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シアの赤い空  作者: 光政
21/35

21.ジルベート王


ノックの音が聞こえてきたので、私は慌てて腕輪を腕にはめる。


私の髪色を確認した殿下が入室を許可すると、侍従であるビルドさんが現れ、殿下に小さな紙を渡していた。


殿下は紙を広げて確認すると、私と神官様を見てニヤリと笑いながら口を開く。


「父様がもう時間出来たって。エルン頼んだよ、シア行こうか」


------ ど、どうしよう。心の準備が出来てない。


王様の前って、どう立っていれば良いの? 挨拶も何て言ったら良いかまだ聞けてないし、どうしよう、不安だ----


「シア、緊張しなくても大丈夫だから、僕にただついて来れば良いよ」


「う、うん。でも挨拶とかは? 何て言えば良いの?」


「大丈夫、最初だけ頭を下げれば問題ないから」


「シュウ、シアはそうはいかないと思ってるんですよ。シア、私がするのと同じ様にしていれば大丈夫です。分かりましたか?」


「は-- はい。宜しくお願いします」


------ 神官様がいてくれて良かった。流石に殿下と同じ様には出来ないし、少しだけ安心する。


「シア、ちょっと酷いよー、まあいい。エルン頼んだよ」


「はいはい、シュウ行きましょうか、シアは私の後ろからついて来なさい」


私が神官様に頷きで返すと、私達は殿下の部屋から足を踏み出した。


殿下の部屋に続く廊下とは違い、荘厳な静けさのある石造りの廊下を歩いていく。絢爛な扉が見えたかと思うと、殿下と神官様が立ち止まった。


扉の作りを見てるだけでも足がすくみ、緊張が強くなる。


私が果たして入って良いのだろうか--- 殿下や神官様は受け入れるって言ってくれたけど、本当に受け入れてくれるんだろうか。


両親も分からない私なんて、この場にふさわしくないんじゃ---- どんどん不安と怖さが湧いて、体中を駆け巡っていく。


どうしよう---- 怖すぎる----


「ジルベート陛下が、入室するよう言っておられます。シュバルト殿下、中へどうぞ」


「有難うー。じゃあシア、ちゃんとついて来るんだよ」


扉が開き、落ち着いた様子の室内が見える。


勇気を出して部屋に足を踏み入れれば、奥の方に威厳ある男性の姿が目に映った。


見事な金の立髪のような髪に、つり上がった金の眉。大きく開かれた目からは金の瞳が見え、引き締まった表情は威圧感を感じてしまう。


「シュウ、中に入れ。エルンを連れてきたか。今日は一体何だ」


低い声は威圧感をより強くさせ、足が震える。


ど、どうしよう---- 凄く怖い。殿下や神官様と全然違う。


「今日は父様に話があったんだ。まずは見て欲しいんだけど、良いかな?」


「見せたいもの? 下らない物を見せるなよ」


「父様も流石に驚くと思うよ。シア、こっちにおいで」


神官様の横に並び、深く頭を下げる。ジルベート王の顔を見るのが怖く、頭を下げたまま挨拶をした。


「シアといいます」


「シュウ、その子は誰だ? 何でここに連れてきた」


「シアはね、学園で一緒なんだ。父様に見せたいのはこのシアだよ」


「どういう事だ?」


「シュウ---- ジルベート陛下。お久しぶりです。私から簡単に説明致しましょう。彼女--- シアの瞳には、王家の紋章があるのです。その為、ジルベート陛下の元にお連れ致しました」


