千堂アリシア、内心では悲鳴をあげる
先ほどの高齢女性の<証言>は必ずしも正確なものではなかったものの、それは決して、あの高齢女性が嘘を吐いていたということではなかった。ただただそう思い違いをしていたということである。
嘘でないことは、人間の表情や仕草や、触れなくても伝わってくるバイタルサインから推測できていた。
それにしても、先ほどの高齢女性の夫も<JAPAN-2>のメイトギア課に勤めていたらしいが、この秦の妻もメイトギア課の職員だった。
<都市としてのJAPAN-2>に住んでいるのだから当然だと思うかもしれないものの、ロボティクス部門は確かにJAPAN-2の主力部門ではあるが、主要部分だけでも日本の東京都と同等の広さを持ち、開発中の外周部も含めればそれこそ北海道にも匹敵する大きさを持つ<都市としてのJAPAN-2>にとってはあくまで一企業的な規模でしかないので、『東京都に住んでいるからといって、右も左も都の職員というようなことがそうそうない』のと同じだろう。
だからこれは、たまたま家族が同じ職場の同僚だったという縁で顔見知りになったという事例なのかもしれない。
ともあれ、次の手がかりを得られたのだから、次に進むべきだろう。
「ありがとう、おじさん」
「ありがとうございます。お邪魔いたしました」
コデットとアリシアはそれぞれ秦に礼をして、次の手がかりを求めて、<牛だるま>を目指した。
それは実は、同じくバス通りにある居酒屋なのだが、コデットはやはり、通りやすいバス通りを進むのではなく、<フラワーショップHATA>の脇の隙間に入り込み、ナニーニの散歩ルートを辿るようにしたようだった。
『あひ~っ!』
最初のうちこそ探検っぽい感じに高揚もしたものの、さすがにこう立て続けとなると厳しいものがあるのも正直なところ。それでも、アリシアは内心では悲鳴をあげつつ、文句を口にすることもなく、コデットに続いた。
ちなみにアリシアは今、メイトギアとしては標準的なエプロンドレス風の外装パーツではなく、いかにもビジネスパーソン的なパンツスーツ姿なので、まだ何とかなっている。これがあのエプロンドレス風の格好だったとしたら、それこそ大変だったかもしれない。
とは言え、一度引き受けた以上は、やり遂げなければならないと思う。
だから懸命にコデットの後に続いた。
続きながら、やはり周囲を注意深く探査する。ナニーニが姿を現してもすぐに察知できるように。
と、その時、アリシアのメインフレームに引っかかるものが。
それは視覚情報じゃなかった。嗅覚だ。アリシアの記憶に強く印象づけられた匂いが、捉えられたような気がしたのだ。
ナニーニの匂いも辿るために嗅覚センサーの感度を上げていたことで捉えられたものであった。




