、この和菓子店をご存知ありませんか?」
千堂京一の手書きの地図を見せながら、尋ねてみる。すると彼は、
「この店だったら、先生の家の隣だよ。なんだこの店に行きたかったのか。じゃあ一緒に行くか?」
実にあっさりと、目的を達成する目処が立ってしまった。
自力でたどり着くことが試験の目標ではあるものの、実はちゃんと『誰かに道を尋ねる』ことも、『誰かに道を尋ねられる』ことも、<自律型のロボット>としては必要な能力の一つであり、現地の人間とコミュニケーションを図り、それによって目的を果たすというのも、立派な方法の一つなのだ。
まともに人間とコミュニケーションも図れないようなロボットでは困るのである。
アリシアの場合はたまたま、ここまで、誰とも出会わなかったからというのもある。コデットと一緒に行動していた時には、ナニーニの捜索が優先されていたし、駄菓子屋や服飾店の店主らに道を尋ねるのは、最後の手段とアリシア自身が考えていて、それまでは、自分の力だけで行けるところまで行こうと思っていたのだ。
それがこうやって、秀青と顔を合わせた途端に、彼に道を尋ねてしまったのも、彼女に<心>があるからかもしれない。彼の顔を見たことでホッとして気が緩んでしまって、つい頼ってしまったというのもあるのだろう。人間ならば珍しくもないことだ。
「ありがとうございます」
思いがけず秀青と合流することになり、アリシアは満面の笑顔になっていた。
そうして、彼と一緒に歩くと、改めて彼の背が伸びていることを実感し、
『あぁ、秀青さんは生きているんだなあ……』
などと、しみじみ思ってしまったりもした。
人間だから成長するのは当たり前なのだが、ロボットであるアリシアは生まれたその瞬間から今の姿であり、外装パーツを交換でもしない限り、見た目が変わることはない。その当たり前を改めて実感し、人間である彼とこのようにして親しく振る舞えることがとても嬉しかったのだった。