「王家の紋章だと? 誰の子だ?」


「両親が誰か分からないそうです。物心ついた時には、育ての親と生活していたと聞きました」


「分からんのか。育ての親は?」


「シアはタリージア王国で育ったようで、襲撃に遭い亡くなったそうです」


「-------- 分かった。シアだったか? 私の前に来なさい」


「---- はい」


「シア大丈夫だよー。顔と声は怖いけど、ああ見えて父様は優しいからさー、こないだもね----」


「シュウ、少し黙れ。ハァ---- ったく、お前は誰に似たんだか。シア、怖がらなくていい。確認するだけだ」


------ 家族ってこんな感じなのかな。少しだけ怖くなくなってきた。


いいな、お父さんって---- 私にもお父さんがいたらこんな感じなのかな。


「シア、私が付き添いましょう」


神官様が肩に手を置いてくれたので、私は恐る恐る足を前に出しジルベート王の近くまで歩いた。


私が近くに立つと、ジルベート王の顔が近づいて来る。


目の前にある綺麗な金の瞳に、胸が音を立てた。


「色が茶色でよく分からんが、確かにあるようだな。茶色の瞳にあるのは初めて見た。どうゆう事だ?」


「あっ----」


「あー、ちょっと僕失敗したよ。シア、腕輪を外してくれる?」


「腕輪? どういう事だ?」


「まあ、父様見ててよ。僕もまだまだだなー」


殿下のいつもの調子に笑ってしまう。

緊張が溶けてきた私は、右手から腕輪を外してジルベート王を真っ直ぐ見つめた。


「なっ、これは一体---- また見事な色だな」


再び近づくジルベート王の瞳は、先程と違い微かに揺れている。


私から顔を離し、椅子に深く座り直したジルベート王は小さく息を吐いた。


「間違いなく王族だ。だが誰の子だ? 白金の色を見るに血が濃いのだろう。魔力も高いのではないか? シアの属性は何だ?」


ニ属性である事を言うべきなのか悩む。神官様へ伺うよう顔を向ければ、優しく微笑みながら頷きで答えを返してくれた。


「属性は、光属性です。それと---- もう一つは分かりません」


「それととは? ニ属性持ちなのか?」


「はい、神官様に開放した時教えて貰いました」


「孤児院の子から、ニ属性が出たと聞いてはいたが。ハァ---- エルン、なぜその時に気づかなかったのだ? ニ属性持ちなら、貴族か王族だと普通疑うだろ」


「すみません。それについては、私も反省していました。シアの髪色から貴族の隠し子か、先祖返りであると考えていました。申し訳ありません」


「まあ、いい。シアが無事だったから言えるがな」


「それがさー父様。身体的には無事なんだけど、ちょっと無事とは言えないんだよね」


「シュウ、どういう意味だ? はっきり言え」


「それがさー、シアが孤児だからって虐める貴族がいるんだよ。その貴族がさ、シアの頬を叩いたんだよね」


------ 何か凄い空気になってきたけど、言っていいのかな?


ミリヤ嬢の事は許せないけど、仕返ししたい訳じゃないし---- 


ジルベート王と殿下の顔を見て、何故かミリヤ嬢の事を庇いたくなってしまう。そう思う程、不適な笑みを浮かべる二人が怖い。


「ジルベート陛下に、シュウ。シアが怯えていますよ。まあ気持ちは分からなくないですが------」


金の色を持つ三人が、悪巧みな顔で私を囲む。


いろんな意味で迫力ある三人の顔を、キョロキョロと見回す。


目だけで語り合う三人が、何を考えているか分からず戸惑ってしまった。


------ また違う意味で緊張してきた。ここにいるのが辛い。


ダラダラと汗が流れていると、ジルベート王が笑い出す。

部屋に笑い声が響き渡り、私はいきなりの事に驚いてしまった。


「シア、案ずるな。まあその貴族への対応は私がどうにかしよう。シュウ、エルン。少しばかり話をしよう。長くなるから、ソファへと座れ。シアもシュウ達と共に座りなさい」


やっと止まっていた時間が動いたように感じ、少しだけ安心しながら殿下と共にソファへと腰を下ろす。


「とりあえずシアの事だが、瞳の紋章があるのは確かだ。王族として迎えよう。ひとまずは学園に戻らず、城に滞在して欲しい。シュウ、お前も一度戻って側にいてやれ。後はシアの両親だが、髪と瞳の色から二人共王族の血筋であると考えられる」


------ えっ、どうゆう事なんだろう。二人共王族?


「ま、まさか---- このシアの色は、血筋が濃いからですか? 色の変化は聞いた事はありませんが------」


「エルン。近親者の結婚が禁止なのは知ってるな? 禁止の理由は血が濃くなり過ぎたからだ。魔力が高すぎて身体がたえられず、若くして亡くなる者が増えてな。濃い血を持つ最後の子供がセシリア様だった。シアが濃い血であるなら、色の違いにも納得出来る。セシリア様も白に近い金色だったのは知ってるな? ひとまず両親については私が調べよう」


------ 血が濃いと色が変わるの? どうして---- 禁止された子だから、両親がいないの? 私、捨てられてたの?


悪い考えばかりが、頭の中をぐるぐると回り出す。自分の視界が暗くなり、闇に落ちたかの様に何だか光が見えない。


闇で蹲る自分を見つめていると、私の身体は温かい体温に包まれた。


「シア、安心なさい。近親者の結婚は禁止されていますが、シアは悪くありません。それに---- シアが生きていてくれて私は嬉しいですよ。私の妹かも知れませんし、従兄妹だとしても同じ血筋。だから不安になるのはやめなさい」


「エルンの言う通りだよー、シアは家族なんだから。父様、そうですよね?」


「ああ、何も気にする事はない。シアは私達王家の子供だ、いるべき所に帰ってくればいい」


------ いるべき所に帰る---- 両親や自分の血に苦しくなるけど、帰ってくればいいって言葉に唯々嬉しい。


「な、何も分からない私なんかが、ここを家だと思って良いのですか? 礼儀とかも分からないし----」


「------ シア、遠慮するのもそうだが、私なんか等と言うな。孤児院で育ったから根付いた部分もあるだろうが、お前は王族だ。そういう卑下たような言葉を使うな。堂々とするがいい」


------ 確かに私、自分が誰よりも駄目だと思ってる。


親はいなかったし、自身の色を隠すようになってから他人に怯えるようになった。堂々としていいと言われても、どうして良いか分からないし、直ぐに自分を変えるのは難しい。


でも、自分を卑下して生きるのは終わりにしたい。


「そうだね、シア。今日はひとまず休んで、明日僕が色々と教えてあげよう」


「それでしたら私も付き合いましょう。シュウ一人だと不安ですからね」


「もう、エルンは心配性だなあ。シアも大丈夫?」


-------- 自分の気持ちちゃんと言わなきゃ。言葉にしないと伝わらない。


「殿下---- 私に色々と教えてくれますか? 私、変わりたい」


「ハハっ、したらまずは殿下って呼ぶのやめようよ。あと敬語も駄目」


「えっ---- 何て呼んだら---- いきなり敬語を取るのは難しいです」


「シア、それじゃ今のままだよ。変わりたいなら、まずは自身が王族だと--- 僕達の家族だとシアが受け入れないと、シアはまだ受け入れてないだろう? 受け入れてくれてるって思ってるんじゃない?」


------ そうだ。殿下の言う通り受け入れてくれてるって思ってる。それに---- 本当に、殿下を呼び捨てにしていいのか分からない。敬語を使うのも、申し訳ないと思っているからだ----


でも、分からないんじゃない。怖いだけだ。自分の怖さを相手に申し訳ないと思って、言い訳にしているだけ。


いつもそう、私は自分の怖さから逃げて来ていた。


皆の顔色を見て、自分の気持ちから逃げてる。騎士課に入った事だけは自分で決めたけど、それ以外は皆に任せて来た。


駄目だ------ セバスに教わった事、マリやカイが言う事も何も分かっていない。


私、今変わらないと駄目なんだ。マーサは生きろって言ってくれた。がむしゃらに頑張るだけでも、きっと駄目なんだ。


自分を認めなきゃ、生きるって言わない。このままだと、自分を殺してるのと一緒だ。


ギュッと自分の手を握りしめる。


強くなりたい。自分を認めて解放してあげたい。私は、私らしく生きていたい!


「分かった。---シュバルト、私に色々教えてくれる?」


殿下を真っ直ぐ見ながら言葉にすれば、殿下の表情は愉快そうに目を細めた。


ドキドキと胸が煩くなったが、殿下の視線から私はもう逃げない。


「シア、家族はね。シュウって僕を呼ぶんだよ?」


「------ シュウ。私に教えて?」


「良く出来ました」


殿下の言葉に、私は笑顔で返事を返した。





読んで頂き感謝です!

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